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カマウのエビ農家、低密度TLSSで3期連続黒字・年約1,800万円

ベトナム南端のカマウ省で、エビ養殖歴13年のフイン・ウット・ニョ氏が、収量を最大化しない「低密度・水処理重視」の飼い方で3期連続の黒字を確保し、2025年の家族全体の利益は約30億ドン(3 tỷ đồng、1円≒170VNDで約1,760万円、約12万米ドル)に達した。相場が荒れた年でも数字が崩れなかったこの安定性は、対越エビ調達で「量」より「切れないこと」を重視する日本の輸入業者・商社にとって、産地を選ぶ物差しを見直す材料になる。

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フイン・ウット・ニョ氏は4池・3haで密度を抑え、年30億ドンを残した

舞台はカマウ省タンフンドン(Tân Hưng Đông)。ニョ氏の養殖場は4つの池で総面積3ヘクタール超、初期投資は20億ドン超(2 tỷ đồng、約1,180万円)という中規模の家族経営だ。特徴は、池の面積を稼ぐより先に水を整える設計に振り切っている点にある。1回のサイクルでサイズ17尾/kgの大型に振れた作では8〜9億ドン(約470〜530万円)の利益が出るが、すべての作がそこまで伸びるわけではない。この大型作と平均的な作を4池・年3作で積み上げ、2025年は家族全体で約30億ドンを残した。

ベトナムのエビ養殖は、1平方メートルあたり200〜300尾を詰め込む高密度・高回転が一般的で、当たれば大きいが病害で全滅すれば投資ごと消える。ニョ氏が選んだのは逆の発想で、密度を落として1池あたりの上限利益を下げる代わりに、失敗する年をなくす方に賭けている。調達側から見て価値があるのは、この「上限は控えめでも下限が読める」構造そのものだ。

TLSSモデルは養殖池ではなく貯水池と水処理に面積を割く

ニョ氏が採用するのは、飼料・技術系のロンタン(Long Thăng)が提唱するTLSSモデルと呼ばれる方式だ。従来型が敷地の大半を養殖池に充てるのに対し、TLSSは貯水池(ao chứa)と沈殿・浄化池(ao lắng)に優先して面積を配分する。元記事はこの違いを「従来モデルが養殖池に大部分を割くのに対し、TLSSは貯水と水処理に面積を優先する」と説明している。

水を先に用意しておく発想は、地味だが供給の途切れにくさに直結する。池の水質が崩れた時、すぐ交換できる処理済みの水を常に手元に持っているかどうかで、緊急出荷や部分収穫の判断が変わる。ニョ氏は溶存酸素・有害物質・藻類の状態を毎日見て、換水を第一手、次いで曝気強化、さらに有用微生物(vi sinh)投入という順で対処する。薬で叩くより先に環境を整える運用で、投薬コストと薬剤残留の両方を抑えている。

稚エビ600尾/m²から100〜120尾/m²へ、二段養殖がEHPの被害を抑える

飼い方は二段構えだ。まず育成池(ương/gièo)で稚エビを約600尾/m²の高密度で30〜40日育て、状態を見極めてから本養殖池に移して100〜120尾/m²まで落とす。全量を最初から本池に入れず、生き残りを確認してから資源を投じるため、一部が病気でも被害を局所化できる。

低密度に踏み切った直接の理由は、微胞子虫EHP(肝膵臓の成長阻害を起こす)の流行で痛手を負った経験にある。ニョ氏は「疎放養は環境負荷を下げ、病気を抑え、薬代を減らす」と語る。密度を下げれば1池の水質が安定し、病原体が広がる速度も落ちる。結果としてFCR(飼料要求率)は1.3〜1.35、良い作では1.1まで下がり、飼料コストの面でも高密度型に見劣りしない水準を保っている。

FCR1.3前後・17〜20尾/kgという数字は、日本の調達担当が読むべき安定シグナル

日本の水産バイヤーが対越エビで最も嫌うのは、価格そのものより「約束したサイズと量が、約束した週に届かない」ことだ。加工・外食の現場は歩留まりと規格が命で、17尾/kgと20尾/kgが混在したり、収穫が病害で前後したりすると、原価も棚割りも崩れる。ニョ氏の数字が示すのは、サイズを17〜20尾/kgの大型でそろえ、3作連続で読める生産を回せているという再現性だ。

この視点は、同じカマウで進む別の動きとも重なる。EUとNGOが42ヶ月かけて検証するカマウの「低排出エビ」が調達の証明になるかという取り組みは、環境性能を輸出の信用に変えようとする流れで、TLSSの水処理重視はその素地になり得る。土地の使い方で価値を伸ばす発想は、タインホアの稲田でオニテナガエビを混養し土地の価値を1.5〜3倍にした事例とも方向が近い。日本向けの実需では、ティラピアを刺身用フィレで初出荷したVietnam Clean Seafoodの動きのように、規格と品質を約束できる生産者が選ばれ始めている。

カマウ産エビの対日調達で、量より先に確認したい3つの条件

ニョ氏の事例を調達の物差しに落とすと、産地・農場を選ぶ際に見るべき点が具体的になる。下表は、従来の高密度モデルとTLSS型の低密度モデルを、日本のバイヤーが気にする項目で並べたものだ。

比較項目 従来の高密度モデル TLSS型(低密度・水処理重視)
放養密度(本池) 200〜300尾/m²前後 100〜120尾/m²
敷地の使い方 養殖池を最大化 貯水池・浄化池を優先確保
病害・全滅リスク 高い(当たれば大/外せば全損) 低い(二段養殖で被害を局所化)
供給の安定性 作ごとにブレやすい 3作連続で読める
サイズの均一性 ばらつきやすい 17〜20尾/kgでそろう

実務では、次の3点を産地ヒアリングで確認したい。第一に、敷地に対する貯水池・浄化池の割合。ここが薄い農場は、水質トラブル時に出荷が止まりやすい。第二に、過去3作の生残率とサイズ分布の実績。単発のベストではなく、連続でそろえられているかを見る。第三に、EHPなど主要病害への対処履歴と投薬記録で、薬に頼らず環境で抑えているかがトレーサビリティの信頼につながる。価格交渉の前にこの3条件をそろえた農場を候補に残すことで、欠品や規格外による隠れコストを先に潰せる。為替が円安に振れる局面ほど、単価の安さより供給の切れなさが調達の実質利益を左右する。

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この記事を書いた人

京都で食品ブランドを運営しながら、これまで乾燥野菜や野菜パウダーなど、素材の魅力を活かした商品づくりに携わってきました。現在はベトナム在住2年目で、現地ではコーヒーの生産現場にも関わり、栽培から加工、味づくりまで一貫して学んでいます。毎日の暮らしの中で、安心して楽しめる食品を届けたいという思いから、生産背景や作り手の顔が見える商品を大切にしています。日本とベトナム、それぞれの食文化の魅力を活かしながら、日常にちょっとした豊かさを届けることを目指しています。

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