中国産の冷凍イカが、EU市場で急速に存在感を失っている。ベトナム水産物輸出加工協会(VASEP)が7月28日に伝えたところでは、2026年上半期の中国の対EU冷凍イカ輸出は1万9,690トンにとどまり、前年同期から49.4%減った。EU域内の冷凍イカ輸入に占める中国のシェアは28.1%から14.2%へ半減している。最大の供給国が退いた欧州の棚に、いま空席ができている。この隙間を、ベトナムの頭足類がどこまで拾えるか。国産乾燥品や加工原料を扱う立場から見ても、競合国の後退は調達地図の描き直しにつながる。
ペルーが47.5%増でインドを抜き首位、供給の重心が中南米へ移る
VASEPが引くEUの統計では、上半期のEUの冷凍イカ総輸入は15万2,273トンで、前年から21.2%減った。この落ち込みの主因が中国の供給減だ。中国一国が1万トン規模で引くと、EU全体の輸入量が2割縮む——それだけ中国は欧州のイカ供給の柱だった。空いた分を埋めたのがペルーである。上半期のEU向けは4万8,591トンで47.5%増え、インドを抜いて首位に立った。ペルー・インド・モロッコの上位3か国が、いまやEUの冷凍イカ輸入の約65%を握る。供給の重心が、中国から中南米・南アジア・北アフリカへ移りつつある。
中国19,690トン・-49.4%、EU総輸入も21.2%減で棚に余白が残る
| 項目 | 2026年上半期 | 前年同期比 |
|---|---|---|
| 中国の対EU冷凍イカ輸出 | 1万9,690トン | -49.4% |
| EUの冷凍イカ総輸入 | 15万2,273トン | -21.2% |
| ペルーの対EU輸出 | 4万8,591トン | +47.5% |
| 中国のEUシェア | 14.2%(前年28.1%) | ほぼ半減 |
ペルーが約1万6,000トン積み増しても、EU全体では2割減が埋まっていない。つまり欧州の棚には、まだ吸収されていない需要が残っている。この余白が、後発の供給国にとっての入口になる。
越イカ・タコ輸出は上半期+18.8%、ただし主戦場はまだ韓国
ベトナムの頭足類輸出は回復基調にある。VASEP系の集計では、2026年上半期のイカ・タコ輸出は累計3億8,020万ドル(1USD≈157円換算で約597億円)で、前年から18.8%増えた。6月単月は7,790万ドルの26.5%増と、伸びが加速している。品目別では、年初の2か月時点でイカが約30%増、タコが16%超増と、イカの伸びが目立つ。ただし主戦場はアジアだ。最大市場は韓国で、上半期に約4,200万ドル・23%増。EU向けは5か月で約1,500万ドル・11%増と、金額はまだ小さい。中国が空けた欧州の棚を、ベトナムはこれから取りにいく段階にある。年間7億ドル(約1,099億円)を狙う協会の目標に照らせば、EUの隙間は伸びしろそのものだ。
ペルーは量で、ベトナムは加工度で欧州の棚に差し込む
供給国の反応は割れている。ペルーは自国近海で大型イカを獲る原料型の供給国で、価格と量で真っ先に空席を埋め首位を奪った。対して中国は、原料を輸入して加工・再輸出する比重が大きく、加工賃と規制対応のコストが上がると価格競争力を失いやすい。中国のEU向けが半減した局面は、原料型の国が量で押す一方、加工型の国は条件次第で揺れることを映している。ベトナムは、韓国・日本というアジアの太い需要を土台にしながらEUを増分として取りにいく構えだ。VASEPは原料のまま出すのではなく加工で付加価値を乗せる方向を繰り返し示しており、原料輸出から加工への転換を促すVASEPの発信は、この欧州の隙間戦にも重なる。ペルーが量で埋めた棚に、ベトナムは加工度で差し込む——同じ隙間でも攻め口が違う。
中国のEU後退が、日本の需給と越産の取り合いに二重で効く
この構図は日本の買い手にも二つの形で効いてくる。ひとつは価格だ。中国がEUで量を落とせば、その原料や加工品はアジア市場に回りやすくなり、日本向けの冷凍イカ・加工品の需給と価格にじわりと影響する可能性がある。もうひとつは競合の激化だ。ベトナムがEU向けを増やせば、日本と欧州が同じベトナム産の枠を取り合う場面が増える。日本の調達が価格だけで競れば、伸びる欧州需要に押し出される側になりかねない。米国を抜いて中国が越水産の最大市場になった流れのなかで、日本は上位を占めつつも一強ではなく、頭足類でも韓国が最大市場という現実がある。越産イカ・タコを安定して押さえたいなら、スポットの数量買いより、加工仕様と規格を握った継続契約で産地と結ぶ動きが要る。6月単月が26.5%増と伸びが速まっている局面は、産地の生産・加工が上向いている合図だ。需要が世界で立ち上がる前に仕込むほど、価格と数量の条件は取りやすい。
取引先のEU引き合いと中国産の流通ルートを確認する
競合国の後退を機会に読み替えるなら、確認すべきは三点だ。第一に、取引のあるベトナム加工業者が、EU向けの引き合いをどれだけ抱えているか。欧州に流れが向けば、日本向けの優先度と価格に跳ね返る。第二に、中国産冷凍イカの流通ルートの変化。EUで行き場を失った玉がアジアに回るなら、原料相場の目安が動く。第三に、加工度で差をつける発想だ。EUが吸収しきれない需要は、素材ではなく加工品の余白でもある。EU向けで信用を積んだカマウの低排出エビのように、記録と認証で欧州基準を満たした産地を、日本側も早めに押さえておく価値がある。中国が空けた棚は、越の頭足類にとっての機会であると同時に、日本の調達が競争の質を上げる合図でもある。