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ベトナムがエビ種苗の国産化を最優先に、輸入親エビ依存を断つ4施策を提示

ベトナムのエビ産業が、養殖の川上にある「種苗(con giống)」の国産化を最優先課題に据えた。2026年7月30日にホーチミン市で開かれた農業・環境省と各業界協会の会議で、ベトナムエビ協会のマイ・ヴァン・ホアン(Mai Văn Hoàng)会長は、上半期のエビ輸出が23億ドル(約3,565億円、1ドル155円換算・概算)で前年同期比13.6%増と伸びながらも、商品エビの浜値が数年来の最低水準にあると指摘した。会長が示した打開策は4本柱で、その中心に据えられたのが親エビ(broodstock)の遺伝資源を自前で持つための種苗研究への投資だった。日本の輸入・調達側にとって、これは「安いから買う」段階の話ではなく、価格と供給の読みやすさを左右する川上の構造変化にあたる。

目次

浜値は最低期、それでも輸出23億ドルが伸びたベトナムエビの上半期

まず数字を押さえておく。上半期のエビ輸出23億ドルは、ベトナム水産物輸出全体の40.5%を占める。生産量は約70万トンで前年同期比8.1%増、国全体の年間生産能力は110〜120万トンとされる。高度技術を用いた集約養殖は、従来型に対して5〜10倍の生産性を出すという。伸びを牽引したのは中国・香港向けで、上半期だけで8億4,500万ドル、全体の3分の1超に達し、47%増という勢いだった。一方で米国向けは約2億9,000万ドルと前年比15%減。25.76%の関税に加え2月発効の追加10%関税、抗生物質・衛生基準の厳格化が重なり、西側市場は足踏みしている。

指標(2026年上半期) 数値 前年同期比
エビ輸出額 23億ドル(約3,565億円・概算) +13.6%
水産物輸出に占める割合 40.5%
生産量 約70万トン +8.1%
中国・香港向け 8億4,500万ドル +47%
米国向け 約2億9,000万ドル −15%

売上は伸び、浜値は下がる。この二つが同時に起きるとき、農家の利益を最後に削るのは原価だ。餌と並んで原価の入口に座るのが、稚エビのもとになる親エビである。

親エビの6割をSIS、3割をCPが握る——輸入依存が原価の底を固くする

ベトナムの養殖現場が使う稚エビは、その親をたどると多くが海外由来の系統に行き着く。業界の推計では、ベトナムに親エビを供給する二大勢力はSIS(Shrimp Improvement Systems)が約60%、CPグループが約30%で、残りをその他が分ける。SISやコナベイ(ヘンドリックス・ジェネティクス)、モアナといった主要ブリーダーはハワイに育種拠点を持ち、世界のSPF(特定病原体不在)親エビの供給地としてハワイは一時38%のシェアを占めた。ベトナムはこの川上を、ほぼ丸ごと輸入で賄ってきた。

輸入依存には三つの弱点がついて回る。第一に価格で、親エビの単価と輸送費は現地の浜値がどれだけ下がっても連動して下がらない。浜値が最低期に入ると、農家の利ざやは真っ先に稚エビ代に食われる。第二に品質と病害で、系統や輸送のばらつきが生存率と成長速度に直結する。第三に供給の途切れやすさで、輸出規制・検疫・物流のどれか一つが詰まると、翌シーズンの稚エビ計画ごと狂う。国産化とは、この三つのリスクを国内でコントロールする側に回すという意味だ。

企業レベルでは、こうした川上を取りにいく動きが先行している。たとえばコナベイが自社の種苗ブランドを対日供給の品質改良に振り向ける事例(コナベイのエビ種苗Balance Pro、川上の品質改良が対日エビ供給を左右する)は、一社の製品戦略として川上の価値を示してきた。今回の協会方針が違うのは、それを個社の商材ではなく産業政策の層で束ね、遺伝資源そのものを国の手元に置こうとしている点にある。

