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越カシューの最大市場が米国から中国に替わり、日本は買える順番を競う

ベトナム産カシューの売り先が、日本の調達担当が想定している以上の速さで動いている。2026年10月1日、ブエノスアイレスでベトナムの加工業者とアルゼンチンの輸入業者・流通業者を直接突き合わせる商談会が開かれた。登壇したのは在アルゼンチン・ベトナム商務代表のゴー・マン・コイ(Ngo Manh Khoi)氏と、ベトナムカシュー協会(VINACAS)副会長のグエン・ミン・ホア(Nguyen Minh Hoa)氏。南米の端で新しい買い手を開拓しに行く動きと、同じ2025年に最大市場が米国から中国へ入れ替わった事実は、一つの流れの表と裏だ。日本の買い手にとっての論点は、買える量ではなく買える順番に移っている。

目次

対アルゼンチンは270トン超・約120万ドル、商務代表が商談会で挙げた実績

商談会の狙いは、ベトナム側の加工業者とアルゼンチン側の買い手を同じ部屋に入れて取引の口を開けることだった。市場専門家のアグスティン・フェルナンデス・リバス(Agustin Fernandez Rivas)氏が現地の流通と消費を説明し、ベトナム側は加工能力を売り込んでいる。コイ氏は、ベトナムが競争力のあるカシュー加工産業を育ててきたと述べた。

記事が統計として示す実績は、2025年の対アルゼンチン加工カシューが270トン超、金額で約120万ドル(約1億8,800万円)。1.7倍という伸びは数量に掛かる。南米全体のカシュー市場を4億300万ドル(約633億円)とし、2031年に5億6,400万ドル(約885億円)へ伸びるという見通しも商談会で提示された。年率に直すと6%弱で、世界市場110億ドル(約1兆7,270億円)が年7%で伸びるという想定よりは緩い。これらは商談会で示された市場予測であり、ベトナム税関の実績値とは性質が違う。

270トンは20フィートコンテナで十数本という桁だ。輸出額52.29億ドルの産業にとって金額の貢献はほぼないに等しい。それでも商務代表が現地の輸入業者を集めて加工業者と引き合わせるのは、金額を取りに行っているのではなく取引口座を増やしに行っているからだ。この型の商談会は商務代表部が主催し、ベトナム側の加工業者が自社の規格と最小ロットを提示して相手を探す。日本の買い手が押さえるべきは、取引先の工場が今どの国の新規先と口座を開けようとしているかという情報で、同じ工場の枠を数年先まで争う相手がどこから増えるかがそこに出る。

54.3億ドルと52.29億ドル、二つの総額はトン単価でほぼ一致する

総額の扱いには注意が要る。商談会で示されたベトナムのカシュー輸出は2025年に54.3億ドル、加工品で約79.8万トン。一方、ベトナム農業環境省とVINACASが2026年1月に公表した通関ベースの実績は52.29億ドル・76万6,585トンで、「初めて50億ドルを超えた」と報じられたのはこちらの数字だ。数量の伸び率はどちらも前年比5.7%で同じである。

差を単価に直すと見え方が変わる。54.3億ドル÷79.8万トンは1トン6,805ドル、52.29億ドル÷76万6,585トンは1トン6,820ドル。開きは0.2%で、単価はほぼ同じだ。二つの総額は価格の違いではなく、数えている数量の範囲が違う。社内資料に引くなら通関ベースの52.29億ドル・76万6,585トンを使い、54.3億ドルは商談会で提示された業界側の数字として分けて置くほうが安全だ。最上級の表現も切り分けが要る。「初めて50億ドル超」は農業環境省とVINACASの発表(税関総局の数字として伝えているのはDân trí側)、「世界シェア約80%」「112カ国超」はVINACAS副会長の説明である。第三者機関が検証した数字ではない。

