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越産マグロの「産地証明」が紙から電子へ、ザライ4千隻の透明化

ベトナム中南部のザライ省が、12m以上の漁船4,000隻を対象に電子操業日誌(e-logbook)の利用料を月額補助する制度を動かし始めた。同省は2026年6月11日に漁獲のデジタル記録システムを正式運用へ移し、漁獲の産地をオンラインで追跡できる体制づくりを進めている(2026年6月29日報道)。紙の記録から電子への移行は、EUがベトナム水産に出している「黄カード」の解除だけでなく、原産地証明を求める日本市場への輸出可否にも直結する。マグロやカツオを扱う日本の輸入業者にとって、仕入れ先の「証明できる漁獲」がどこまで広がるかを左右する動きだ。

目次

何が起きたのか──ザライ省が電子記録を本格運用

ザライ省農業環境局のカオ・タイン・トゥオン局長によると、今回の電子化は「漁業管理と漁獲の産地追跡、水産分野のデジタル化、そしてIUU(違法・無報告・無規制)漁業の抑止」を目的としている。制度の裏付けは2025年末に省人民評議会が可決した決議第28号で、電子操業日誌と船舶監視装置(VMS)の利用料を補助する。12m以上の漁船が電子操業日誌を使う場合は月20万ドン、15m以上の沖合船がVMSを使う場合は月33万ドンが支給される。1万ドンは約59円(2026年7月時点)なので、それぞれ月およそ1,180円・1,950円にあたる。

導入の裾野は着実に広がっている。同省では4月末時点で12m以上の漁船3,257隻がすでに電子操業日誌を採用済みで、補助対象の4,000隻に対して8割超が移行を終えた計算だ。マグロ船については2020年から100隻規模で電子記録の試験運用を進めてきた蓄積があり、その経験を全船へ横展開する段階に入っている。

紙の何が問題だったのか

従来の紙の操業日誌は、漁船が港に戻ってから手書きの記録を提出し、港湾当局が原産地を確認する流れだった。人手による転記は時間がかかり、記録の抜け漏れや後付けの疑いを完全には排除できない。EUがベトナムに黄カードを出し続けている論点の一つが、この「漁獲がどこで獲られたかを機械的に証明できるか」という点にある。

電子操業日誌は、投網のたびに船の座標と漁場をソフトが自動で記録し、漁師は魚種と漁獲量を入力するだけで済む。帰港すると港湾当局がシステムから航海データをそのまま出力でき、漁獲申告と原産地証明の待ち時間が大幅に短縮される。省人民委員会は、漁業管理データベースのVnfishbaseやVMS、そして水産トレーサビリティのeCDTへ、データを正確に反映するよう求めている。点在していた記録を一本の電子的な流れにつなぐことが、今回の移行の核心だ。

現地の受け止め──「最初は不慣れ、今は使いこなす」

現場の漁師の反応は、道具への戸惑いから習熟へと移りつつある。漁師のチャン・ベー氏は「海の仕事は得意でも、技術は最初は不慣れだった。しばらく使ってみて、今は使いこなせるようになった」と語る。補助金が利用料の負担を和らげ、試すハードルを下げている点は大きい。

管理側の見方も、取り締まりから自律への転換を強調する。省水産支局のグエン・フー・ギア支局長は「違法漁場を避け、外国の海域を尊重することが漁師自身の意識になりつつある。これが黄カードを段階的に外し、透明で責任ある漁業と持続可能な発展の土台になる」と述べた。ベトナム全体でも2026年3月にEC(欧州委員会)の第5次査察を受け、輸入水産原料の混入防止や違反処理が引き続き論点として残る。ザライ省の全船電子化は、その積み残しに現場から答える動きと位置づけられる。

