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エビ最大手ミンフーが動いた、日本の調達を変えるカマウ新工場

2026年6月28日、ベトナム最南端のカマウ省で、エビ加工大手ミンフー(Minh Phu)グループの新工場「ミンフー・カインアン水産加工工場」が正式に稼働しました。投資額は約1兆5,000億ドン(約5,700万ドル、約88億円 ※1ドル=約155円、1万ドン=約60円の執筆時概算)、年間処理能力は3万5,000トン、雇用は5,000人超の計画です。日本はベトナム産エビの第3位の輸出先であり、ミンフーには三井物産が35.1%を出資しています。カマウの一工場の話に見えて、実際には日本の食品バイヤーのエビ調達に直結するニュースです。本稿では、この新工場が対日供給に何をもたらすかを掘り下げます。

目次

6月28日、カマウで「年3万5,000トン」のエビ工場が動き出した

ベトナム水産輸出加工協会(VASEP)と現地報道によると、新工場はカマウ省カインアン工業団地内の約4.95ヘクタールの敷地に建設され、生産棟の面積は2万4,500平方メートル。ミンフーグループにとって6カ所目の加工拠点となります。開所式でカマウ省の指導部は「省の加工能力を高め、輸出価値の向上を支える施設」と位置づけました。

立地の意味も小さくありません。カマウ省は2025年に水産物輸出額24億ドル超を記録した、ベトナム最大級のエビ供給地です。原料となる養殖エビの産地のただ中に大型加工場を置くことで、原料調達から加工・輸出までの距離を最短化する狙いが読み取れます。

選別も殻剥きも全自動、ノバシエビは7〜8割——工場の中身

現地紙トイチェによると、新工場ではサイズ選別・色選別・殻剥きの各工程が完全自動化され、ノバシエビ(天ぷら用に筋を切って引き伸ばす加工品)の工程も自動化率70〜80%に達しています。ノバシエビは名前の通り日本の外食・惣菜向けがほぼ専用の製品カテゴリで、この工程に自動化投資を集中させたこと自体が、新工場が日本市場を強く意識して設計されたことの証拠と言えます。

背景には人件費の上昇と、バイヤー側の価格圧力があります。VASEPは、日本円がこの数年で対ドル約40%下落し、日本の輸入業者の購買力を圧迫していると指摘しています。円安で値上げが通りにくい市場に売り続けるには、人手に頼っていた加工コストを機械で吸収するしかない——1兆5,000億ドンの投資は、その答えです。

ミンフーグループは従業員1万3,000人超を抱え、2025年の輸出額は約5億4,200万ドル。約50カ国に輸出し、主力市場は米国と日本です。2019年には三井物産が約35.1%の株式を取得しており、日本の商流とは資本レベルで結びついています。

数字で見る対日エビ貿易とミンフーの位置

今回の増強がどの規模感の市場に効いてくるのか、検証できた数値を整理します。

項目 数値 出所・時期
新工場の年間処理能力 3万5,000トン VASEP(2026年6月)
投資額 約1兆5,000億ドン(約5,700万ドル) VASEP・トイチェ
日本のベトナム産エビ輸出に占める割合 第3位・全体の13% VASEP
ベトナムの対日エビ輸出(2025年1-5月) 2億1,800万ドル超(前年比+19%) VASEP
日本のエビ輸入総額(2025年1-4月) 6億400万ドル(前年比+6%) VASEP
対日輸出に占める加工品(衣付き・フライ・寿司エビ等)の比率 90%以上 VASEP

対日輸出の9割超が加工品という構造は、素材のまま安値で攻めるエクアドルやインドとの決定的な違いです。2025年1-4月の日本市場では、ベトナムが1億5,000万ドル超(前年比+12.6%)と、追い上げるインドネシア(1億100万ドル、+9.4%)を上回るペースで伸ばし、リードを保っています。両国とも数量を伸ばすなかで、加工力の差がそのまま競争力に直結する局面です。

「風通しの良い職場」から「輸出拠点の地位強化」まで——現地の受け止め

開所式でミンフーのチュー・ティ・ビン会長は、新工場の設計について「生産性を高めると同時に、従業員に広く風通しの良い労働環境を提供する」と述べました。5,000人規模の雇用を安定的に維持するには職場環境そのものが競争力になる、という現地労働市場の実情がにじむコメントです。カマウ省の指導部は「省の経済成長を促し、ベトナムの水産輸出を後押しする重要なマイルストーン」と歓迎しました。また、株主である三井物産は出資参画時から「ミンフー製品の日本市場への販売拡大」を掲げており、日本側の商流もこの増強を待ち構えていた格好です。