社内で前年比を出す資料なら、出典を一本に固定して脚注で片方を併記する形が扱いやすい。商談会の資料に載った数字をそのまま貼ると、半年後に照合できなくなる。

中国11.15億ドルが米国9.75億ドルを抜き、オランダは4.95億ドルで3位

市場別の並びが2025年に入れ替わった。

市場 2025年の金額 円換算 位置づけ
中国 11.15億ドル 約1,750億円 1位・初めて首位へ
米国 9.75億ドル 約1,530億円 2位・首位から後退
オランダ 4.95億ドル 約777億円 3位・EUの集荷拠点
アルゼンチン 約120万ドル 約1億8,800万円 商談会で開拓中の新規先
全市場(通関ベース) 52.29億ドル 約8,210億円 76万6,585トン

中国が初めて首位に立ったのは、税関統計をもとにした農業環境省とVINACASの発表による。米国は9.75億ドルで2位に下がり、オランダが4.95億ドルで3位に入った。カシューはコーヒーの89億ドル、青果の85.6億ドルに次ぐベトナム農産物の3位という位置にある。

入れ替わりは中国が伸びただけでは起きていない。米国向けは2025年の11か月で金額が17%落ちている。中国の積み上がりと米国の目減りが同じ年に重なった結果の首位交代で、片側だけを見ると読み違える。米国向けが戻れば順位はまた動く余地があるが、戻る前提で調達計画を組むと手当ての時期を外す。

中国と米国の二つで輸出額の約4割を占める並びのなか、アルゼンチンの約120万ドルは中国の1,000分の1に届かない。それでも商務代表が現地に商談会を立てるのは、金額の大きさではなく売り先の数を増やすためだ。首位が入れ替わる年を経験した産業が次にやるのは、一国の需要の振れで全体が揺れない形に売り先を割り直すことで、南米はその割り直しの先に入っている。

原料輸入45億ドルに対し輸出52.29億ドル、残る黒字は7.29億ドル

この産業が数量を追う理由は、原料の持ち方にある。ベトナムは2025年に生のカシュー原料を290万トン超・45億ドル(約7,065億円)輸入している。製品輸出の52.29億ドルから引くと差は7.29億ドルで、発表されている貿易黒字「7億ドル超」と一致する。輸出額に対する黒字の比率は約14%。殻むきと選別の工程で稼ぐ加工貿易型で、原料相場が動けば薄くなる帯である。

原料側の単価も出せる。45億ドル÷290万トンで1トン約1,552ドル。輸出した殻むき品76万6,585トンを輸入原料290万トンで割ると26.4%だが、ベトナム国内の収穫分も工場に入っているため、実際の歩留まりはこれより低い。輸入原料だけで1トンの製品を作ると仮定すれば原料費は1トン当たり5,900ドル前後になり、製品単価6,820ドルとの差は900ドル台しか残らない。国内原料が混ざる分だけ実際の差は広がるが、桁としてはこの幅の勝負だと見ておくと、工場が数量にこだわる理由の説明がつく。

だから工場は止められない。設備と人員を回し続けるには、まとまった数量を定期的に引き取る相手が欠かせない。2025年に中国が首位へ出た背景も、数量を取る買い方との相性で説明がつく。国内でどれだけ植えても輸入原料で工場を埋める構図はカシューに限った話ではなく、マカダミアでも作付4.6万ha超に対して3,000万ドルの輸入が並んでいる。産地の面積よりも、工場が実際に挽いている原料の出どころを確かめるほうが調達の判断に効く。

アルゼンチン向けはトン4,400ドル前後で、日本が買う上位等級とは重ならない

対アルゼンチンの270トン超・約120万ドルを割ると、1トン当たり約4,400ドル(約70万円、1kg約700円)。全体平均の1トン6,800ドル台に対して3分の2ほどの水準だ。270トン「超」を120万ドルに「迫る」金額で割った上限側の試算で、実際はこれより下がる。新規開拓先に流れているのが高単価の等級ではないことは読み取れる。カシューは丸のままの大粒から割れ、片、粉まで等級が分かれ、価格帯も段で違う。南米の新しい買い手が吸うのが下の等級なら、日本が買う丸粒の上位等級と正面でぶつかる話ではない。