なぜ日本のマグロ・カツオ調達に効くのか

この電子化が日本のバイヤーにとって重要なのは、EU向けだけの話ではないからだ。日本はベトナム水産の主要な輸出先で、2025年の対日水産輸出は金額ベースで前年比約1割増と、市場としての存在感を保っている。マグロ単体では供給制約や規制で伸び悩む局面もあるが、だからこそ証明の付いた漁獲の価値は相対的に高まる。ところが港が発行する原産地確認が付かない漁獲は、日本のようなFTA市場で優遇関税を受けるための原産地証明(CO)を取れず、実質的に輸出できない在庫になってしまう。港でデータをそのまま出力できるeCDTは、この「証明の壁」を越えるための実務装置だ。

加えてベトナムは2024年5月施行の政令で、カツオ(スキップジャック)は体長500mm以上でないと漁獲・買付けを認めない規制を導入している。ベトナム水産物輸出加工協会(VASEP)によれば基準を満たすカツオは1回の漁で5〜8%程度にとどまるとされ、規格と証明の両方を通った魚は限られる。裏を返せば、電子記録で産地と規格をクリアしたロットは、日本のバイヤーにとって「トレースできる原料」として希少価値を持つ。産地・規格・証明が揃った漁獲を早めに押さえておくことが、調達の安定につながる。日本のマグロ調達を巡る中国シフトの動きはベトナム水産の中国シフトを追った記事でも触れたとおりで、調達先の多元化を考えるうえでも産地の透明化は判断材料になる。

数字で見るザライ省の電子化

項目内容
電子操業日誌の補助対象12m以上の漁船 4,000隻
電子操業日誌の補助額月20万ドン(約1,180円)
VMSの補助額(15m以上)月33万ドン(約1,950円)
4月末時点の導入済み隻数3,257隻(12m以上)
マグロ船の試験運用2020年から100隻規模
正式運用の開始日2026年6月11日
出典:ザライ省農業環境局の発表(2026年6月29日報道)。1万ドン≈約59円(2026年7月時点)で換算。

調達実務への示唆

日本の輸入業者やOEM原料の調達担当が押さえるべきは三点だ。第一に、電子操業日誌とeCDTでデータが揃う漁船・港を優先的に取引先として確認すること。港で航海データを即出力できる体制は、原産地証明の取得スピードと信頼性を直接左右する。第二に、カツオの体長規制のように、産地側の規格と日本側の求める規格を突き合わせて、通るロットの供給量を早めに見積もること。第三に、産地ブランド化の観点で、証明できる漁獲を前提に商品設計する動きが今後強まる点だ。トレーサビリティを起点に付加価値を積む発想は、水産以外でも進んでおり、産地が自ら証明を武器にする事例は海ぶどうの有機認証を取り上げた記事とも通じる。

ザライ省の4,000隻という規模は、一省の取り組みにとどまらない。証明できる漁獲が面的に広がれば、日本のバイヤーは「どの船の、いつ、どこで獲れた魚か」を前提に調達を設計できるようになる。黄カードの行方はEUの査察次第だが、産地側の電子化はEUと日本の双方の要件に同時に効く投資であり、対日調達の透明化という文脈で先を読む価値がある。

参照元

Nong nghiep Moi truong: ザライ省の漁民、透明な漁業への歩み

Vietnam+: Gia Lai expands electronic fishing log coverage to combat IUU fishing

SeafoodSource: Vietnamese tuna export growth stalls as sector faces regulatory pressures

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この記事を書いた人

京都で食品ブランドを運営しながら、これまで乾燥野菜や野菜パウダーなど、素材の魅力を活かした商品づくりに携わってきました。現在はベトナム在住2年目で、現地ではコーヒーの生産現場にも関わり、栽培から加工、味づくりまで一貫して学んでいます。毎日の暮らしの中で、安心して楽しめる食品を届けたいという思いから、生産背景や作り手の顔が見える商品を大切にしています。日本とベトナム、それぞれの食文化の魅力を活かしながら、日常にちょっとした豊かさを届けることを目指しています。

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