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エビ暴落でも飼料据え置き、GrowMaxが農家と組む理由

ベトナムのエビ養殖が、原料高と相場下落の板挟みになっている。そのなかで国産唯一のエビ飼料メーカーGrowMaxが「飼料価格を上げない」と宣言した。生産コストの6割以上を飼料が占める産業構造のなかで、メーカーが値上げを我慢して農家と苦境を分け合うという表明は、単なる支援策にとどまらない。ベトナム産エビを買い付ける日本の輸入業者にとって、来期の調達コストと供給の安定性を左右する話だ。

目次

GrowMaxが宣言した「飼料価格据え置き」の中身

農業環境紙の報道によると、ベトナム発の飼料ブランドGrowMaxは、魚粉や輸送費など投入コストが上がり続けるなかでも、現行の飼料価格を維持すると表明した。同社のMai Van Hoang社長(General Director)は「コスト上昇をそのまま飼料価格に転嫁すれば、相場変動の最前線にいる養殖農家が最も大きな打撃を受ける」という趣旨のコメントを出している。値上げ分を自社で吸収し、農家と苦境を共有するという姿勢だ。

GrowMaxは2020年設立の比較的新しいメーカーで、種苗(稚エビ)・飼料・生物製剤・高度養殖場・輸出加工までを一貫させる垂直統合型のモデルを掲げている。飼料単体ではなく、養殖の川上から川下までを一つの事業圏として束ねているのが特徴だ。

なぜ今この宣言が出たのか

背景には、2026年に入って急速に進んだエビ相場の下落がある。報道では、30尾/kgサイズのバナメイエビ(白脚エビ)の出荷価格が、2026年初頭の21万〜23万VND/kgから、足元では約12万VND/kgまで落ち込んだとされる。1円≈170VND(2026年6月時点)で換算すると、23万VNDは約1,350円、12万VNDは約705円。半年で5割近く値を消した計算になり、ここ数年で最も低い水準だという。

一方で、コスト側は逆方向に動いている。エビ飼料の主原料である魚粉はチリ・ペルー・オマーンなどからの輸入に依存しており、その国際価格が上昇。さらに海上輸送費とエネルギーコスト、地政学リスクによる供給網の混乱が重なった。報道によれば、2026年だけで飼料は3度の値上げを経ているという。売値が下がり、原価が上がる——この挟み撃ちのなかで、メーカーが4度目の値上げを見送ったのが今回の宣言だ。

飼料が握るエビ養殖のコスト構造

飼料価格の据え置きがなぜ重いのかは、エビ養殖のコスト内訳を見れば分かる。ベトナムのエビ生産コストを分析した業界資料では、変動費の中で飼料が突出して大きい。

費目 総生産コストに占める割合
飼料 約62〜65%
種苗(稚エビ) 約13%
その他投入材(薬剤・燃料・金利など) 約8〜9%
固定費 約4%

飼料がコストの3分の2近くを占めるため、飼料価格が据え置かれるか値上げされるかは、農家の損益分岐点をそのまま押し上げ下げする。出荷価格が12万VNDまで落ちた局面では、飼料がもう一段上がれば赤字で出荷を止める農家が出る。逆に据え置かれれば、薄利でも回し続けられる池が残る。供給網が痩せ細るか持ちこたえるかの分かれ目に、飼料価格が立っている。

そもそもベトナム産エビは「高い」

ベトナムのエビは、競合産地と比べてもともと生産コストが高い。同じ業界資料の比較では、生産コストは1kgあたりベトナムが約4.8〜5.0ドル、インドが約3.4〜3.8ドル、エクアドルが約2.3〜2.4ドル(1ドル≈155円換算でそれぞれ約745〜775円、約527〜589円、約357〜372円)。ベトナムはエクアドルのおよそ2倍、インドより3割以上高い。

この高コスト体質の根っこにあるのが、飼料原料を輸入に頼る構造だ。魚粉が国際相場に振られるたびにベトナムの養殖原価が動く。だからこそ、国産ブランドが価格を据え置いて緩衝材になる意味は、エクアドルやインドの低コスト産地に対する競争力を守るうえでも小さくない。エビ養殖の通年化で生産性を底上げしようとする取り組みは、同じく南部メコンデルタ圏のクアンニンの通年エビ養殖の動きとも重なるが、コスト面の足かせを誰がどう吸収するかという論点は依然として残っている。

