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「有機は儲かる」ザライ4戸が覆した収量と利益の常識

ベトナム中部高原のザライ(Gia Lai)省で、農家わずか4戸・約30ヘクタールの有機コーヒー実証プロジェクトが、当初の目標収量を58%上回り、慣行栽培よりも高い利益を出した。全量がEU有機認証を取得し、QRコードによる生産地トレーサビリティを備え、ベトナム第2位のコーヒー輸出企業との長期買取契約までこぎ着けている。「有機に切り替えると収量も収入も落ちる」という現場の通念を、数字で覆した事例だ。コーヒーをベトナムから調達する日本のバイヤーや食品メーカーにとって、これは単なる地方の成功談ではなく、調達先の選び方を考え直すヒントになる。

目次

起点となったニュースの要旨

ザライ省の農業普及センターが2023年から2025年にかけて実施した「有機コーヒー生産モデル構築」プロジェクトで、ボーゴーン(Bờ Ngoong)地区の農家4戸・約30ヘクタールが有機栽培への転換に取り組んだ。結果として、モデル区画のコーヒー収量は1ヘクタールあたり20.6タ(=2.06トン、tạは100kg単位)の生豆に達し、当初目標の13タ/ヘクタールを58%超過した。利益は平均で1ヘクタールあたり3億3,440万ドン、慣行栽培と比べて17.26%高かった。さらにプロジェクト期間中に近隣農家が自発的に12ヘクタールを追加で有機転換し、対象面積は計画を40%上回って広がった。区画にはEU有機認証が付与され、生産地コードとQRトレーサビリティが整備されている。

なぜこの結果が「逆転」なのか

有機転換の初期は収量が落ちるのが定石とされる。化学肥料や農薬を断つと、土壌の生態系が回復して養分バランスが整うまで数年かかり、その間は収穫が目減りしやすい。転換初期の減収を覚悟して認証に踏み切る農家が多いなかで、目標を1.5倍以上上回ったのは異例だ。背景には、堆肥や有機資材を使った土づくり、適切な剪定と日陰管理、そして普及センターによる技術指導の積み重ねがあるとみられる。

収量の数字と並んで重要なのが、出口が最初から確保されていた点だ。買い手となったのは、プレイクに本社を置くヴィンヒエップ(Vĩnh Hiệp)社。1991年創業で、2022/23年度にはベトナム第2位のコーヒー輸出企業に数えられる。同社はザライ省内に有機認証農園を持ち、米国・EU・韓国・日本の各基準で有機認証を取得済みで、50カ国超に生豆を輸出している。認証取得後の生豆を慣行品より高い価格で長期買い取る——この約束があったからこそ、農家は転換のリスクを取れた。技術・認証・販路の3点が一本につながったことが、収量と利益の両立を生んだ核心だ。

数字で見る慣行栽培との差

項目 有機モデル区画 備考
参加農家 4戸 期間中に追加転換も発生
対象面積 約30ha+追加12ha 計画を40%上回る拡大
収量 2.06トン(生豆)/ha 目標1.3トン/haを58%超過
平均利益 3億3,440万ドン/ha 慣行比+17.26%
認証・追跡 EU有機+QRコード 生産地コード付与
販路 ヴィンヒエップ社が長期買取 慣行より高値で契約

利益の3億3,440万ドンは、2026年6月時点の為替(1円≈163ドン)で換算するとおよそ205万円/ヘクタールにあたる。為替は変動するため目安としての金額だが、慣行栽培を17%超上回るという差は、認証取得の手間とコストを吸収してなお残る利幅があることを示している。なお収量の単位「タ(tạ)」は100kg、生豆ベースの数値である点に注意したい。

現地・業界の受け止め

地元普及関係者の説明では、このモデルの狙いは単発の高収量ではなく、地域の普及協同組合とバリューチェーンをつなぎ、農家の栽培能力を底上げすることにあるという。気候変動への適応と、EUの森林破壊防止規則(EUDR)のような新しい輸出規制への対応を同時に進める手段としても位置づけられている。

業界筋からは、ザライ省の慣行コーヒーが技術と投資の高度化で1ヘクタールあたり30トン規模(果実ベース)の高収量を出す事例も出ており、「収量を追う慣行」と「付加価値を追う有機」の二極化が進んでいるという見方も聞かれる。買い手側のヴィンヒエップ社は、4Cやレインフォレスト・アライアンスの基準で1万戸を超える農家ネットワークを抱えており、有機はその中でも最上位の付加価値層に位置づけられる。