カマウ・バクリエウ・ソクチャンに集まる4施策の中身

ホアン会長が示した4本柱を、調達側の視点で分解するとこうなる。

施策 中身 調達側が読むべき点
①高度養殖への政策支援 集約・高技術養殖への支援拡充 5〜10倍の生産性が価格競争力を底上げする
②主要産地のインフラ投資 カマウ・バクリエウ・ソクチャン等への統合インフラ 産地が集中するほどトレースと数量確保がしやすい
③種苗の研究開発投資 親エビの遺伝資源確保・国産育種 稚エビ原価と品質の安定に直結する本丸
④輸入原料の原産地透明化 輸入エビの原産地監視体制 他国産の混入を防ぎ、越産の証明価値を守る

②で名前が挙がるカマウ、バクリエウ、ソクチャンはメコンデルタのエビ産地で、集約養殖から粗放・混養まで幅広い層が並ぶ。ここにインフラと種苗の改良が同時に効けば、産地単位で品質のばらつきが縮む。すでにカマウでは、EUとNGOが42か月かけて「低排出エビ」を調達の証明として立ち上げる試み(EUとNGOが42か月、カマウの「低排出エビ」は調達の証明になるか)が動いており、種苗の国産化はこうした証明づくりの土台を国内で完結させる方向と重なる。

④の原産地透明化も見落とせない。他国産のエビが越産として流れれば、産地証明の価値そのものが薄まる。輸入親エビへの依存を減らすことと、輸入完成品の監視を強めることは、どちらも「越産である」という看板を守るための表裏の施策だ。

加工で稼ぐVASEPの川下政策と、種苗を握る川上政策が同じ絵を描く

種苗の国産化は川上の話だが、ベトナム水産業界はこの数年、川下でも同じ方向に舵を切ってきた。原料を安く出す商売から、加工して付加価値を乗せて売る商売への転換だ。VASEP(ベトナム水産物輸出加工協会)が押し出す付加価値化の議論(原料輸出から加工へ、VASEPが示す付加価値化と日本の調達の一手)は、川下で利ざやを取り戻す設計にあたる。川上の種苗を自前で持ち、川下で加工して売る——この二つがそろうと、ベトナムエビは「安値の一次産品」から「価格を自分で決められる産業」へ性格を変える。

日本の調達にとって、これは仕入れ条件の前提が動くことを意味する。種苗が国産化されて稚エビ原価が安定すれば、浜値の乱高下が抑えられ、年間の仕入れ計画が立てやすくなる。加工が進めば、剥き身・下処理済み・味付け済みといった中間品を現地で調達でき、国内の人手不足を補える。逆に言えば、川上と川下の両方を握られると、価格交渉の主導権は売り手に移っていく。今のうちに種苗改良の進捗と産地の集中度を追っておくことが、数年後の調達コストを左右する。

現場の声も割れている。メコンの養殖業者からは「浜値は底なのに稚エビ代だけ下がらない、親が輸入だからだ」という不満が漏れる。一方でハッチェリー関係者は「独自の親エビ系統を安定させるのは10年仕事で、数年で置き換わる話ではない」と冷静だ。日本の輸入バイヤーの間では「種苗が国産で安定すれば供給と価格が読める。まずは対米が詰まったぶんアジアへ回る量を見たい」との見方がある。

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この記事を書いた人

京都で食品ブランドを運営しながら、これまで乾燥野菜や野菜パウダーなど、素材の魅力を活かした商品づくりに携わってきました。現在はベトナム在住2年目で、現地ではコーヒーの生産現場にも関わり、栽培から加工、味づくりまで一貫して学んでいます。毎日の暮らしの中で、安心して楽しめる食品を届けたいという思いから、生産背景や作り手の顔が見える商品を大切にしています。日本とベトナム、それぞれの食文化の魅力を活かしながら、日常にちょっとした豊かさを届けることを目指しています。

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