現地・業界の受け止め

現地養殖関係者の反応は、おおむね三つに整理できる。第一に、池を抱える小規模農家からは「飼料が上がらないだけで池を空にせずに済む」という現実的な歓迎の声。第二に、ブラックタイガー(カマウ産ブラックタイガーのような高付加価値品種)を扱う層からは、相場下落局面でも単価の取れる品種・サイズに振り替える動きへの言及がある。第三に、業界内には「一社の自己負担には限界がある」という冷静な見方もあり、原料高が長引けば据え置きをどこまで続けられるかを注視する向きが多い。

種苗から一貫供給する垂直統合型の強みを評価する声もある。親エビ(broodstock)の国産化を進める国産親エビの取り組みと同様、川上を握るメーカーほど飼料価格の据え置きという「持久戦」に耐えやすい、という見立てだ。

日本の輸入業者・調達担当への示唆

ベトナム産エビを扱う日本側にとって、この宣言の読み方は二段階ある。

短期的には、出荷価格12万VND水準は仕入れコストを下げる好機に見える。だが、相場暴落の局面で安く買い叩く調達は、翌期に池が空く=供給が細るリスクと表裏一体だ。今回GrowMaxが価格を据え置いたのは、この「供給網の崩壊」を防ぐためであり、買い手側も「安いうちに大量に押さえる」だけでなく、来期の作付け(放苗)が回るかどうかまで見て発注計画を立てる必要がある。

中期的には、飼料原価を吸収できるメーカーと組む養殖場を、調達先選定の基準に加える価値がある。垂直統合型で飼料・種苗を内製する農場は、相場のどん底でも操業を止めにくい。トレーサビリティと供給の安定性をセットで評価するなら、「どの飼料を使い、誰が原価変動を吸収しているか」はサプライヤー監査の確認項目になり得る。

市場への波及——中国シフトと対日供給

相場下落と原価高のダブルパンチは、ベトナム産エビの輸出先構成にも影響する。米国市場での価格競争力が弱い局面では、近接で輸送コストの低い中国向けの比重が上がりやすい。水産物の中国シフトが進めば、対日供給は中国向けと枠を奪い合う構図になる。日本の調達担当が安定的にベトナム産エビを確保したいなら、価格交渉だけでなく、年間契約や前払いによる作付け支援といった「池を空けさせない」関与が現実的な選択肢になってくる。

飼料メーカーが農家と苦境を分け合うという今回の動きは、価格据え置きという一企業の判断を超えて、ベトナムのエビ産業が低コスト産地に対抗するための「供給網ごと守る」発想の表れと言える。買い手である日本側がこの発想にどう乗るかが、来期以降の安定調達を左右する。

まとめ——次に取るべきアクション

エビ相場が暴落するなかでのGrowMaxの飼料価格据え置き宣言は、コストの6割超を握る飼料という急所で、メーカーが農家とリスクを共有する選択だ。日本の輸入業者・食品メーカーが今やるべきことは三つに絞れる。第一に、足元の安値は仕入れ好機だが「来期の放苗が回る価格か」を必ず確認する。第二に、垂直統合型で飼料原価を吸収できる養殖場・サプライヤーを選定基準に加える。第三に、年間契約や作付け支援を通じて、相場のどん底でも供給が途切れない関係を先に作っておく。価格だけを追う調達から、供給網ごと守る調達へ——今回の宣言は、その転換を促す現地からのシグナルだ。

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この記事を書いた人

京都で食品ブランドを運営しながら、これまで乾燥野菜や野菜パウダーなど、素材の魅力を活かした商品づくりに携わってきました。現在はベトナム在住2年目で、現地ではコーヒーの生産現場にも関わり、栽培から加工、味づくりまで一貫して学んでいます。毎日の暮らしの中で、安心して楽しめる食品を届けたいという思いから、生産背景や作り手の顔が見える商品を大切にしています。日本とベトナム、それぞれの食文化の魅力を活かしながら、日常にちょっとした豊かさを届けることを目指しています。

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