一方で慎重論もある。4戸という小さな母数で出た数字が、面積を10倍100倍に広げても再現できるとは限らない。技術指導の密度が薄まれば収量は落ちる、という指摘は現地でも繰り返されてきた論点だ。

日本のコーヒー調達担当者はどう読むべきか

日本のバイヤーやメーカーがこの事例から取り出せる示唆は3つある。第一に、ベトナム産=大量・安価のロブスタという固定観念を更新する材料になる。EU有機とQR追跡が揃った小ロットの産地が、大手輸出企業の買取網に組み込まれて流通に乗り始めている。第二に、調達のトレーサビリティ要求が世界的に強まるなかで、産地コードとQRが整った区画は、原料原産地表示や持続可能性の社内基準を満たしやすい。第三に、買い手が長期契約で価格を保証する「アンカー型」の連携モデルは、供給の安定とストーリー性を同時に手に入れたい日本側にとって、相性が良い。

調達の実務では、ヴィンヒエップ社のように既に日本向け有機認証を持つ輸出企業を入口に、その傘下の認証区画を指定買いする組み立てが現実的だ。同社の直営農園の規模感や認証構造は、ザライ省の大型直営モデルを扱った中部高原のコーヒー直営農園の動向と合わせて見ると、慣行の大規模化と有機の高付加価値化という二つの潮流が同じ省内で並走していることがわかる。

市場と産地への波及

この事例が示すのは、有機が「補助金で延命する理想」ではなく「契約と技術で黒字化できる事業」になりつつあるという地殻変動だ。コーヒーに限らず、ベトナムの一次産品では認証付き・契約型の産地づくりが他品目にも広がっている。たとえば有機認証を軸に対日輸出をうかがう動きは、南部の有機米産地や、香辛料分野のドンナイの有機胡椒でも見られる。共通するのは、認証コストを誰が負担し、その上乗せ分を誰が買い取るかという「経済設計」を先に固めている点だ。コーヒーのザライ事例は、この設計が機能すれば収量すら向上しうることを実証した格好になる。

EUDRをはじめとする輸入側の規制強化は、認証を持たない産地にとっては参入障壁だが、整えた産地にとっては差別化の武器に変わる。日本の調達でも、価格交渉の前に「その区画は何の認証を持ち、誰が買い支えているか」を確認する習慣が、リスク管理として効いてくる。

調達検討のための実用情報

買い手側のヴィンヒエップ社は本社をザライ省プレイク市に置き、生豆・胡椒・焙煎/挽き豆・インスタントを扱う総合コーヒー企業だ。米国・EU・韓国・日本の有機認証を保有し、自社直営の有機農園を運営している。日本からの調達検討であれば、まず同社の輸出窓口に対し、(1)対象区画の有機認証の種別と有効期限、(2)QRトレーサビリティで開示される生産地コードの範囲、(3)長期買取契約のロット単位と価格条件、を照会するのが入口になる。サンプル取得後は、日本の有機JAS表示で「有機」を名乗るには国内側の認証手続きが別途必要になる点も確認しておきたい。展示会では各社がベトナム産有機ロットの引き合いを受け付けているため、現物カッピングと産地書類の突き合わせを同じ場で行うと効率がよい。

まとめ:次に取るべきアクション

ザライ省の4戸・30ヘクタールが出した「目標収量58%超過・慣行比17%増益・EU有機+QR+長期契約」という組み合わせは、有機コーヒーの収益性を語るうえで具体的な参照点になる。日本のバイヤーがまず動くべきは、(1)取引候補の輸出企業に対し、認証種別・トレーサビリティ・買取契約の3点を文書で確認すること、(2)小ロットでも認証付き区画のサンプルを取り寄せ、品質と価格上乗せ分の妥当性を社内で検証すること、(3)有機米や有機胡椒など他品目の認証型産地と並べて、調達ポートフォリオ全体の持続可能性基準を見直すことだ。収量が落ちる前提で語られてきた有機が、設計次第で攻めの調達先に変わる——その転換点を、この一件は示している。

参照元

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この記事を書いた人

京都で食品ブランドを運営しながら、これまで乾燥野菜や野菜パウダーなど、素材の魅力を活かした商品づくりに携わってきました。現在はベトナム在住2年目で、現地ではコーヒーの生産現場にも関わり、栽培から加工、味づくりまで一貫して学んでいます。毎日の暮らしの中で、安心して楽しめる食品を届けたいという思いから、生産背景や作り手の顔が見える商品を大切にしています。日本とベトナム、それぞれの食文化の魅力を活かしながら、日常にちょっとした豊かさを届けることを目指しています。

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