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双日が英国の水産加工NESIを連結子会社化、越産白身魚の商談先が動いた

英国の量販店の棚にタラの切り身を入れている会社が、日本の商社の連結子会社になった。2026年10月2日、双日はSealaska Foods International Holdings Limited(SFIH)の全株式を取得したと発表した。傘下で水産物の加工・販売を手掛けるNew England Seafood International Limited(NESI)などの関連会社が、双日の連結子会社に入る。ベトナム産の白身魚やエビを動かすときに向き合う相手が一段増える。玉の採否を決める人が、東京ではなくチェシントンに座る。

目次

双日がSFIHの全株を取得、ノルウェーとアイスランドの白身魚調達網も傘下に入った

SFIHは2020年10月設立、所在地はロンドンのOne New Change 5階、代表はDaniel Thomas Aherne氏。水産物の調達・加工・販売を手掛けるグループの持株会社で、買収後はSojitz Seafood International Holdingsへの社名変更を予定している。

事業の実体を持っているのはNESI側だ。設立は1990年12月、所在地はサリー州チェシントンのCox Lane 48番地、代表はSFIHと同じAherne氏。英国を中心とした欧州向けに水産物の加工と販売を行っている。自社サイトではWoocheen(Sealaskaの海洋事業基盤)の一員であることを掲げ、自社ブランドとしてLeapとFish Said Fredを出している。

双日のリリースでもうひとつ押さえるべき記述は、SFIHグループが白身魚の原料調達網をノルウェーとアイスランドに持っている、という一文だ。今回の取得で双日が手に入れたのは英国の加工・販売拠点だけでなく、北大西洋側の原料の入口でもある。

さらにリリースは、買収後にSFIHグループと双日グループが共同調達で競争力を高めると書いている。双方の商品開発力と加工技術を持ち寄って高付加価値品を開発・販売し、販売網を組み合わせたクロスセルで取引量を広げるという記述も続く。共同調達という言葉が入ったことが、この案件の実務上の意味を決めている。原料を買う主体が英国の一社ではなく、日本の商社と英国の加工会社の組み合わせになる。

2022年マリンフーズ、2023年トライ産業、2024年Sushi Avenueに続く4件目

双日は公式リリースのなかで過去の水産案件を自ら並べている。件数を数えると、国内2件と海外2件で今回が4件目になる。

時期 案件 事業内容 地域
2022年4月 マリンフーズ 水産加工(日本ハムの子会社を取得) 日本
2023年4月 トライ産業 冷凍マグロの加工・販売 日本
2024年7月 Sushi Avenue テイクアウト寿司ブランド(MF Americaの設立を同時に実施) 米国
2026年10月 SFIH/NESIなど 水産物の調達・加工・販売(ノルウェー・アイスランドに調達網) 英国

並べ方を見ると、国内の加工を固めたうえで販売の出口を米国に出し、今回は調達から販売までを英国で一本につなぐ順番になっている。双日は自社のマグロ養殖とマグロ加工の経験に触れたうえで、日本の水産市場が成熟期に入っているため欧州と米国を高付加価値品の成長市場として位置づけると書いている。原料から販売までを覆う一体型のバリューチェーンを作るという言い方が、今回のリリースの軸だ。

売上規模については扱いを分けて読む必要がある。業界紙Undercurrent Newsは2026年10月1日付の記事で、売却対象の水産事業を年商3.6億ドル規模と見出しに書いている(約565億円、1米ドル=157円で換算)。一方、双日のリリースは売上規模に触れていない。したがってこの金額は同紙の記載として扱うのが正確で、双日が公表した数字ではない。本文の購読壁があるため、ここでは見出しと日付までを使う。

英国の水産消費市場は57億ドル、NESIはタラと刺身マグロで量販店シェアを持つ

双日は英国の水産消費市場を約57億米ドル(約8,950億円)とし、安定した成長が見込まれるとしている。ただしこの数字の出所はMarket Research Futureの市場レポートで、双日の自社調査ではない。リリース側も脚注で出所を明示している。

記述の核は、生のまま食べられるRTE(Ready to Eat)や下味付きで温めるだけのRTH(Ready to Heat)といった手間の少ない付加価値品の需要が伸びると見込まれること。みっつめは、寿司をはじめとする日本食の需要が増えていることだ。

NESIの位置づけについては、顧客起点の商品開発力と省人化した加工技術・自動化を備え、MSC認証またはASC認証を取得したサステナブル商品の品揃えを持ち、タラなどの白身魚、天然アラスカ産サーモン、刺身品質のマグロといったカテゴリーで英国の量販店向け販売に高いシェアを持つ、と書かれている。双日は英国の水産加工・流通業と主要販売チャネルが集約されていることを理由に、効率よく事業を広げられる市場だと説明している。

ここで注意しておきたいのは、リリースが量販店の社名を出していない点だ。英国の大手小売に入っているという事実までは公式に確認できるが、どの小売のどの棚に何が入っているかは公表されていない。商談で言えるのは、英国の量販店向けで高いシェア、MSCまたはASC付きの品揃え、タラ・天然アラスカ産サーモン・刺身品質マグロの3カテゴリー。ここまでが公表されている。

越産パンガシウスの対英輸出は7か月で4,300万ドル、89%が冷凍フィレ

では、ベトナム側は英国の棚にどれだけ入っているのか。VASEPの統計を引いた現地報道によれば、2026年1〜7月のベトナム産パンガシウスの対英輸出額は4,300万ドル(約67.5億円)で前年同期比23%増、7月単月は700万ドル(約11.0億円)で前年同月比30%増だった。

