稲を植えた田にオニテナガエビ(tôm càng xanh)を放す養殖が、タインホア省チュオンヴァンで同じ土地の価値を数倍に押し上げている。2026年7月24日付のNong nghiep Moi truong(農業環境紙)が、この稲+大型淡水エビの有機混養を伝えた。無農薬で育てるため化学物質に頼らず、どこで何を撒いたかを追いやすい。日本の調達・輸入バイヤーにとっては、トレーサビリティを求めるプレミアム帯の淡水エビ供給元として、この産地が候補になるかという話だ。
稲がエビの日よけになり、エビが害虫を食べて有機肥料を落とす
主役は、チュオンヴァン・コミューンのチュオンタイン村で養殖に取り組むゴー・クアック・タオ氏。70歳近い同氏は、この地にオニテナガエビを持ち込んだ先駆者の一人で、およそ30年をこの種に注いできた。舞台は3ヘクタール以上の低湿地の水田だ。稲は農薬なしでも害虫を抑えられ、エビは水草やプランクトンを餌に低コストで育つ。稲がエビの日よけになり、エビが天敵を減らし有機肥料を供給する——この共生が、無農薬でも成り立つ養殖の土台になっている。もともと水がたまりやすく稲一本では稼ぎにくかった低湿地に大型淡水エビを重ねることで、同じ面積から米とエビの二つの収入が出る。稲の有機栽培とエビ養殖が互いの前提になっており、片方だけを切り出せない設計だ。
大型エビは50〜60万ドン/kg、1万尾放流で利益1億ドン超
| 指標 | 数値 | 円換算の目安 |
|---|---|---|
| 養殖面積 | 3 ha 以上 | — |
| 大型エビ価格(3〜5尾/kg) | 50〜60万 VND/kg | 約2,900〜3,500円/kg |
| 小型エビ価格 | 30〜40万 VND/kg | 約1,800〜2,400円/kg |
| 推定利益(1万尾放流時) | 1億 VND 超/回 | 約59万円超 |
| 土地当たり価値 | 従来比 1.5〜3倍 | — |
| 採算ライン(生存率) | 約30%以上 | — |
円換算は目安レート(1円≈170ベトナムドン)による概算で、相場変動で振れる。価格・利益・生存率はいずれも一次記事の数値をそのまま用いた。餌代がかからず病気も少ないため、化学資材への依存を下げながら採算に乗せられる。
30年続けた先駆者が示す、低湿地でも定着する形
タオ氏の30年は、これが一過性の流行ではなく低湿地で長く続けられる形として定着しつつあることを示す。技術面では、稲とエビの相互補完で農薬・餌のコストを抑える点が評価され、他の低湿地への横展開が期待されている。同じタインホアでは、農薬を撒く日は水を抜いてエビを守るという運用で稲とエビを両立させる別の稲+エビの現場も報じられており、混養は省内で複数の担い手に広がっている。ひとつの池に複数種を混ぜて年商を伸ばすフエの潟湖養殖のように、ひとつの水面から複数の収入を取る発想は、ベトナムの水産の底流になりつつある。
無農薬・トレーサブルは、プレミアム帯の少量調達で効く
日本の水産調達では、養殖エビの抗生物質・化学物質の残留が長年の関心事だ。稲との混養で農薬に頼らず育てる淡水エビは、その懸念への答えになり得る。とくに、どの田で・どう育てたかを追える点は、トレーサビリティを求める外食・小売にとって価値がある。ただし現状は3ヘクタール規模で、いきなり日本向けの大ロットを安定供給できる段階ではない。輸出には冷凍・加工とHACCP等の衛生管理、輸出許可という別のハードルもある。
大型(3〜5尾/kg)が現地で50〜60万ドン、円換算で3,000円前後という水準は、無農薬・淡水という物語を乗せれば日本の高付加価値帯と噛み合う。ただしこれは生きたまま現地で取引される値であり、冷凍・加工・輸送・関税を積めば店頭価格は大きく変わる。単純な原価比較で判断せず、「無農薬・トレーサブル・低湿地の有機混養」という背景ごと商品化できるかを見たい。物語を値段に変えられる売り場を持つ買い手ほど、この産地の価値を引き出せる。逆に、バルクの安さだけを求める調達では、規模の小さいこの産地は最初から噛み合わない。
量が整う前に、衛生管理と環境証明の設計に関与しておく
チュオンヴァンの稲+エビ混養は、低湿地を無農薬の淡水エビ産地に変え、同じ土地の価値を数倍にした事例だ。日本の調達側にとって、いま大ロットを買える相手ではない。だが無農薬・低投入・トレーサブルという性質は、プレミアム帯の淡水エビや環境配慮型調達の候補になる。カマウでEUとNGOが42ヶ月かけて「低排出エビ」を調達の証明に育てた取り組みのように、環境価値が調達の与信に変わる流れは水産でも進んでいる。取るべきは、規模が小さい今のうちに産地と関係を作り、衛生管理と環境証明の設計に早く関与しておくこと。量が整ってから動くのでは、良い産地は他の買い手に押さえられている。
参照元
Nong nghiep Moi truong「エビが稲を抱く、価値は二倍に」(2026/7/24)
Nhan Dan「有機の稲田でのオニテナガエビ養殖」
VnEconomy「稲+テナガエビで低湿地を金脈に変える」