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乱獲で消えかけた薬草を独学で栽培化、契約40haの産地に育てた男

ベトナム中南部カインホア省のホンヘオ山で、一度は採り尽くされかけた在来の薬用植物「シャオ・タム・フォン(xáo tam phân)」を、農民が独学で人工栽培にこぎつけ、契約栽培40ヘクタール超の産地に育て上げた。主役はバー・ニン社の代表で、同省薬用植物協会の会長も務めるトラン・バー・ニン氏。天然採取に頼っていた生薬を、種子から苗を回す供給体制に組み替えた事例だ。

薬用植物や機能性素材を扱う日本のバイヤーにとって、この話は「原料をどこから、どれだけ安定して引けるか」という調達設計に直結する。野生種の一過性ブームが枯渇で終わる一方、栽培化に成功した産地だけが取引相手として残る。その分かれ目を、一人の農民の15年からたどる。

目次

ホンヘオ山の固有種を、種子から回る産地に変えた

シャオ・タム・フォンは、カインホア省ホンヘオ山周辺に自生する在来の薬用植物だ。肝機能の低下を和らげるとして知られ、とくにベトナム北部の市場で引き合いが強かった。ニン氏はこの植物の葉・茎・根から10種類の製品を開発し、うち3品目が国の地域産品認証「OCOP」で4つ星を取得している。粉末やティーバッグ、濃縮エキスなどに加工の幅を広げ、原料の山採りに依存する段階から抜け出した。

ベトナムでは天然採取に限界がきた薬用植物を、畑で回す産地に転換する動きが各地で起きている。クアンニン省では薬用根「地レン(ジーレン)」を森から畑へ移して産地化する試みが進み、ランソン省では一度植えれば長く採れる薬用クチナシで生薬産地を築く動きがある。ニン氏の事例は、その先駆けにあたる。

2011年の採集ブームが、乱獲と枯渇を招いた

転機は2011年だった。同年4月、末期の肝臓がん患者がこの野生植物を使って劇的に回復したという話が広まり、需要が過熱する。7月には数百人規模の採集者が山に押し寄せ、違法な掘り取りで資源が一気に細った。値の張る薬草に人が殺到し、自生地が丸裸になっていく——ベトナムの薬用植物でくり返されてきた構図だ。

ニン氏が動いたのはその直後、2011年9月である。山で落ちた枝や根を拾い集め、挿し木による繁殖に取りかかった。インスタント麺の空き容器を切って番号を振り、区画ごとに「古い枝」「若い枝」で発根までの日数を記録していったという。専門の研究機関ではなく、手元の道具と観察の積み重ねから栽培化を始めた点に、この事例の芯がある。

挿し木から播種へ、15年の試行錯誤を数字で追う

挿し木は生きた枝の取り扱いで目減りが続き、損失も出た。株が3〜4年で実をつけ始めると、ニン氏は採種に切り替える。種子から育てた苗は乾燥に強く、いまでは挿し木を完全にやめ、播種法一本で年間およそ20万本の苗を供給する。栽培化の初期条件と現在地を並べると、産地がどう積み上がったかが見える。

項目 内容
栽培化の着手 2011年9月(挿し木から開始)
繁殖法の転換 株が3〜4年で結実後、播種法へ移行し挿し木を中止
年間の苗供給 約20万本(種子由来)
自社の栽培面積 約70ha
契約栽培の面積 40ha超(複数地区)
製品数 10種類(うちOCOP4つ星が3品目)
従業員と月収 9名/月550万〜1,200万ドン(約3.2万〜7.1万円)

金額はバー・ニン社に関する報道値。円換算は1円≒170ドンの目安による概算。

苗の無償配布と買取保証で、40haの契約産地に育てた

ニン氏は2012年から、栽培を望む地元農家に苗を渡し、収穫物の買い取りを約束する形で作付けを広げた。自社の約70ヘクタールに加え、ホアタン、ドンニンホアといった地区の農家と40ヘクタール超の契約栽培を組み、農家を巻き込んで供給量を積み上げている。苗の内製と買取保証をセットにした設計は、農家が新しい作物へ踏み出すときの価格・販路の不安を先に消す狙いがある。