区分 構成比
冷凍フィレ 約89%
加工品(衣付き・バーガー・味付け・野菜入り) 約7%
生鮮・冷凍・乾燥の丸魚やカット 約4%
7か月合計 4,300万ドル(前年同期比23%増)

この構成比が示しているのは、ベトナム産が英国で担っているのが原料フィレの供給だということだ。加工品は7%しかない。英国側で衣を付け、味を付け、RTEやRTHに仕上げる工程は現地の加工会社が握っている。NESIが備えているのが省人化した加工技術と商品開発力だという双日の記述と、この7%はきれいに裏表になっている。

そしてもう一点。双日のリリースが白身魚の調達網として挙げているのはノルウェーとアイスランドの2か国で、ベトナムの名前は出てこない。北大西洋のタラを軸に組んだ調達網だと読める。タラの相場が上がった局面で代替の白身を探す先が、この2か国の外に出るかどうかが分岐になる。世界的な天然白身魚の品薄が続くなら、代替の白身の引き合いが出てくる余地はある。

売り込む相手は双日の水産部門ではなく、チェシントンの調達部門になる

日本の調達担当から見ると、買い手として競合が増える向きと、提案先が移る向きの二つがある。

ひとつは、買い手としての競合の増え方だ。ベトナムの加工工場から白身魚を取るとき、同じ工場の同じ原魚を見ている相手に、英国の棚から逆算して玉を集める買い手が加わる。共同調達が実際に動けば、日本の商社の名刺を持った買い手と英国の加工会社の買い手が同じ工場で並ぶ。この並びは、原料が細った局面で注文の順番として現れる。極洋が越産パンガシウスを日本で拡販し、対日輸出が20%伸びた経緯のように、日本向けの引きが強まっている局面と重なると、工場側の選別はさらに効く。

ふたつめは、提案する相手の移動だ。ベトナムに加工の取引先を持っていて、その玉を欧州に流す話を作りたい場合、これまで持ち込み先は商社本体の水産部門だった。今回の取得で、同じグループの内側に英国の調達・商品開発・販売を一体で持つ会社が入った。商品仕様を決める人と原料を選ぶ人が、同じ建物にいる。

この移動は提案の作り方を変える。商社本体に持ち込むときは「日本の外食や量販に入る形か」が主な論点になる。英国の加工会社に持ち込むなら、論点は英国の棚の価格帯と、そこに載せる規格に自社の玉が合うかどうかに移る。サイズ幅、氷衣率、トリミング等級、異物基準のどれを英国仕様に寄せられるかが先に問われる。

越の工場に降りるのはBRCGSとASC、提案書に載せる順番が入れ替わる

英国の量販店が要求する規格は、買い手の先にある小売の棚から逆算して降りてくる。ベトナムの対英輸出についての現地報道でも、求められる条件としてASC認証とBRC(英国小売協会の規格、現在のBRCGS)、食品安全とトレーサビリティ、持続可能な生産が並べて挙げられている。双日のリリースがNESIの品揃えをMSCまたはASC付きと書いているのは、この要求の反映だ。MSCは天然魚、ASCは養殖魚に対応する認証で、パンガシウスやティラピアはASC側に入る。

ここで実務として変わるのは、確認する順番だ。日本向けの商談なら、まず数量と規格、そのあとに認証の話に入ることが多い。英国の棚を前提にすると、認証の有無が入口の条件になり、数量と価格はそのあとに来る。認証を持たない工場は、価格を下げても棚の手前で止まる。

確認の粒度も変わる。ASCは会社単位ではなく施設単位で出る認証で、養殖場と飼料工場で別に見る必要がある。ベトナムがASC飼料認証で世界最多の15工場を抱え、養殖場と飼料工場の証書を同時に突き合わせる必要があるという状況は、英国の棚を前提にした確認では必須の作業になる。パンガシウス向けが9施設、エビ向けが7施設、ティラピア向けが7施設、熱帯海水魚向けが2施設という内訳も(複数の魚種を兼ねる工場があり合計は15を超える)、どの魚種で英国仕様を作れるかの手がかりになる。

魚種を振り替える手も残っている。対日ティラピアが8か月で77%増え、刺身に回るのは1.7kgの汽水魚だという動きは、白身の枠をパンガシウス以外で埋める選択肢になる。NESIが刺身品質のマグロを扱っていることを踏まえれば、生食グレードの管理ができる工場は、英国側でも評価される可能性がある。

加工品が対英輸出の7%しかないという数字は、衣付きや味付けのラインにまだ枠が残っていることを意味する。双日はSFIHをSojitz Seafood International Holdingsへ社名変更する予定だと書いており、リリースが掲げているのは共同調達による競争力の強化と、加工ノウハウの共有、相互販売の3点だ。全株取得の発表は2026年10月2日で、その3点が実際の発注に降りてくるまでには間がある。

本文の円換算は1米ドル=157円(2026年9月下旬の実勢)で計算し、換算値には「約」を付けた。

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この記事を書いた人

京都で食品ブランドを運営しながら、これまで乾燥野菜や野菜パウダーなど、素材の魅力を活かした商品づくりに携わってきました。現在はベトナム在住2年目で、現地ではコーヒーの生産現場にも関わり、栽培から加工、味づくりまで一貫して学んでいます。毎日の暮らしの中で、安心して楽しめる食品を届けたいという思いから、生産背景や作り手の顔が見える商品を大切にしています。日本とベトナム、それぞれの食文化の魅力を活かしながら、日常にちょっとした豊かさを届けることを目指しています。

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