ベトナムの水産物輸出が、2026年通年で120億ドル(米ドル)を超える見通しに入った。地元経済メディアMekong ASEANの報道によれば、1〜8月の輸出額はすでに約80億ドルに達し、前年同期を11.8%上回るペースで進む。牽引役はエビと、白身魚のパンガシウス(cá tra)だ。世界の白身魚供給が細って原料価格が高値圏に張り付くなか、通年で養殖できるパンガシウスの相対的な競争力が上がり、日本の外食・PB向けの白身魚調達でも現実的な選択肢に浮かび上がっている。
8か月で80億ドル、内訳はエビとパンガシウスが柱
1〜8月の品目別を見ると、水産全体の底堅さがそのまま白身魚の話につながる。金額はいずれも米ドル建てで、原資料の10億ドル単位(tỷ)を億ドルに換算した。
| 品目・市場 | 1〜8月輸出額 |
|---|---|
| 水産物 総額 | 約80億ドル(前年同期比+11.8%) |
| エビ | 32億ドル |
| パンガシウス(cá tra) | 15億ドル |
| マグロ | 6.222億ドル |
| イカ・タコ | 5.24億ドル |
| カニ・甲殻類 | 3.049億ドル |
| 中国・香港向け | 20.3億ドル(全体の約25%) |
| 米国向け | 12.4億ドル(ほぼ横ばい) |
中国・香港向けが全体の4分の1を占めて最大市場になった一方、米国向けは前年並みで足踏みした。パンガシウスは15億ドルと、前年同期を1割近く伸ばしている。輸出の総額が過去のペースを超えて積み上がっている点は、日本のバイヤーが原料の手当てを考えるうえで前提になる。
タラとスケソウダラの世界供給が細り、原料価格が最高値圏へ
パンガシウスの追い風は、需要側ではなく供給側の事情から来ている。世界の白身魚原料、とりわけタラ(コッド)とスケソウダラ(アラスカポラック)の漁獲枠が2026年に絞られた。米国の北太平洋漁業管理委員会は、アラスカ湾のスケソウダラの2026年漁獲枠を前年比26%減の約13.4万トンに設定した。大西洋タラは世界供給が約10%減の64万トンに落ち、バレンツ海の枠は前年の半分以下にまで下がっている。
枠が縮めば原料は取り合いになる。ノルウェー産タラは1トンあたり1万2000ドル近辺、ロシア産スケソウダラは2500〜3000ドルへと切り上がり、天然白身魚の相場は記録的な水準で推移している。日本の外食・量販がすり身や白身フライで使ってきた原料が、そのまま値上がりしている構図だ。この供給逼迫と越産パンガシウスの伸びを合わせた見立ては、スケソウダラ相場の高騰とパンガシウス輸出の増加を追った記事でも整理している。
KBSVはパンガシウスを低コスト代替と位置づけた
証券系のKBSVは、この局面をパンガシウスにとっての需要継続要因と読む。原資料は「タラやスケソウダラといった高・中級の白身魚の世界供給が軽微に減少傾向にあり、これらの価格が高止まりしている」とし、その結果としてパンガシウスが低コストの代替品として選ばれ続けると見込む。天然魚の枠が回復しない限り、価格差を理由にした切り替えの動きは続くという整理だ。
養殖魚であるパンガシウスは、天然資源の漁獲枠に縛られない。メコンデルタで通年供給でき、フィレ状で骨と皮を除いた形にそろえやすい。原料相場が乱高下する天然白身魚に対して、価格と数量の両面で見通しを立てやすい供給源になっている。
日本の外食は白身フライで代替魚を回してきた
日本の外食が白身魚をどこで使ってきたかを振り返ると、切り替えの余地が見えてくる。弁当や給食の白身魚フライ、フィッシュ&チップス、ファストフードのフィッシュバーガー、ファミリーレストランのフライ盛り合わせ——ここで使われてきたのはホキ、メルルーサ、スケソウダラといった魚種だ。多くは骨と皮を外したフィレやバッター付き加工品として入ってくる。
パンガシウスはこの層に入りやすい。白身で癖が少なく、フィレのサイズがそろい、フライやムニエルに加工したときの見栄えが安定する。回転寿司チェーンが白身のネタや天ぷらの原料に採用してきた実績もあり、日本の外食チェーンでの採用の広がりは個別の店舗の話ではなく、原料調達の一つの層として定着してきた。天然白身魚が高値圏にある今、この層での置き換えを検討する外食チェーンが増える余地がある。
PBの冷凍白身魚で採用余地が広がる
量販店のPB(プライベートブランド)でも、白身魚は主力カテゴリーだ。冷凍の白身魚フライ、味付け切身、煮付け、フィッシュナゲットなど、加工度の高い商品ほど原料魚種の切り替えがしやすい。消費者が魚種名より価格と食べやすさで選ぶ層では、原料をパンガシウスに寄せても商品設計が成立する。
