ベトナムの水産輸出が、原料と半加工品を海の向こうへ流すだけの商売から抜け出そうとしている。業界団体VASEP(ベトナム水産物輸出加工協会)は2026年7月、原料や半加工のまま売るのをやめ、加工・包装・ブランド化した商品に仕立てれば、その商品価値は原料で輸出したときの2〜3倍にもなりうるとの見解を示した。ベトナムから水産物を買う日本の輸入事業者にとって、これは単なる現地の景気の話ではない。2026年上半期、日本はベトナム産水産物の最大の買い手の座を中国に明け渡した。原料を安く取り合う発想だけでなく、ベトナムが加工まで仕上げた商品を仕入れる発想を持つ余地が、ここにきて広がっている。
VASEPが描く「原料から商品へ」の転換
VASEPの主張の核は、輸出額の伸びを漁獲量や養殖量ではなく、一つひとつの商品に上乗せする付加価値で作り直すという発想だ。冷凍フィレや丸もののまま売れば、価格は国際相場に張り付き、原料費・物流費・人件費・エネルギー費・認証対応コストの上昇にそのまま利益を削られる。これに対し、調理済み食品への加工やブランド化、トレーサビリティへの投資を進めれば、原料のまま出すより高い単価で売れる余地が生まれる——というのが協会の描く筋書きである。「2〜3倍」は、水産輸出全体が倍増するという見通しではなく、付加価値化した商品が原料輸出比でそれだけの価値を持ちうるという、あくまで協会が掲げる潜在値・目標である点は押さえておきたい。
数字が示す潮目——中国が最大の買い手に
VASEPの上半期集計によると、2026年上半期のベトナム水産輸出は総額で約58億ドル(1ドル=約158円換算で約9,200億円)、前年同期比12.8%増と伸びた。ただし伸びの中身は市場ごとに大きく割れている。中国・香港向けが約15億ドル(約2,370億円)と37.9%も伸びて全体の25.8%を占め、これまで首位だった米国を抜いて最大市場になった。米国向けは上半期で約8.98億ドル(約1,418億円)とほぼ横ばい、そして日本向けは約7.88億ドル(約1,244億円)で前年比わずか0.7%増にとどまった。円安と国内消費の弱さが、日本の買う力を鈍らせている。
| 市場 | 2026年上半期の輸入額 | 前年同期比 |
|---|---|---|
| 中国・香港 | 約15億ドル(約2,370億円) | +37.9% |
| 米国 | 約8.98億ドル(約1,418億円) | ほぼ横ばい |
| 日本 | 約7.88億ドル(約1,244億円) | +0.7% |
| ベトナム全体 | 約58億ドル(約9,200億円) | +12.8% |
1ドル=約158円で換算(2026年7月時点の概算)。金額はVASEPの2026年上半期集計による。
なぜ「加工」が突破口として語られるのか
丸ものや冷凍フィレは、どこの国が作っても品質差が出にくく、最後は価格勝負になりやすい。中国向けの伸びはエビやパンガシウス、活・冷凍品が中心で、原料から一次加工までの比重が大きい。日本が同じ土俵で量と価格を競えば、円安のぶんだけ不利に働く。VASEPが付加価値品を強調する背景には、価格競争の激しい原料・一次加工の領域だけに頼らず、調理済み・味付け・小分けといった「手のかかった商品」で単価と利幅を作り直そうという狙いがある。ベトナムはこの上半期、主力のパンガシウスだけでも約11億ドル(前年比12.1%増、輸出全体の19.4%)を稼いでおり、この巨大な原料基盤を加工品へどこまで振り向けられるかが、2026年通年で協会が掲げる120億ドル(8〜10%成長)の目標を左右する。
日本の調達にとっての読みどころ
ここが日本の輸入事業者にとって考えどころだ。原料の丸ものやフィレを安く大量に確保する戦い方は、中国が最大の買い手になった今、以前より分が悪い。加えて国内の水産加工は人手不足と加工賃の上昇が続き、原料を仕入れて自社で下処理・加工する負担は年々重くなっている。この状況では、原料を持ち込んで国内で仕上げるより、ベトナム側で加工まで終えた商品を仕入れる選択肢の比重が増している。VASEPが進めたい「付加価値品への転換」と、日本が抱える「加工の手間を減らしたい」という事情は、重なる部分が小さくない。パンガシウス単体でこの流れを追った動きは越パンガシウスが量産をやめる日、加工品が拓く日本の調達戦略で、日本とベトナムが原料と技術を双方向で回し始めた段階は日本が買うだけの時代は終わる、日越水産が原料を回し合う段階へで扱っているが、VASEPの今回の見解は、それが特定の魚種にとどまらず水産業全体の方針として掲げられた点に新しさがある。
波及——供給が中国に流れるリスクと日本の一手
楽観だけはできない。付加価値化は日本にとって好機になりうる一方、ベトナムの供給余力が単価の高い中国市場へ吸い寄せられれば、日本の安定調達は細るおそれもある。活ロブスターが中国需要で稼ぎ方を変えた事例(活ロブスターが10億ドルに迫る、中国が変えた越水産の稼ぎ方)は、単価の高い買い手が現れると供給の向きが動くことを示している。だからこそ日本側の一手は、価格の追随ではなく、加工の設計を早く握ることになりそうだ。求める規格・味付け・包装・トレーサビリティを早い段階でベトナムの加工場と詰め、共同開発の形で商品を作り込む。原料を奪い合う相手ではなく、加工品を一緒に作る相手として関係を結び直せれば、中国の価格攻勢とは別の軸で仕入れを確保しやすくなる。
調達側が今おさえたい論点
| VASEPの見解 | 加工・ブランド化した商品は原料輸出比で価値が2〜3倍になりうる(協会の目標値) |
|---|---|
| 2026年上半期の実績 | 総額約58億ドル・前年比12.8%増。中国が米国を抜き最大市場に |
| 日本の位置 | 約7.88億ドル・前年比+0.7%。円安と消費停滞で買う力が鈍化 |
| 調達で考えたい点 | 原料の取り合いに加え、加工済み商品の共同開発・仕入れという選択肢 |
| 握りたい項目 | 規格・味付け・小分け包装・トレーサビリティを加工場と早期に合意 |
まとめ——原料バイヤーから商品パートナーへ
VASEPの見解は、ベトナム水産が原料の量売りから商品づくりへ舵を切ろうとしていることの表れだ。日本の輸入事業者には、脅威と好機が背中合わせで届く。中国が最大の買い手になり、国内の加工負担も重いなかでは、原料を競り落とす戦い方だけでなく、ベトナムで加工まで終えた商品を仕入れる道を並行して検討したい。まずは取引先の加工場に、自社が求める規格・味付け・包装を具体的に投げてみることだ。原料バイヤーとして値を競う立場から、加工品を一緒に設計するパートナーへ——ベトナム側の方針転換を、日本の調達を組み替える契機として使いたい。