ベトナム水産の輸出地図が、上半期で塗り替わった。長らく最大の買い手だった米国を中国が抜き、2026年1〜6月の対中輸出は約14億ドルに達したとされる。日本は約7.9億ドルで、米国に次ぐ3位につけている。近さと決済の速さを武器に中国が「最初の買い手」になっていくこの動きは、ベトナム産のエビやパンガシウスを仕入れる日本の食品バイヤーにとって、調達の組み立てを見直す合図になる。3位という位置から、日本は何を仕込むべきか。
米国を抜いた中国、上半期で最大市場へ
ベトナム水産物加工輸出協会(VASEP)や現地報道によると、2026年上半期のベトナム水産輸出総額は約57億ドルで、前年同期比11.4%増だったとされる。その内訳で目を引くのが仕向け先の順位変動だ。対中輸出が前年同期比約40%増の約14億ドルへ跳ね上がり、微減の米国(約8.98億ドル)を抜いて首位に立った。日本は約2%増の約7.9億ドルで、米国に次ぐ3位となっている。
数字だけ見れば日本も小幅に伸びている。だが中国の増勢が突出しているため、相対的な存在感は薄まった。ベトナムにとって最大の顧客が誰かで、産地の出荷の優先順位も変わってくる。日本が「安定した3番手の常連客」に落ち着くのか、それとも別の価値で選ばれ続けるのか。ここで打ち手が分かれる。
なぜ中国がここまで買うのか
現地の輸出企業は、中国が選ばれる理由を三つ挙げている。地理的な近さ、物流コストの低さ、そして代金回収の速さだ。国境を接する中国へはトラックや近海航路で短時間・低コストで運べ、活魚や鮮度重視の品目ほど有利になる。ナムベト社の担当者は、近接性と回収の速さが中国を「より魅力的な仕向け先」にしていると語ったとされる。
もう一つの押し上げ要因が、米国・欧州市場の障壁だ。VASEPの担当者は、米欧が貿易上のハードルを高めたため、輸出企業が中国へ主体的にシフトしたと説明している。具体的には、マグロ製品に絡む海洋哺乳類保護法(MMPA)の煩雑な手続き、エビにかかる高いアンチダンピング関税、そして関税を見越した先行出荷による在庫積み上がりだ。米国向けの不確実性が増したぶん、企業が「読める市場」へ荷を振り向けた構図といえる。
数字で見る上半期の仕向け先
| 仕向け先 | 輸出額(2026上半期) | 前年同期比 | 順位 |
|---|---|---|---|
| 中国 | 約14億ドル | 約+40% | 1位(前年2位) |
| 米国 | 約8.98億ドル | 約-1% | 2位(前年1位) |
| 日本 | 約7.9億ドル | 約+2% | 3位 |
| 韓国 | 約4.19億ドル | 約+9% | 4位 |
| ASEAN | 約3.8億ドル | 約+16% | – |
数値はVASEPおよび現地報道による上半期速報値。1ドル=約158円(2026年7月時点)換算で、対中輸出の約14億ドルは約2,200億円規模にあたる。
品目別では、エビが約23億ドル(前年同期比13.6%増)で総額の4割超を占め、パンガシウス(ナマズ)が約11億ドル(同12.1%増)で続いたとされる。エビの伸びは中国需要の強さと重なる。活ロブスターの対中輸出が年10億ドル規模へ迫る動き(活ロブスターが10億ドルに迫る、中国が変えた越水産の稼ぎ方)と合わせて読むと、単一品目の話ではなく、水産全体で中国が「最初に買う市場」になりつつある。
順位の裏で起きていること
この順位変動を、日本にとっての「後退」とだけ受け取るのは早い。三つの角度で整理したい。
- 米国の減少は日本の負けではない:米国の微減は関税・規制という制度要因が大きく、日本市場の魅力が落ちたわけではない。日本向けは小幅ながらプラスを保っている。
- 中国は「量とスピード」の市場:活魚・鮮度重視・大ロットが中国の強みで、日本が求める衛生基準や規格・少量多品目のニーズとは競合しきらない。買い方が違う。
- 産地の価格は中国が作り始める:最大の買い手が中国になると、エビやロブスターの現地相場は中国需要で動く。日本のバイヤーは「中国が付ける値段」を前提に調達計画を組む必要が出てくる。
日本の調達は3位から何を仕込むか
存在感で中国に並ぶ必要はない。日本が取るべきは、量で競わず「選ばれ続ける買い手」になる設計だ。第一に、スポット依存から長期契約・複数年の取り決めへ軸足を移すこと。中国が近接性と回収の速さで先に買っていく市場では、価格が動く前に数量と時期を押さえた側が強い。
第二に、加工・付加価値の領域で組むことだ。ベトナム側も量産一辺倒からの脱却を模索しており、パンガシウスを一次加工品として売る動き(越パンガシウスが量産をやめる日、加工品が拓く日本の調達戦略)が始まっている。日本の外食・小売が求める規格に合わせた加工を現地と共同で設計すれば、中国の「活・大ロット」需要とは別の棚を確保できる。
第三に、日本が持つ品質・安全基準そのものを交渉材料にすることだ。ベトナム側にとって、厳しい基準をクリアした「対日輸出実績」は米欧向けの信頼にもつながる。ホタテのように日本が最大の買い手として加工ハブ化を後押しする例(越ホタテが日本最大の買い手に、加工ハブ化が開く調達の新ルート)は、量ではなく関係の深さで産地に食い込むモデルの参考になる。
市場全体への波及
中国が最大市場になったことで、ベトナム水産は「一つの大口顧客への集中」というリスクも抱える。中国の輸入政策や検疫方針が変われば、大量の荷が行き場を失いかねない。その時、安定して買い続けてきた日本や韓国、ASEANの存在が産地にとっての保険になる。日本にとっては、平時に地道な取引関係を積んでおくことが、産地の供給変動局面で優先的に回してもらう布石になる。
VASEPは今後の懸念として、強制労働に関する規制強化や輸入枠(クオータ)導入の可能性を挙げているとされる。米国向けの不確実性が続くほど、ベトナムは仕向け先の分散を進める。米中に次ぐ「読める第三の市場」として日本が位置を固められるかどうかが、中期の調達安定を左右する。
チェックしておきたい要点
| 起きたこと | 2026上半期、中国が米国を抜きベトナム水産の最大市場に。日本は3位 |
|---|---|
| 対中輸出 | 約14億ドル(前年同期比約40%増) |
| 日本向け | 約7.9億ドル(同約2%増)。額は伸長も順位は後退 |
| 中国が伸びた理由 | 近接性・低物流コスト・代金回収の速さ+米欧の貿易障壁 |
| 主力品目 | エビ約23億ドル(総額の4割超)、パンガシウス約11億ドル |
| 日本の打ち手 | 長期契約への移行/加工・付加価値での協業/品質基準を武器に関係深化 |
まとめ
中国が最大市場になった事実は、日本のバイヤーにとって「値段とスピードの土俵で追う」合図ではない。むしろ、量で競わない調達へ切り替える契機だ。まずは主要品目の現地相場が中国需要でどう動いているかを月次で追い、スポット中心の仕入れを長期・複数年の枠へ組み替える検討から始めたい。加工協業や品質基準を軸にした関係づくりで、産地にとって「3位でも外せない買い手」の位置を取りにいく。量ではなく中身で選ばれる調達へ、いま舵を切っておきたい。