ベトナム北中部・ゲアン省の沿海で、高度な技術を使ったエビ養殖farmが台風の直撃から立ち直りつつある。2025年末に相次いだ2つの台風、とくに第10号で池と設備が壊滅的な打撃を受けたが、経営者は撤退ではなく設備の作り直しを選び、翌2026年1月末までに修復を終えて稼働を立て直した。地元紙が2026年9月18日に伝えたこの現場は、気候リスクにさらされる産地が「それでも高度化を進める」判断をどう下すかを具体的に示している。ベトナム産エビを仕入れる日本の水産関係者にとっても、供給の安定を担う担い手の実像を知る材料になる。
何が起きたのか
舞台はゲアン省ハイチャウ地区の沿海地帯。5ヘクタール超の高度養殖モデルを営むThái Bá Nghĩa氏のfarmが、2025年末の連続台風で大きな被害を受けた。同紙によると、被災後に池の修復と機器の入れ替えだけで約20億ドン(約1,200万円)を投じ、修復は数か月かけて2026年1月末に完了した。さらに、この1年で農場全体に投じた資金は約70億ドン(約4,200万円)にのぼる。5ヘクタール超の高度養殖モデルには、少なくとも数十億ドン規模の投資が要るという。被害額の大きさよりも、それでも再投資に踏み切った判断が現場の焦点になっている。
どんな技術で養殖しているのか
farmが採る手法は、天候任せの伝統養殖とは設計思想が違う。池の底から酸素を送る仕組みを備え、排せつ物やヘドロを自動で抜くサイフォン構造を組み込む。修復にあわせて池の水深を1.2メートルから1.6メートルへ40センチ深くし、水量を増やして水温や水質の急変を和らげた。日中に42度まで上がり夜間に大きく下がる気温差を、深い水がクッションのように吸収する狙いだ。
もう一つの柱が餌と病気の管理である。飼料には微生物や酵素、ビタミンに加え、ニンニク・ショウガ・ウコンといった植物由来の成分を混ぜ、エビの健康を保って病気を出にくくする。水温や溶存酸素はリアルタイムで監視し、異常があればすぐ手を打てるようにしている。技術面はベトナム農業アカデミー出身のĐỗ Hữu Quỳnh氏が助言し、現場はBùi Xuân Lành氏が回している。
投資と被害の内訳
| 項目 | 金額・数値 | 円換算の目安 |
|---|---|---|
| 台風後の修復・機器入れ替え | 約20億ドン | 約1,200万円 |
| 1年間の農場全体への投資 | 約70億ドン | 約4,200万円 |
| 5ha超モデルに要する投資 | 少なくとも数十億ドン | 数千万円規模 |
| 池の水深(改修前→後) | 1.2m → 1.6m(+40cm) | — |
| 日中の最高気温 | 42度 | — |
※円換算は1ドン=約0.006円(1万ドン≈約60円、2026年9月中旬の為替を目安)で算出。被害額のうち作物損失を含む全体規模は同紙で数十億ドンと伝えられるが、内訳の正確な数字は示されていない。ここでは修復費と総投資という確認できる数字を用いた。
ゲアン省の養殖はどれくらいの規模か
ゲアン省全体では、2025年の養殖面積が1,776ヘクタール、生産量は11,428トンと報じられている。メコンデルタの巨大な産地に比べれば小さいが、北中部という立地は、メコンデルタ以外の供給地を探すうえで選択肢の一つになる。高度養殖farmが個々に技術を磨けば、この地域全体の供給の質と安定度が底上げされていく。
現場と業界はどう見ているか
現場では、伝統的なやり方の養殖が採算・病気の両面で行き詰まっているとの認識が共有されている。だからこそ高度養殖は「避けられない方向」と受け止められ、台風被害という痛手のあとでも再投資に向かった。技術顧問の立場からは、水深の確保と環境監視が気候の振れに耐える鍵として説明されている。
業界の側で見ると、この判断は個別farmの根性論ではない。ベトナム各地で、認証取得や環境制御によって単価と安定を取りに行く動きが広がっている。塩害や高水温、暴風といった構造課題に対し、設備投資で耐性を上げるという解き方が定着しつつある。ゲアンの事例は、その流れが北中部の中小規模の現場にも及んでいることを示す。
日本のエビ調達が得る手がかり
日本の水産バイヤーがこの現場から読むべき点は三つある。第一に、酸素供給や環境監視を組み込んだ養殖は、病気や水質悪化による突然の生産停止を抑えやすく、供給の安定に寄与しうること。第二に、ニンニクやウコンなど植物由来成分と微生物で病気を抑える設計は、薬剤に頼りすぎない養殖と方向性が近く、品質面での評価につながりやすいこと。第三に、台風被害から短期で立ち直った回復力そのものが、供給元を選ぶときのリスク評価の材料になることだ。
ベトナムのエビでは、認証を軸に対日・対EUの取引に踏み込む産地が増えている。ダムゾイのASCブラックタイガー721haの取り組みや、組合単位でASC認証を取ったカマウの事例は、養殖の高度化が販路に直結することを示している。ゲアンのような北中部の現場も、この認証・規格の流れに乗れば対日供給の選択肢に加わってくる。
輸出市場の並び替えにどう乗るか
ベトナムのエビ輸出は市場ごとに濃淡が出ている。対米が関税や規制で伸び悩む一方、豪州など別の市場が急伸し、主要国の並びが入れ替わりつつある。豪州向けが7月に43.9%増えた一方で韓国が失速した動きは、産地が特定市場に依存しないほうが強いことを示す。環境制御で年間供給を安定させたfarmは、こうした市場の振れに合わせて出荷先を切り替える余地を持つ。日本の買い手にとっては、価格の安さだけでなく、供給を止めない仕組みを持つ相手を確保しておく意味が増している。
まとめ:供給を止めない産地を選ぶ
ゲアンの高度エビ養殖farmは、気候リスクを設備投資で受け止め、被害から4か月で立て直した。日本の水産調達がこの事例から動くとすれば、まず既存の越産エビ供給元に対し、環境制御や病気管理の設計、災害時の復旧体制を具体的に聞き取ることだ。次に、北中部を含む複数産地に供給元を分散し、市場や天候の振れに強い調達網を組むこと。そして、認証と技術を備えた現場を「値段の安い産地」ではなく「供給を止めない産地」として評価し直すことが、安定した仕入れにつながる。
参照元
Nông nghiệp và Môi trường「Nuôi tôm công nghệ cao và rủi ro chực chờ」(2026年9月18日)