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ベトナム=ロブスタの常識を覆す、25歳が背負うソンラ産アラビカ

ベトナムのコーヒーといえばロブスタ、というのが日本の輸入業者やロースターの共通認識でした。インスタントや缶コーヒー向けの大量生産国、というイメージです。その常識に、北部山岳のソンラ省から一人の若いバリスタが挑みます。25歳のチャン・ドゥック・タン氏が、ソンラ省人民委員会から「アラビカ大使」に選ばれ、2026年6月25〜27日にベルギー・ブリュッセルで開かれるブリュワーズカップ世界大会の舞台に立ちます。産地のブランド転換と若手人材、そして世界市場という三つの線が一点で交わる出来事であり、ベトナム産地の品質シフトを早期に拾いたい日本のバイヤーにとって見逃せないサインです。

目次

ソンラのアラビカ大使、世界大会へ

チャン・ドゥック・タン氏はハノイのカペラホテルに所属する専門バリスタで、2025年のベトナム・ナショナル・ブリュワーズカップを制しました。ブリュワーズカップはハンドドリップ(手淹れ)の技術と豆の質を競う競技で、エスプレッソ系の大会とは異なり「豆そのものの個性」が勝敗を大きく左右します。だからこそ、彼が背負う豆がどこの産地のものかという問いが、競技の枠を超えた意味を持ちます。

世界大会の舞台はブリュッセルで開催される「ワールド・オブ・コーヒー」。30を超える国・地域の代表が集まり、ベトナムもその一角に名を連ねます。タン氏が選んだのは、ロブスタの量産国というベトナムの看板ではなく、自国でも知名度の低い北部産アラビカでした。本人は、ハンドドリップ文化が根づく欧米では高品質な豆が前提であること、そして「ベトナムは有名なロブスタだけでなく、質の高いアラビカも作れる」という事実を世界とベトナム国内の双方に伝えたい、と語っています。

なぜ今、北部山岳のアラビカなのか

ベトナムのコーヒー産地は、中部高原(タイグエン地方)のロブスタが圧倒的多数を占めます。一方でアラビカは、標高が高く昼夜の寒暖差が大きい北部山岳に適地が限られます。ソンラ省はその数少ない適地の中核で、ベトナム最大級のアラビカ産地として知られてきました。これまでは生豆を安く輸出する「原料供給地」の色が濃かったものの、ここ数年で産地は明確に方針を転換しています。面積を広げて量を追う段階から、品質を磨いて単価を上げる段階へ、という舵切りです。

この転換が新しいのは、生産者の収益構造そのものを変えにいく点にあります。認証取得やスペシャルティ規格への対応は手間もコストもかかりますが、それを乗り越えた豆は世界大会の舞台に立てる。タン氏の挑戦は、その出口が現実にあることを生産者と国内消費者に示す広告塔の役割を担っています。産地名を冠したアラビカが世界の競技者に選ばれること自体が、ソンラというブランドの信用を一段押し上げます。

検証した数値で見るソンラの実力

元記事は栽培面積を約34,000ヘクタールと記していますが、ベトナム政府系メディアの最新報道では実態はやや異なります。複数ソースで確認できた数値を整理します。

項目 確認できた数値
アラビカ栽培面積(直近) 約26,120ヘクタール
生豆生産量(直近) 約37,724トン
持続可能性認証取得面積 23,448ヘクタール(年28,000トン超)
輸出量・輸出額 約27,800トン/約1億1,238万ドル
2030年の維持目標面積 約35,000ヘクタール(質重視)
1ヘクタール当たり収益/利益 収益1.7億〜2億ドン超/利益1.4億ドン超(年)

輸出額の約1億1,238万ドルは、元記事の「1億1,200万ドル超」とほぼ一致します。栽培面積については、足元の26,000ヘクタール台と、2030年に向けて維持を掲げる35,000ヘクタール規模が混在しており、元記事の34,000ヘクタールは将来計画寄りの数字とみるのが妥当です。重要なのは、すでに2万3千ヘクタール超が持続可能性認証を取得し、輸出単価で評価される土台ができている点です。量より質という方針が、数字の裏づけを伴って進んでいます。

現地と業界の受け止め

産地の関係者の間では、世界大会への出場を「ソンラ産アラビカという呼び名を世界の地図に載せる好機」と捉える声が広がっています。生豆の匿名出荷では得られなかった産地名での認知が、競技という分かりやすい舞台で前進するためです。生産現場からは、認証対応の苦労が単価という形で報われ始めたことへの手応えも聞かれます。1ヘクタールあたり年1.4億ドン超の利益という水準は、量産ロブスタ偏重からの脱却を後押しする実利です。

