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電話2100本で違反出漁を止める、アンザン省が磨く漁獲管理

ベトナム南部のアンザン省が、2026年上半期に通信が途絶した漁船へ約2100本の警告電話をかけ、許可区域を越えた操業や無届け出漁を海上で止めていたことが分かった(2026年6月28日報道)。電話の中身は「船の位置情報が消えている」「越境しているので戻れ」という、地味だが即効性のある是正連絡だ。EUがベトナム産水産物に付けたイエローカードの解除がかかる今、産地の現場で何が動いているかを示す事例であり、越産の天然エビ・魚を仕入れる日本のバイヤーにとっては供給の予見性を左右する話になる。

目次

起点:位置情報が消えた船に、片っ端から電話をかける

報道によると、アンザン省は上半期に船舶監視システム(VMS)の対象船へ100%の搭載を進めたうえで、位置情報が途絶した船に対して連絡を入れる運用を徹底した。VMS信号が途絶した船への警告電話が2072本、これに違反リスクが高いと判断した船への警告連絡22本が加わり、合計で約2100本の是正連絡が積み上がった。信号途絶の中身を見ると、6時間を超えて信号が消えたケースへの通知が121件、10日以上途絶した船への警告が22件と、途絶の深刻度に応じて対応を分けている。

あわせて、現地では半年で7回のパトロールを実施し、144隻を臨検して40件の違反を発見。16件の処分を決定し、罰金の合計は16億ドン(1ドル≈約26,000ドン換算で約6万ドル、日本円で約900万円規模)に上った。取り締まりだけでなく、電話による事前是正と組み合わせている点が、この産地の運用の特徴になっている。

なぜ今か:EUイエローカードと「5回目の検査」

背景にあるのがEUのイエローカードだ。欧州委員会(EC)は2017年10月、違法・無報告・無規制(IUU)漁業への対策不足を理由にベトナム産水産物へ警告を出した。以来ベトナムは解除をめざして制度整備を進め、2026年には5回目となるECの現地検査を受ける段階に入っている。イエローカードが外れれば対EU輸出の障壁が下がり、逆に対策が不十分と判断されれば輸出全面停止につながるレッドカードのリスクが残る。

ECが求めるのは、法制度・漁船管理・監視統制・原産地トレーサビリティ・違反処理の5分野。アンザン省の「電話2100本」は、このうち監視統制と違反処理を現場レベルで回している証拠にあたる。国全体を見ても、上半期に127件の違反が処理され、罰金総額は58億ドン、VMS切断による処分だけで32隻・21億ドンが科された。制度が紙の上でなく、実際の船に届いている状況が数字から読み取れる。

データで見る:登録・許可・輸出証明の積み上がり

アンザン省の管理は、船の登録・許可・輸出証明という三層で積み上がっている。国のデータベースに登録された漁船は10,914隻、対象船の95%超が操業ライセンスを取得し、操業許可は3,627件、船舶登録証は800件が発給済み。欧州市場向けの水産輸出証明(約697トン相当)は79件が出ている。電子漁獲証明(eCDT)による原料の由来記録も導入され、「どの船が・どこで・いつ獲ったか」を追える仕組みが整いつつある。

項目数値(2026年上半期)
通信途絶への警告連絡2,072件
6時間超の途絶通知121件
10日超の途絶警告22件
パトロール実施7回
臨検した漁船144隻
発見された違反40件
処分決定・罰金16件・16億ドン
登録漁船(国データベース)10,914隻
欧州向け輸出証明79件(約697トン)
出典:Nong nghiep Moi truong 報道(2026年6月28日)

現場・業界の反応:省も企業も「解除後」を見ている

この動きはアンザン省だけの話ではない。政府は各省・沿岸自治体に対し、IUU対策の積み残しを包括的に是正するよう指示を出しており、ホーチミン市は6月に電子漁獲日誌の全面導入計画を打ち出した。3月には9〜19日の日程でECの検査団が同市と複数の沿岸地域を回る予定が組まれ、行政側は法制度から違反処理まで「五つの論点」に絞って準備を進めている。

省レベルでも、アンザン省は「許可なし・ライセンスなし・安全証明なしの船は一隻も出さない」という方針を掲げ、2024年以降のVMS切断や越境操業を洗い出して行政処分をかける方針を明言している。取り締まりを厳しくすることが輸出継続の前提になる、という認識が現場に共有されつつある。当社(Agriture)でベトナム産の一次産品を扱ってきた経験からも、産地が「どこまで管理を可視化できるか」は、日本側が安心して継続発注できるかどうかの分かれ目になる。

日本の調達への示唆:管理の可視化は、そのまま仕入れの安全弁になる

日本の食品バイヤーにとって、この話は「遠いEUの規制」ではない。天然水産の漁獲管理が締まるということは、後追いで問題が発覚して出荷が止まるリスクが下がるということだ。VMSの搭載率、eCDTによる由来記録、越境操業への即時是正——これらが揃った産地から仕入れるほど、由来の説明責任を果たしやすく、国内の小売・外食側への説明もしやすくなる。ベトナム産水産の対日輸出が中国シフトの局面にある中で、ベトナム水産の販路が動く局面だからこそ、管理レベルを取引先選定の指標に入れる価値がある。

実務としては、供給元に「VMS搭載率」「eCDT対応の可否」「輸出証明の実績」を確認するのが第一歩になる。エビのように飼料や生産の川上まで管理を伸ばす取り組みが進む品目もあり、天然・養殖を問わず「由来を語れる産地」を選ぶことが、結果として価格変動や規制変更に強い調達につながる。イエローカード解除は、越産水産を安定調達したい日本側にとっても追い風になる話だ。

市場への波及:解除は「輸出の再拡大」の号砲になりうる

仮にイエローカードが外れれば、対EU輸出のコストと手間が下がり、ベトナムの水産セクターは供給余力を国際市場へ振り向けやすくなる。その過程で整備されたトレーサビリティは、EU向けだけでなく日本や米国向けにも転用できる資産だ。管理の高度化は短期的には現場の負担だが、中期では「選ばれる産地」への投資として効いてくる。アンザン省の電話2100本は、その投資が現場で回り始めていることを示す小さな、しかし具体的な証拠と言える。

参照元

Nong nghiep Moi truong: アンザン省、IUU違反出漁を止めるため約2100本の電話を実施

Vietnam News: HCM City digitises fishing logs to clear EC ‘yellow card’

Vietnam+: Vietnam intensifies efforts to have EC’s yellow card on seafood exports lifted

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この記事を書いた人

京都で食品ブランドを運営しながら、これまで乾燥野菜や野菜パウダーなど、素材の魅力を活かした商品づくりに携わってきました。現在はベトナム在住2年目で、現地ではコーヒーの生産現場にも関わり、栽培から加工、味づくりまで一貫して学んでいます。毎日の暮らしの中で、安心して楽しめる食品を届けたいという思いから、生産背景や作り手の顔が見える商品を大切にしています。日本とベトナム、それぞれの食文化の魅力を活かしながら、日常にちょっとした豊かさを届けることを目指しています。

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