ベトナムのパンガシウス(越ナマズ)業界が、生産量を積み増す競争から、切り身より先の加工で稼ぐ方向へ舵を切り始めた。国営メディアが伝えた業界関係者の言葉を借りれば、勝ち筋はもはや養殖規模の大きさではなく、養殖から加工・副産物までのバリューチェーン全体を握れるかどうかにある。冷凍フィレの安売り一本足から、フィレのその先へ。この転換は、円安下で生鮮の丸魚を買いにくくなった日本の食品バイヤーにとって、調達の組み替えを考える材料になる。
起点となった業界の宣言
養殖の一大集積地であるアンザン省を舞台に、パンガシウス業界は「量から価値へ」の方針を明確にした。従来はほぼ冷凍フィレのまま輸出していた魚を、下処理・味付け・調理済みへと工程を重ね、1尾あたりの単価を引き上げる。同時に、これまで捨てていた脂・皮・頭・骨を、魚油やコラーゲン、ゼラチン、フィッシュミールへと展開する動きも進む。VietGAP・GlobalGAP・ASCといった認証を土台に、米国・EU・中国・コロンビアなど要求水準の高い市場で通用する品質を作りにいく段階に入った、というのが業界の自己認識だ。
数字で見る「まだフィレ頼み」の実像
宣言は前向きだが、輸出構造の実態はいまだ冷凍フィレが主役だ。ベトナム水産物輸出加工協会(VASEP)系の統計を突き合わせると、2025年1〜11月のパンガシウス輸出は20億ドルを超え、前年同期比で約9%伸びた。2026年通年は23億ドル前後という見通しも出ている。ただし、その中身は下の通り、いまも冷凍フィレに大きく偏っている。
| 区分 | 2025年1〜11月の輸出額 | 前年同期比 |
|---|---|---|
| 冷凍フィレ(HS0304) | 約16億ドル | +11% |
| 調理・加工品(HS16) | 約4,800万ドル | +13% |
加工品は伸び率こそフィレを上回るが、金額の桁がひとつ違う。調理・加工品が輸出全体に占める比率はまだ数%にとどまり、業界が掲げる「価値創造」はまだ入口に立ったばかりというのが正直な読み方になる。裏を返せば、伸びしろの大きい未成熟な市場でもある。
なぜ日本の調達に効くのか
この転換が日本にとって重要なのは、日本のパンガシウス需要が「丸魚の安さ」ではなく「手のかかった加工品」に寄っているからだ。回転寿司の白身や外食チェーンのフライ用ポーションとして、パンガシウスはすでに国内で定番化している。その経緯はくら寿司の白身がナマズだったという定番化の歩みに詳しいが、日本の食卓に入り込んだのは切り身そのものより、規格化された調理向けの形状だった。
つまりベトナム側が進める「フィレのその先」は、日本のバイヤーが元々求めていた領域と重なる。丸魚を仕入れて国内で切り身に落とす工程は、円安と人手不足のなかで年々割に合わなくなっている。むきエビや切り身、加熱加工品といった手間を現地に移せる付加価値品にこそ日本の調達の厚みがある、という構図は越水産58億ドルの中身と「加工」という穴場でも見た通りだ。パンガシウス業界の値上げ志向は、日本にとって値上げというより「工程の外注先が育つ」話に近い。
白身魚の調達地図が動く
パンガシウスの加工シフトは、単独で起きているわけではない。ベトナムの水産各社は、パンガシウスと並ぶ白身魚としてティラピアの一気通貫加工にも乗り出しており、越産ティラピアが一気通貫工場で白身魚調達の選択肢を塗り替える動きと合わせて見ると、日本の白身魚バイヤーが選べる「現地加工済みの供給源」は着実に増えている。パンガシウスが調理済みへ、ティラピアがフィレ加工へと、それぞれ川下に軸足を移すことで、日本の輸入担当は魚種と加工度の組み合わせを増やせる。
日本のバイヤーが今できること
実務としては、まず取引先が冷凍フィレ止まりなのか、味付け・調理済み・ポーション加工まで対応できるのかを棚卸ししておきたい。HS16区分の加工品を扱う工場はまだ少数派で、ASCなど認証の有無と合わせて早めに押さえておくと、供給が細る局面で有利に働く。副産物のコラーゲンやゼラチンは水産以外の食品・サプリ原料としての引き合いもあり、白身魚のフィレだけを見ていると取りこぼす。「切り身を買う」から「工程ごと調達する」へ視点を移すことが、円安下の水産調達で効いてくる。