等級が分かれていること自体は、日本側に有利に働く余地がある。工場は上位等級だけを売っても採算が揃わず、下の等級の出口を同時に持たないと選別ラインが詰まる。日本が上位等級を安定して引き取り、南米や新興市場が下の等級を吸うなら、工場の在庫構成としては噛み合う。逆に、上位等級の買い手が日本以外にも増えると、ここは取り合いになる。

正面でぶつかる相手は中国だ。11.15億ドルという金額で、等級も数量もまとめて動かせる。原料の入りが細る局面や工場の稼働が詰まる局面で、注文の順番は数量の大きい側に寄る。日本の買い手が置かれているのは、量で並べない代わりに別の軸で前に出る位置である。発注の規模で勝てない前提を認めたうえで、工場にとって「断りにくい注文」をどう作るかという問いに置き換えたほうが打ち手が出る。

日本の買い手が出せるのは等級指定と決済条件、数量では並ばない

交渉の材料は四つある。

  • 等級とサイズの指定を細かく出す。丸粒の等級、割れの許容比率、水分と異物の上限、そして着荷後にもめがちな検品の基準まで発注前に文書化しておけば、工場は歩留まりを先に組めて、外れた等級を別の売り先へ回せる。クレーム対応の読めない負担を見込まずに価格を出せる。胡椒を6形態に割って売るバウマイ協同組合のように、一つの原料を複数の形で出荷する体制は現地にすでにある。
  • 割れと片の比率を自分で指定する。丸粒のW320を何%、ブロークンを何%で引き取るかを先に出すと、工場は選別ラインの歩留まりを組んでから値段を出せる。丸粒だけを求める買い手より順番が前に来る。
  • 原料の産地を指定しない。工場が挽いているのはアフリカ産の輸入原料が主で、国内産にこだわると供給が細る時期に枠を外される。決済を前に倒すほうが、原料を45億ドル分輸入してから製品を売るこの産業には効く。
  • 小ロットを高い単価で引き取る枠を残しておく。菓子や惣菜向けの少量でも、上位等級の単価なら工場の平均単価を押し上げる。数量の競争に入らずに優先順位を取る道がここにある。

四つのうち効きやすいのは決済と期間の組み合わせだ。原料を45億ドル分輸入してから製品を売る順番で資金が回る産業では、入金の早さが数量の大きさに匹敵する価値を持つ。単価を1%下げる交渉より、前払い比率を上げて期間契約に乗せる交渉のほうが、同じ譲歩量で得られる優先順位は大きい。

裏取りの材料も増えてきた。EUの規制対応でベトナム側は圃場と出荷の台帳を整え始めており、ソンラ省がコーヒー3万6千haを3区分して12月30日までに台帳を揃える動きがその例だ。カシューは原料の大半を輸入に頼るため台帳の作り方は別になるが、原料の仕入れ先と選別の記録を出せるかは工場に直接聞ける。訪問するなら、中国向けと日本向けを同じラインから取っているか、原料の調達先国の内訳、外れた等級の売り先の三つを先に確かめておきたい。

アルゼンチンが開けたのは下の等級の口座だった。日本が守るべきは丸粒の枠で、同じ等級を取りに来る相手は中国の11.15億ドルのほうだ。何等級をどの時期にどの条件で、を書いて持っていく相手もそこで決まる。

本文の円換算は1米ドル=157円(2026年9月下旬の実勢)で計算し、換算値には「約」を付けた。

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この記事を書いた人

京都で食品ブランドを運営しながら、これまで乾燥野菜や野菜パウダーなど、素材の魅力を活かした商品づくりに携わってきました。現在はベトナム在住2年目で、現地ではコーヒーの生産現場にも関わり、栽培から加工、味づくりまで一貫して学んでいます。毎日の暮らしの中で、安心して楽しめる食品を届けたいという思いから、生産背景や作り手の顔が見える商品を大切にしています。日本とベトナム、それぞれの食文化の魅力を活かしながら、日常にちょっとした豊かさを届けることを目指しています。

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