メコンデルタの一角で、有機栽培の米が慣行栽培の収益をはっきり上回った。アンザン省ギオンリエン社のタントゥアン農業協同組合が2026年夏秋作で記録した有機米の利益は1ヘクタールあたり33.576百万ドン(1万ドン≒60円換算で約20万円、2026年7月時点・変動あり)。慣行栽培より11.62百万ドン、日本円でおよそ7万円多い。国産の高品質米を探す日本の調達担当にとって、メコンに新しい供給源の芽が出た話として読める。
「有機は薄利」を崩した1ヘクタールの数字
有機米は手間がかかり収量も落ちる、というのが産地でも長く語られてきた前提だった。タントゥアン協組の夏秋作はその前提を数字で押し返している。収量は有機で7.5トン、慣行で6.5トンと、有機のほうが1トン多い。化学肥料と農薬を抑えたことで投入コストは1ヘクタールあたり4.4百万ドン(約2.6万円)減り、総投入コストは20.4百万ドン(約12万円)に収まった。収量が上がり、コストが下がり、単価も守られた——三方が同時にそろったから利益が伸びた。
単価を支えているのが、企業との買取契約だ。TP.HCMのTTP Globalが1キロ7,200ドン(約43円)で買い取る仕組みで、市況に振らされる相場売りと違い、作付け前から手取りが見通せる。有機の付加価値を農家の利益として現金化する回路が、この産地では動いている。収量7.5トンを7,200ドンで売れば売上は約54百万ドン。ここから投入20.4百万ドンを引けば、記事にある33.576百万ドンの利益とほぼ一致する。
数字で見る有機と慣行の差
| 項目 | 有機栽培 | 慣行栽培 |
|---|---|---|
| 収量 | 7.5 t/ha | 6.5 t/ha |
| 1haあたり利益 | 33.576百万ドン(約20万円) | 約21.96百万ドン(約13万円) |
| 慣行比の増益 | +11.62百万ドン(約7万円) | — |
| 買取価格 | 7,200ドン/kg(約43円) | 相場売り |
| 投入コスト削減 | −4.4百万ドン/ha | — |
慣行側の利益は増益額から逆算した目安で、原文が示すのは有機の利益と差額だ。注目したいのは差額そのものより、その差が「収量減の我慢料」ではなく「収量増+コスト減+固定単価」の合算で生まれている点にある。
ブランドと規模へ、産地の次の一手
協組と省の農民会は、この結果を「アンザン有機米(hạt gạo hữu cơ An Giang)」というブランドに束ねようとしている。さらに2026-2027年の冬春作に向けて、有機栽培面積を2万〜3万ヘクタールへ広げる計画を掲げる。1協組の実証から、省ぐるみの供給ロットへ引き上げようという動きだ。ギオンリエン社は2025年の省再編でアンザン省に組み込まれたメコンデルタの穀倉地帯にあり、水稲の作付け基盤そのものは厚い。
アンザン省のコメづくりは、有機だけが動いているわけではない。省全体では半年で530万トンを産し、量から質・低排出へ舵を切る流れが同時に進む。その全体像はアンザン省が半年で530万トンを産し、量から質の低排出へ向かう動きに詳しい。生産現場でも、隣接するソンホア地区ではドローンと交互潅水で農協が稼ぐ米づくりのDXが進み、有機化と省力化が並走している。
日本の調達にどう効くか
日本の米調達は、国内の作況や価格の振れに神経を使う局面が続いている。そこに、固定単価の買取契約で品質と数量を設計できる有機産地が育ちつつあるのは、代替供給や配合原料を考える上で選択肢を1つ増やす。とくに業務用・加工用で「有機」「低農薬」を打ち出したい買い手には、トレーサビリティと契約栽培がセットになった産地は組みやすい。
買取契約というかたちも、日本の買い手には読みやすい。相場売りなら豊作年に価格が崩れて農家が有機をやめ、供給が細るという悪循環が起きやすい。固定単価はその振れを企業側が引き受ける代わりに、面積と品質を数量計画に組み込める。買い手・農家・仲介企業が価格変動リスクを分け合う設計は、単発のスポット買い付けより長い調達関係を築きやすく、加工原料として毎年一定量を確保したい日本のメーカーとは相性がいい。
もっとも、現時点で原文に輸出先や具体的な対日実績は書かれていない。品種名も明示されておらず、日本の食味や精米歩留まりに合うかは実サンプルでの確認が要る。有機認証の種類(国際・国内どちらの基準か)と、2万〜3万ヘクタール計画がどの程度実面積に落ちるかも、調達を検討するなら早めに詰めたい論点になる。有機栽培が利益で慣行を上回る構図自体は、コーヒーの現場でもザライの4戸が収量と利益の常識を覆した事例として確かめられており、ベトナム農業で「有機=薄利」という思い込みは崩れ始めている。
まとめ
アンザンの有機米は、収量・コスト・単価の三点が同時にそろって利益を押し上げた実例だ。1協組の33.576百万ドンという数字が、ブランド化と2万〜3万ヘクタールへの拡大という次の設計図につながっている。日本側の動き方としては、まず品種と有機認証の中身を照会し、少量の実サンプルで食味と歩留まりを測ること。契約栽培の固定単価という強みは、相場に揺れる調達の下支えになりうる。