ベトナム政府が農林水産物の産地を国が一元管理する「全国トレーサビリティ制度」を、2026年7月1日から本格稼働させた。6月30日にハノイで開いた式典で、ホー・クオック・ズン副首相は「農業のデジタル化に向けた大きな一歩」と述べ、中国・EU・米国など主要輸出先での品質と評判を守る狙いを強調した(2026年6月30日報道)。上半期にドリアンで先行させた仕組みが、7月から品目を一気に広げる。日本の輸入業者や小売にとっては、これまで書類とヒアリングで確認していた原産地情報を、QRコードで直接たどれる環境が整いつつあるという意味を持つ。
ドリアンの半年間の試行から全国展開へ
制度の骨格は、農業環境省(MAE)が運営する公式ポータル「traceviet.mae.gov.vn」に、生産・加工・輸送・流通の各段階の記録を集約する点にある。消費者やバイヤーは、公安省が発行するQRコードを商品でスキャンすれば、その品目がどの農園で、どの生産区域で、どんな工程を経てきたかをたどれる。偽装品や産地の付け替えを防ぎ、輸出先の検査要求に応える基盤という位置づけだ。
2026年1月1日から6月30日までは、輸出向けドリアンに絞った試行期間だった。6社の輸出企業が参加し、基準を満たした出荷分に電子認証ラベルを付けて運用を検証した。実際に5月10日時点で、産地情報を完全に記録したドリアン3コンテナが中国へ輸出されている。半年の試行で「輸出出荷の追跡を効果的に支え、透明性を高めた」と評価されたことが、7月1日からの全国拡大を後押しした。
数字で見る制度の広がり
本格稼働の直前、6月12日時点で制度は全国34省市のうち26省市に広がっていた。登録されている品目は18,500件、カテゴリーは112分類にのぼり、149の企業が参加している。生産側では547の農家世帯、255の栽培区域がすでに紐づいている。ドリアン一品目の試行から始まった仕組みが、稼働前の段階で相当の裾野を持っていたことがわかる。
| 項目 | 数値(2026年6月12日時点) |
|---|---|
| 導入省市 | 26/全34省市 |
| 登録品目数 | 18,500件 |
| カテゴリー数 | 112分類 |
| 参加企業数 | 149社 |
| 参加農家世帯 | 547世帯 |
| 登録栽培区域 | 255区域 |
7月から広がる品目と参加企業
MAEは7月1日以降、対象をコメ、食肉、鶏卵、牛乳、パイナップル、パッションフルーツ、茶といった主要品目へ広げる方針を示している。参加が見込まれる企業には、種子大手のThaiBinh Seed、コメのLoc Troi、食品大手のMasan、畜産のDabacoといった名前が挙がる。ドリアンのような高付加価値の果物だけでなく、コメや畜産物、加工原料まで含めて「一度登録すれば何度も使える」形でデータを整備していく設計だ。副大臣ホアン・チュン氏はこの「一度の申告で多用途に使う」考え方を、データ重複を避け効率を最大化する原則として説明している。
この品目拡大は、単なる果物メディアの話にとどまらない。衛生基準の厳しい日本向けにゆで卵を初出荷した事例のように、ベトナム産の対日供給は加工品・畜産物へと広がっている。制度がコメや卵、乳製品まで対象を伸ばすことは、これらの品目でも産地情報を機械的に取り出せる土台ができることを意味する。
なぜ今、産地追跡が急がれるのか
制度がドリアンから始まった背景には、輸出の現実がある。ベトナム産ドリアンは輸出の約9割を中国が占める一方、その中国が残留物質などの検査を厳格化し、一時は通関の停滞や輸出量の落ち込みも生じた。産地と生産区域を明確に示せなければ、最大の市場で足止めを食う——この痛みが、国を挙げた追跡基盤への動きを加速させた。制度はGS1の国際標準やブロックチェーンを採用し、輸出先の税関やバイヤーが照合しやすい形を志向している。
裏を返せば、産地情報をきちんと出せる生産者と、出せない生産者の差が制度上はっきりする。日本のバイヤーにとっては、同じベトナム産でも「tracevietに登録済みか」が仕入れ判断の一つの軸になり得る。価格や品種だけでなく、追跡可能性そのものが調達の選別基準に組み込まれていく流れだ。ドリアンの相場や仕入れの読み方を見るうえでも、この制度対応の有無は今後の変数になる。
日本のバイヤー実務はどう変わるか
これまで日本側の原産地確認は、輸出者からの証明書、原産地申告、そして現地サプライヤーへのヒアリングを組み合わせるのが実務の中心だった。国営の追跡ポータルが機能すれば、この確認プロセスに三つの実務的な変化が生まれる。
第一に、原産地の一次確認をQRで自走できる。商談時にサンプルのQRを読み、農園・生産区域・工程が公的ポータルに登録されているかをその場で見られれば、書類到着を待たずに候補を絞り込める。第二に、監査・トレースバック対応のコストが下がる。輸入食品で問題が起きた際の遡及調査は従来、輸出者を介した往復に時間を要したが、生産区域単位で記録が残っていれば影響範囲の特定が速くなる。第三に、調達先の選別軸が一つ増える。「登録済みか」「どの段階まで記録が残っているか」を仕入れ基準に加えることで、供給の安定性やコンプライアンス対応力を事前に見極めやすくなる。
一方で、日本の実務者が今すぐ全面依存するのは早い。制度は稼働初期で、品目・企業のカバー率はこれから積み上がる段階にある。ポータルの記載は英語・日本語での可読性や、日本の輸入手続きが求める証明との整合という現実的な論点も残る。当面は従来の証明書とQR照合を併用し、「登録の有無」を加点材料として使うのが現実的だ。中国向けの検査厳格化が制度整備の引き金になった経緯を踏まえれば、対日でも同じ流れ——追跡可能性が取引条件に組み込まれる方向——は十分に見込める。
調達戦略への示唆
制度の本命は輸出市場での信頼確保にある。中国が突出して大きい構造は当面変わらないが、日本のように高品質・高鮮度を求める市場では、追跡可能性は価格プレミアムを説明する材料にもなる。産地区域まで記録された商品は、店頭で「どこの、誰が作ったか」を語れる。水産で見られた中国シフトと日本の調達の綱引きと同じく、追跡基盤の整備は「どの市場に、どの品質帯で売るか」という産地側の戦略とも直結する。
日本の輸入・小売にとっての実務的な打ち手は明快だ。取引中・検討中のベトナム産サプライヤーに、traceviet登録の状況と対象品目を確認する。登録済みなら生産区域コードを取引記録に残し、未登録なら今後の対応予定を聞く。この一手間が、制度が本格的に定着したときの調達先の質を左右する。ドリアンで始まった一枚のQRコードは、産地確認の作法そのものを書き換えつつある。
参照元
Tuoi Tre News: Vietnam launches national farm produce traceability system, pilots durian tracking
VietnamPlus: Agricultural traceability system expands to 26 provinces, cities