事業は加工と雇用にも及ぶ。従業員9名に月550万〜1,200万ドンの給与を払い、粉末や茶、濃縮エキスへと製品を広げてきた。さらに2014年からは、肝臓・子宮・卵巣・大腸・乳がんを患う低所得の患者に製品を無償で配る取り組みを続けている。原料の山採りから、栽培・加工・地域還元までを一つの事業として回している点が、単なる薬草採りとの違いだ。

日本の薬用植物調達に、この産地化モデルは何を示すか

日本は生薬・薬用植物の原料を輸入に大きく頼り、調達先の分散と国内での栽培化がかねて課題になってきた。ニン氏の歩みは、野生依存の素材を安定調達に変えるうえで外せない条件を三つ示している。

一過性の需要は、栽培化とセットでなければ産地に残らない

2011年のブームは、採集者を山に呼び寄せただけで自生地を痩せさせた。ブームが去った後に残ったのは、種子で苗を回す仕組みをつくった側だけだった。機能性素材の目新しさに飛びつく前に、その素材が畑で再生産できるのかを見極める——調達側にとっての最初の関門はここにある。

苗の内製が、供給量と品質のばらつきを左右する

挿し木から採種へ切り替え、年20万本の苗を自前で確保したことが、40ヘクタール超の契約栽培を支えている。苗の出所が定まらない産地は、量も質も読みにくい。日本側が新しい薬用素材を引くときも、種苗をどこが握っているかは価格と安定性を左右する。台湾頼みだった蘭の苗を国内ラボで年20万本まで内製化した事例と同じく、川上の種苗を押さえた産地ほど交渉の土台が固い。

OCOP認証と加工が、原料の値崩れを防ぐ

生の薬草を売り続ければ、供給が増えるほど値は下がる。ニン氏は10製品への加工とOCOP4つ星でブランドを立て、原料相場から一歩離れた売り方を確保した。日本のメーカーが海外の薬用植物を調達する際も、加工度と認証は品質の裏づけと価格の安定に効く。

機能性素材のバイヤーが確認すべき実務ポイント

  • 種苗の出所:苗が野生採取由来か、採種・育苗の内製かを確認する。播種由来の苗を安定供給できる産地は、量と品質が読みやすい。
  • 契約栽培の実態:買取保証の有無、契約面積、参加農家数を押さえる。ニン氏の場合は自社約70haに契約40ha超が乗る構造だ。
  • 加工と認証の段階:粉末・エキス・茶など加工品として供給できるか、OCOP等の認証を持つかで、原料相場からの独立度が変わる。
  • 薬効表示の扱い:現地で語られる健康作用をそのまま日本の販促に転記しない。景品表示法・薬機法の観点で、素材としての品質・規格に話を絞る。

山採りの薬草を、取引できる産地に変えるということ

ニン氏がやったのは、山で消えかけた一つの薬草を、種子から苗を回し、農家と契約し、加工品にして地域に還す仕組みへ組み替えることだった。派手な技術ではなく、麺の空き容器で発根を数えるところから始めた15年の積み重ねが、40ヘクタール超の産地を生んだ。日本のバイヤーがベトナムの薬用植物を調達候補に据えるなら、まず種苗の出所と契約栽培の実態を問う。野生のブームは買えないが、栽培化した産地は取引先になる。その線引きを、この事例ははっきり示している。

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この記事を書いた人

京都で食品ブランドを運営しながら、これまで乾燥野菜や野菜パウダーなど、素材の魅力を活かした商品づくりに携わってきました。現在はベトナム在住2年目で、現地ではコーヒーの生産現場にも関わり、栽培から加工、味づくりまで一貫して学んでいます。毎日の暮らしの中で、安心して楽しめる食品を届けたいという思いから、生産背景や作り手の顔が見える商品を大切にしています。日本とベトナム、それぞれの食文化の魅力を活かしながら、日常にちょっとした豊かさを届けることを目指しています。

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