一方で慎重な見方もあります。世界大会で名前が知られても、安定した品質のロットを継続的に供給できなければ一過性のブームで終わる、という懸念です。スペシャルティの取引はリピートと信頼が命であり、収穫年ごとのばらつきや精製管理の標準化が次の課題になる、という現実的な指摘がなされています。

日本のロースター・輸入業者への示唆

日本のスペシャルティコーヒー市場では、シングルオリジンの価格高騰が続き、新しい産地ストーリーを持つ豆への関心が高まっています。2024年の調査ではスペシャルティの輸入量はレギュラーコーヒー全体の1割強を占めるまでになり、産地の物語性とともに語れる豆ほど店頭で強い、という構図が定着しつつあります。ベトナム産はブラジル・コロンビアと並ぶ日本の主要輸入元ですが、その中身はロブスタが中心で、アラビカの「産地指定」で語れる選択肢はまだ限られています。

ソンラ産アラビカは、ここに空白を突く素材になり得ます。ベトナムという近接国でありながら、ロブスタの先入観があるぶん「意外性のある物語」を作りやすい。世界大会という分かりやすい権威づけが付くタイミングは、メニューや商品名でストーリーを立てる絶好の機会です。価格についても、ソンラの1ヘクタール当たり利益や輸出単価の改善は、品質に見合った対価が産地に還元される構造への移行を示しており、フェアな調達を打ち出したい日本側の姿勢とも噛み合います。実際にベトナム農業の現場では、品種転換と収益改善が同時に進む事例が報告されており、たとえばザライ省では有機コーヒーへの転換で収量と利益の両立が進んでいます。産地ごとに方針が分かれてきたいま、ソンラをどう位置づけるかが調達戦略の分かれ目になります。

市場への波及と産地ブランド化の流れ

タン氏の挑戦は、ベトナム北部農産物の「産地ブランド化」という大きな潮流の一コマでもあります。同じソンラ省では、果樹でも輸出市場の開拓が進んでおり、マンゴーが韓国へ初出荷されるなど、特産品を高付加価値で海外に出す動きが加速しています。コーヒーでもこの流れが本格化すれば、ベトナム=安いロブスタという一括りの評価は通用しなくなります。

市場全体では、世界的なアラビカ高や天候不順による相場上昇が続き、調達先の多様化はどの輸入業者にとっても急務です。供給リスクを分散しつつ、物語で差別化できる産地を早期に押さえる動きが強まるなか、世界大会で脚光を浴びる新興アラビカ産地は、その候補として現実味を帯びてきました。一過性で終わらせないためには、産地側の品質安定と、輸入側の継続的な引き取りという両輪が要ります。

実用情報・関連リンク

ブリュワーズカップ世界大会は2026年6月25〜27日、ベルギー・ブリュッセルの「ワールド・オブ・コーヒー」会場で開かれます。結果や使用ロットの情報は、産地評価を左右する一次資料になるため、調達担当者は競技後の発表をチェックする価値があります。ソンラ産アラビカの取り扱いを検討する場合は、認証取得ロット(持続可能性認証が2万3千ヘクタール超で取得済み)の供給可否と、収穫年ごとの精製管理の標準化状況を商社・産地組合に確認するのが実務的な第一歩です。輸出市場の動きを広く把握しておきたい場合は、ベトナム産品の主要輸出市場の最新動向も参考になります。

まとめ

25歳のバリスタが背負うソンラ産アラビカは、ベトナムのコーヒー像を「量のロブスタ」から「質のアラビカも」へと書き換える試みです。栽培面積約2万6千ヘクタール、認証取得2万3千ヘクタール超、輸出額約1億1,200万ドルという土台の上で、世界大会という権威づけが重なります。日本のロースター・輸入業者にとっての次アクションは三つです。第一に、世界大会後の結果と使用ロット情報を追い、ソンラ産の評価を確認すること。第二に、商社や産地組合に認証ロットの供給可否と品質安定性を問い合わせ、サンプルを取り寄せること。第三に、ロブスタの先入観を逆手に取った産地ストーリーを、メニューや商品名で設計してみることです。先入観が強い産地ほど、物語の伸びしろは大きく残っています。

参照元

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この記事を書いた人

京都で食品ブランドを運営しながら、これまで乾燥野菜や野菜パウダーなど、素材の魅力を活かした商品づくりに携わってきました。現在はベトナム在住2年目で、現地ではコーヒーの生産現場にも関わり、栽培から加工、味づくりまで一貫して学んでいます。毎日の暮らしの中で、安心して楽しめる食品を届けたいという思いから、生産背景や作り手の顔が見える商品を大切にしています。日本とベトナム、それぞれの食文化の魅力を活かしながら、日常にちょっとした豊かさを届けることを目指しています。

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