PB開発の担当者にとって、原料価格の安定は棚価格の維持に直結する。天然タラ・スケソウダラの相場が上がり続ければ、同じ売価を保つために原料を見直す判断が現実味を帯びる。パンガシウスは、その見直しの受け皿になりうる魚種だ。加工品としての完成度を上げる動きは、量産から加工品へ舵を切るベトナム側の輸出戦略とも重なる。
調達では規格・加工度・産地コードを先に固める
越産パンガシウスを日本の調達に組み込むときは、価格の安さだけで判断せず、規格を先にそろえる作業が要る。確認しておく項目を挙げる。
- フィレのサイズ区分と1枚あたりの重量レンジ
- グレーズ(氷衣)率と正味重量の表示
- CO(一酸化炭素)処理や漂白処理の有無
- 加工度(フィレ、カット、バッター付き、味付け済み)
- 対日輸出が可能な登録工場か、産地コードの有無
これらは歩留まりと最終原価に直結する。グレーズ率が高ければ正味の魚肉は減り、見かけの単価が安くても実質は割高になる。工場の登録状況と産地コードは、対日輸出の可否そのものを左右する。VietFishなどの商談機会でサンプルと規格書を突き合わせ、複数工場を横並びで比較しておくと、切り替え時の失敗を減らせる。
対米関税の余波が対日供給を厚くする
供給側の事情として、貿易環境の変化も日本のバイヤーに関係する。米国向けの反ダンピング関税が確定し、対米で不利になった数量の一部がCPTPP圏や日本に向かう流れが出ている。米国向けが横ばいで足踏みしている今の数値は、その裏返しでもある。対米関税の確定で日本に流れる白身魚の動きは、日本側から見れば調達余地の拡大につながる。
ただし関税や市場配分は年ごとに動く。対日供給が厚くなる局面は続くとみられるものの、単年の数値を恒常的な条件と見なすと在庫や契約で読み違える。四半期ごとに輸出動向を追い、複線で仕入れ先を確保しておく姿勢が要る。
品質のばらつきと原産地表示は事前に詰める
切り替えにあたって潰しておくべき論点もある。第一に品質のばらつきだ。工場や時期によってフィレの色や食感に差が出るため、初回ロットだけでなく複数回のサンプルで安定性を確認する。第二に原産地・魚種の表示で、日本国内でパンガシウスやバサとして販売する際の表記ルールを、加工前に法務・品質部門と確認しておく。第三に為替で、米ドル建て契約が多いため、円安局面では価格優位が目減りする点を見込んでおく。
これらは切り替えを止める理由ではなく、切り替えを安定させるための前提だ。天然白身魚の高値が続く前提に立てば、確認事項を先に片付けたバイヤーほど、来期の原料手当てで身動きが取りやすくなる。
9月以降、日本のバイヤーの調達判断が動く
2026年の越産水産は、通年120億ドル超という規模のなかで白身魚の輸出を積み上げている。世界のタラ・スケソウダラが供給を絞られ高値で張り付く構図は、単年では反転しにくい。日本の外食・量販にとって、白身フライやPB冷凍品の原料をパンガシウスで組み直す検討は、価格維持の一手として現実味を増している。まずはサンプルと規格書での比較、登録工場と産地コードの確認、複線調達の確保から着手し、天然白身魚の相場と越産の輸出動向を四半期単位で追う。この二つを並べて見れば、切り替えの判断材料はそろう。
よくある質問
パンガシウスは日本の外食でどんな用途に使われますか
白身魚フライ、フィッシュ&チップス、フィッシュバーガー、天ぷら、回転寿司の白身ネタなど、骨と皮を外したフィレやバッター付き加工品として使われてきました。癖が少なくフィレのサイズがそろうため、フライやムニエルで見栄えが安定します。
なぜ2026年に越産パンガシウスの競争力が上がっているのですか
タラやスケソウダラなど天然白身魚の漁獲枠が世界的に絞られ、原料相場が記録的な高値圏に張り付いているためです。養殖で通年供給できるパンガシウスは価格と数量の見通しを立てやすく、低コストの代替として需要が続くとKBSVは見込んでいます。
調達で最初に確認すべき点は何ですか
フィレのサイズと重量レンジ、グレーズ率と正味重量、CO処理や漂白の有無、加工度、対日輸出が可能な登録工場か産地コードの有無です。これらが歩留まりと実質原価、輸出可否に直結します。
参照元:
Mekong ASEAN「Xuất khẩu thủy sản năm 2026 dự kiến vượt mốc 12 tỷ USD」(2026年9月6日)
Undercurrent News「US regional council slashes 2026 Gulf of Alaska pollock, Pacific cod quotas」
Tradex Foods「Global Seafood Supply Crunch 2026」