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越ティラピア輸出の54%が向かうブラジルの禁止法案と市場分散の一手

ブラジルの下院農業委員会(CAPADR)が、ティラピアとその加工品の輸入を全面禁止する法案「PL 6.331/2025」を審議している。これはベトナムの水産業にとって小さくない揺さぶりだ。ベトナム産ティラピアの対ブラジル輸出は2026年に急伸し、1〜5月だけで輸出全体の約54%を1国に集めていたためである。日本の水産バイヤーや商社にとっても、供給と価格が動きうる原料だけに他人事ではない。ベトナム水産協会(VASEP)副会長のファム・アイン・トゥアン博士は、この一件を「品質を軸に米・EU・日本・中東へ市場を広げる契機」と位置づける。以下、数字と背景を裏取りしたうえで、日本の調達側が何を見るべきかを整理する。

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ブラジル向けは1〜5月で約3,400万ドル、わずか2年で200倍超に膨らんだ

対ブラジル輸出の伸び方は極端だった。2024年は約14.8万ドルにすぎなかったものが、2025年に約1,100万ドル、2026年は1〜5月だけで約3,400万ドルに達した(数値は現地報道ベース、1ドル≒155円は概算)。この結果、ブラジル1国がベトナム産ティラピア輸出額の約54%を占めるまでになった。SeafoodSourceは1〜6月の対ブラジル輸出を約4,100万ドルと伝えており、集計期間の差はあるものの「輸出の半分がブラジル」という構図は複数ソースで一致する。

市場 2024年 2025年 2026年(年前半)
ブラジル向け 約14.8万ドル 約1,100万ドル 約3,400万ドル(1〜5月)
ティラピア輸出全体 約6,200万ドル(1〜5月・前年の2倍超)
日本向け 約140万ドル(1〜6月・前年同期比+54%)

数字を一つずつ見ると、ブラジルという新市場の急拡大が全体の伸びを牽引した一方、その集中こそが今回の脆さの正体だと分かる。輸出額の半分を、法案一つで消えうる相手に預けていた状態である。

法案6.331は健康リスクを名目にしつつ、実態は国内養殖業の保護に寄っている

ブラジルの動きは今回が初めてではない。2024年にはティラピアレイクウイルス(TiLV)への懸念を理由に一度輸入を停止し、2025年初頭に解除したものの、同年サンタカタリーナ州が州レベルで再び禁止に踏み切った。パラナ、ミナスジェライス、サンパウロなど複数の州でも制限的な措置が検討されている。表向きは防疫だが、輸入品の急増に押される国内ティラピア養殖業者の内需保護という側面が濃い。ベトナム側の輸出企業は政府に早期介入を求めており、業界には強い危機感が走った(SeafoodSource報道)。防疫と産業保護が混ざり合うこの構図は、相手国の政治日程しだいで供給が止まりうることを意味する。

トゥアン博士は「まだ余地がある」米・EU・日本・中東への分け直しを説く

元水産総局副局長でもあるファム・アイン・トゥアン博士の見立ては前向きだ。博士は米国、EU、日本、そして一部の中東市場を挙げ、これらの地域には「まだ多くの余地が残る」として、国際基準を満たせる企業が品質で勝負すれば分散は十分可能だと述べる。裏を返せば、ブラジル向けで通用した価格帯や規格が、そのまま日本や欧米で通じるわけではないということでもある。TiLVを含む防疫、種苗の品質、養殖から加工までのトレーサビリティ——値段より先に問われるのはこの積み上げだ。ベトナムがすでに原料輸出から加工へと付加価値化を進めている流れは、この分散論と地続きにある。一国依存の反省は、実は「どこに売るか」より「どう作り込むか」の問題として立ち上がってくる。

日本向けは半年で約140万ドル、刺身フィレが前年比54%増で伸びている

分散先として名指しされた日本では、越ティラピアはすでに助走に入っている。2026年1〜6月の日本向け輸出額は前年同期比54%増の約140万ドル(約2億3,000万円)。ここでの「54%」はブラジル依存度とは別物で、日本市場の成長率を指す点に注意したい。カントー市の加工会社ベトナム・クリーン・シーフードが2026年7月に寿司・刺身用のフィレを日本へ初出荷したことが象徴的で、2026年1〜5月のティラピア輸出全体は約6,200万ドルと前年の2倍を超えた。ブラジルという逆風と、日本という追い風が同時に吹いているのが今の局面だ。回転寿司や刺身という単価の高い用途へ軸足を移す動きは、量頼みだったブラジル向けとは対照的である。

日本の調達側は「短期の値ごろ」と「産地の分散耐性」を分けて見るべきだ

ここからは日本の水産バイヤー・食品メーカー向けの実務的な見立てである。第一に、ブラジル向けが目詰まりすれば、行き場を失った物量が日本や欧米へ回り、短期的にフィレの値ごろ感が出る可能性がある。ただしこれは一時的な需給の話で、恒常的な安値とは切り分けたい。第二に、より重要なのは供給元の「分散耐性」だ。1国に半分を預けていた輸出構造は、日本のバイヤーから見れば供給リスクそのものである。契約する加工会社が仕向け地をどれだけ分散しているか、TiLV対応や種苗管理の記録を出せるかは、価格交渉の前に確認する価値がある。ベトナム水産は中国という単一市場への集中でも似た揺れを経験しているだけに、「安いから」ではなく「切れないから」で選ぶ視点が要る。ブラジルの一件は、越ティラピアの品質と分散体制を日本側が見極める、ちょうどよい試薬になっている。

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この記事を書いた人

京都で食品ブランドを運営しながら、これまで乾燥野菜や野菜パウダーなど、素材の魅力を活かした商品づくりに携わってきました。現在はベトナム在住2年目で、現地ではコーヒーの生産現場にも関わり、栽培から加工、味づくりまで一貫して学んでいます。毎日の暮らしの中で、安心して楽しめる食品を届けたいという思いから、生産背景や作り手の顔が見える商品を大切にしています。日本とベトナム、それぞれの食文化の魅力を活かしながら、日常にちょっとした豊かさを届けることを目指しています。

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