日本の食品バイヤーへの示唆——「供給余力」をどう使うか

①加工エビの「枠」が取りやすくなる

年3万5,000トンの新設能力は、ベトナムの対日輸出構造(加工品比率90%以上)にそのまま乗る増強です。これまで年末需要期には天ぷら用ノバシや寿司エビの生産枠が逼迫しがちでしたが、日本向け工程に自動化投資を集中した新ラインの稼働で、繁忙期の数量確保とリードタイム短縮の交渉余地が広がります。エビ加工大手の対日戦略という点では、ミンフーと並ぶ大手がティラピアで寿司ネタ市場を狙う動き(エビ大手がティラピアで日本の寿司ネタへ、白身の新供給源)とも軌を一にしており、ベトナム水産大手が「日本の売場から逆算した設備投資」に踏み込んだ流れとして読むべきです。

②円安下の価格交渉材料になる

選別・殻剥きの全自動化は、加工コストの人件費依存を下げ、円安でドル建て値上げが通りにくい日本向けの価格維持余地を作ります。バイヤー側から見れば「新工場の自動化ラインでの生産か」を仕様確認の項目に加えることで、品質の安定とコストの根拠を同時に押さえられます。折しもインドネシアの水産工場の対中輸出解禁で域内の需給地図が動いており(インドネシア638工場が対中解禁、越エビ調達はどう変わる)、供給元を比較する材料は多いほど有利です。

③原料側の制約と立ち上がりには注意

留意点もあります。雇用5,000人・処理3万5,000トンはいずれも計画値で、フル稼働までは時間がかかるのが通例です。また加工能力が増えても、原料となる養殖エビの供給が追いつかなければ絵に描いた餅になります。ベトナムでは高密度・多段式の養殖で原料側を増強する動きが進んでおり(元漁師が年商120億ドン、タインホア海岸で挑む3段式エビ養殖)、加工と養殖の両輪が揃うかを2026年後半の出荷実績で確かめる必要があります。

波及——ベトナム水産は「設備で勝つ」局面へ

カマウの新工場は単発の投資ではなく、ベトナム水産業界全体が労働集約から設備集約へ舵を切るシグナルです。CPTPPによる関税面の優位と加工技術の蓄積を持つベトナム勢が自動化投資を進めれば、インド・エクアドルとの棲み分け(素材は新興勢、加工品はベトナム)はさらに固定化するでしょう。日本のバイヤーにとっては、加工エビの調達先としてのベトナムの地位が中期的に強まる一方、加工賃の値決め根拠が「人件費」から「設備稼働率」へ変わっていくことを意味します。

実用情報——調達検討時のチェックポイント

項目 内容
工場名・所在地 ミンフー・カインアン水産加工工場(カマウ省カインアン工業団地)
稼働開始 2026年6月28日
処理能力 年間3万5,000トン
グループ体制 加工6拠点・従業員1万3,000人超
日本との資本関係 三井物産が35.1%出資(2019年〜)
対日主力製品 ノバシエビ・衣付き・フライ・寿司エビなどの加工品

まとめ——秋冬の商談で「新工場カード」を切る

ミンフーのカマウ新工場は、日本向け加工エビの供給余力と価格安定性を同時に押し上げる投資です。日本の食品バイヤーが今動くなら、次の3つです。第一に、取引のある商社・輸入元に新工場ラインの生産割当と対日仕向けの計画を確認すること。第二に、年末需要に向けた2026年秋冬の価格・数量交渉で、新工場稼働を数量確保と価格維持の材料に使うこと。第三に、自動化ラインの柔軟性を生かし、ノバシの規格や衣の仕様など小口カスタムの引き合いを早めに打診することです。エビの王者が日本の売場を見て工場を建てた——この事実を、調達側も交渉のテーブルに載せない手はありません。

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この記事を書いた人

京都で食品ブランドを運営しながら、これまで乾燥野菜や野菜パウダーなど、素材の魅力を活かした商品づくりに携わってきました。現在はベトナム在住2年目で、現地ではコーヒーの生産現場にも関わり、栽培から加工、味づくりまで一貫して学んでいます。毎日の暮らしの中で、安心して楽しめる食品を届けたいという思いから、生産背景や作り手の顔が見える商品を大切にしています。日本とベトナム、それぞれの食文化の魅力を活かしながら、日常にちょっとした豊かさを届けることを目指しています。

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