ベトナム産ドリアンの調達現場に、これまでとは違う空気が流れ始めた。2026年7月14日、ホーチミン市で開かれた第2回アジアドリアン会議には約500人が集まり、そのうち中国からのバイヤーだけで100社を超えた。果物専門チェーンのPagoda(百果園)、Xianfeng Fruit(鮮豊水果)、JD Fresh(京東生鮮)、Goodfarmer Group、Shouheng Groupといった中国流通の主力が一堂に会し、越産ドリアンの調達計画を持ち寄った。会議で繰り返されたのは「量と価格の競争から、品質・規格・ブランドの競争へ」という一言だった。日本の食品バイヤーにとって、この転換は対岸の話ではない。中国という巨大な買い手が越産果実の質を引き上げていく過程で、日本の調達条件も静かに書き換えられていくからだ。
500人・中国100社超が集まった会議で何が語られたか
会議はホーチミン市商工会議所支部、B2Bプラットフォームのアイフレッシュ・アジア・フルーツ、そして輸出企業Dakagoが共催した。7月14日から15日にかけて商談と議論が続き、16日には産地の圃場視察も組まれた。約500人という参加者の内訳で目を引くのが、中国側の厚みである。100社を超える中国企業が現地に足を運んだという事実は、越産ドリアンが単なる「安い供給源」ではなく、中国の小売各社が長期に囲い込みたい戦略商材へと格上げされたことを示している。
Pagodaは中国全土に数千店舗を展開する果物専門チェーン、JD Freshは京東(JD.com)の生鮮部門で、いずれも中国国内で品質を売りにする販路を持つ。こうした買い手が求めるのは「とにかく大量に安く」ではなく、「棚に並べて自社ブランドの信用を保てる品質」だ。会議で品質・規格・ブランドへの転換が語られた背景には、買い手側のこうした構造変化がある。
数字で見る越ドリアンの現在地
2026年の最初の5か月間で、ベトナムのドリアン輸出は明確な回復を見せた。検証できた数値を整理すると、越産ドリアンがいま置かれた局面がはっきりする。
| 項目 | 2026年1〜5月の輸出額 | 前年同期比 |
|---|---|---|
| ドリアン輸出総額 | 5億6,240万ドル | +45.2% |
| うち生果 | 4億8,310万ドル | — |
| うち冷凍 | 7,790万ドル | +60.3% |
| うち加工品 | 140万ドル | +16.7% |
| 対中国輸出 | 4億9,200万ドル | +76.7% |
1ドル≒150円で換算すると、輸出総額はおよそ843億円、対中国だけで約738億円にのぼる。注目すべきは中国向けが全体の87.5%を占めるという集中度と、その伸び率が総額の伸び(+45.2%)を大きく上回る+76.7%だった点だ。つまり越産ドリアンの成長は、いま中国という一つの市場が牽引している。さらに冷凍が+60.3%と生果を上回るペースで伸びており、鮮度リスクを抱える生果一辺倒から、加工・冷凍を含む多面的な供給へと産地がシフトしつつある様子も読み取れる。この加工へのシフトについては、生果は急落する一方で冷凍が伸びる越ドリアンの構造変化で詳しく触れている。
「量」から「質」への転換が生む対中依存という賭け
会議のキーワードだった「量・価格から品質・規格・ブランドへ」という言葉は、産地にとって前向きな進化であると同時に、一つの賭けでもある。中国の大手小売が品質基準を引き上げるほど、その基準を満たす産地・農家は中国向けの取引に最適化されていく。産地コードの取得、トレーサビリティ、規格の統一といった投資は、まず最大の買い手である中国市場を見て行われる。
実際、越産ドリアンでは産地コードを農家単位まで下ろし、長期輸出に耐える標準化を進める動きが加速している。この動きは産地コードで長期輸出の設計図を描くカントーの取り組みにも表れている。品質で競う体制が整うほど、その果実は「中国の棚に合わせて作られたドリアン」になっていく。対中依存が数量だけでなく、品質規格の面でも深まっていくということだ。
日本の調達担当にとって、この転換は追い風か逆風か
ここが日本のバイヤーにとって最も重要な論点になる。結論から言えば、この品質シフトは短期的には逆風、中長期では追い風になりうる。
逆風の側面は明快だ。中国の大手が品質の高いロットを長期契約で押さえるほど、日本の小口バイヤーが同等品質のドリアンを確保しにくくなる。価格でも、87.5%を占める中国市場の動向が相場そのものを決めるため、日本側は「中国が買う値段」を前提に交渉せざるを得ない。生果ドリアンで中国と同じ土俵に立つのは、数量・スピードの両面で不利が大きい。
一方で追い風もある。産地が品質・規格・トレーサビリティに投資すれば、その恩恵は中国向けだけに閉じない。産地コードやQRによる履歴管理が整った農家は、日本の厳しい残留基準や産地確認にも対応しやすくなる。ベトナムが全国的なトレーサビリティ制度を動かし始めたことは、日本側の産地確認の手間を大きく減らす。この点はドリアンをQRで追う越の全国制度で整理した通りだ。中国が引き上げた品質のインフラを、日本が生果ではなく別の形で使う――そこに現実的な勝ち筋がある。
生果で競わない、という選択肢
日本の調達が中国と正面から生果で競うのは分が悪い。だとすれば、越産ドリアンで日本が狙うべきは加工・冷凍の領域だ。冷凍ドリアンの輸出が+60.3%と伸びていること、加工品市場がまだ140万ドルと小さく伸びしろが大きいことは、日本のバイヤーにとって示唆的である。ピューレ、ペースト、冷凍果肉といった業務用素材なら、鮮度のスピード競争を避けつつ、菓子・製パン・アイス・ドリンクの原料として安定調達できる。中国の大手が生果の一等品を押さえるなら、日本は加工原料という別の入り口から越産ドリアンにアクセスすればいい。
この考え方は、供給過剰で産地が底値になる局面ほど効いてくる。相場が下がったときに生果を買い付けるより、加工・冷凍のサプライヤーと年間契約を結んでおくほうが、価格変動の影響を受けにくい。ドリアンの相場変動そのものについては、底値から反転したベトナム産ドリアンの仕入れの読み方も参考になる。
まとめ:中国が作る品質のうねりに、日本はどう乗るか
第2回アジアドリアン会議が示したのは、越産ドリアンが「安い供給源」から「品質で選ばれる商材」へと立場を変えつつある現実だった。約500人、中国100社超という規模と、対中輸出+76.7%という数字は、この転換を中国の買い手が牽引していることを物語る。
日本のバイヤーにとっての実務的な次の一手は三つある。第一に、生果で中国と価格競争せず、加工・冷凍原料に軸足を移すこと。第二に、産地コードとトレーサビリティが整った産地・輸出企業をいまのうちに見極め、関係を築いておくこと。第三に、中国相場に振り回されないよう、年間ベースの契約や複数産地の分散を設計しておくことだ。中国が引き上げる品質のうねりは止められない。ならば、その波の上に日本ならではの調達の型を組み立てる番である。