ベトナムのドラゴンフルーツが、5月の投げ売り局面から一転して値を戻している。VnExpressが2026年8月3日に伝えたところでは、長雨で収穫が落ち込み、農家渡し価格が5月から倍増してキロ1万5,000ドン(約90円)まで上がった。赤肉種の産地であるラムドンでは2万ドン(約120円)で取引される。5月には赤字で売っていた農家が、いまはキロ3,000〜4,000ドン(約18〜24円)の利益を得ているという。
値上がりの主因が豊作ではなく減産だという点に、この相場の危うさがある。農産物バイヤーや輸入業者にとっては、単なる「高い・安い」ではなく、供給の振れ幅そのものが調達計画のリスクになる。日本の食品事業者が今の局面で何を確認しておくべきかまで踏み込んで整理する。(為替は1万ドン≒60円、1米ドル≒150円で概算。2026年8月時点)
キロ1.5万ドンへ倍増、5月の赤字からキロ3,000〜4,000ドンの利益に
まず、一次ソースで裏の取れた数字だけを並べる。農家渡しは5月比で倍増し、白肉種が1万5,000ドン(約90円)、ラムドン産の赤肉種は2万ドン(約120円)。小売も5月から倍増し、通常のドラゴンフルーツで2万5,000ドン(約150円)、赤肉種で4万ドン(約240円)となっている。
| 区分 | 価格(ドン/kg) | 円換算(概算) |
|---|---|---|
| 農家渡し・白肉種 | 15,000 | 約90円 |
| 農家渡し・赤肉種(ラムドン) | 20,000 | 約120円 |
| 小売・通常 | 25,000 | 約150円 |
| 小売・赤肉種 | 40,000 | 約240円 |
| 農家の手取り利益 | 3,000〜4,000 | 約18〜24円 |
注目すべきは利益の薄さだ。キロあたりの手取りは3,000〜4,000ドン、円にして20円前後にすぎない。相場が倍になってようやく赤字を脱したという事実は、平時の農家渡し価格が生産コストすれすれで推移していたことを裏づける。価格が上がったから儲かっている、という単純な図式ではない。
長雨で単収1割減、旧ビントゥアンが集約されたラムドンが震源
減産の直接の引き金は天候である。ラムドンの集荷業者Xuan氏は「重い雨で単収は前年から10%落ちた一方、需要は底堅い」と話す。供給が細り需要が動かなければ、価格が跳ねるのは道理だ。
ここで産地名に補足がいる。記事はビントゥアン・ドラゴンフルーツ協会をラムドンの組織として扱っているが、これは行政区画の再編によるものだ。2025年7月1日、ラムドン・ビントゥアン・ダクノンの3省が統合され、新しいラムドン省となった。ベトナム最大のドラゴンフルーツ産地だったビントゥアンは、いまラムドン省の一部として集計される。日本側で産地情報を管理する際は、旧名と新名が混在する過渡期にあることを踏まえたい。
天候要因の裏で、より構造的な変化も進む。同協会のCanh会長は「長く価格が低迷したあと、多くの農家が他の作物に転換したため、ここ数年で生産量そのものが減った」と指摘する。老いた畑がパッションフルーツなどに植え替えられていく動きは、当メディアでもラムドンの転作事例として追ってきた。今回の高値は一過性の天候ショックと、数年がかりの作付け縮小が重なった結果と読むのが自然だ。
上半期輸出は3%減の2.8億ドル、中国依存6割からの綱渡り
相場の足元を固めているのは輸出動向でもある。上半期のドラゴンフルーツ輸出は前年同期比3%減の2億8,000万ドル。Canh会長は「天候が輸出向けの供給を減らした」とも述べており、国内価格の上昇と輸出量の減少が同時に起きている。
この数字は、より長い下り坂の途中にある。Produce Reportによれば、2025年1〜11月の輸出額は4億8,500万ドルで2014年以来の低水準。2018年の約13億ドルのピークからは4割以下に縮んだ。最大の仕向け先は依然として中国で、2025年1〜11月は3億200万ドル・シェア62.2%を占めるが前年比4.5%減。中国が自国生産を年産160万トン規模まで拡大し、輸入需要そのものを絞ったことが響いている。
一方で明るい兆しもある。市場の多角化だ。当メディアが伝えた通り、2026年初頭はタイ向けが約2.7倍、UAE向けが57%増と、中国以外の販路が伸びている。天候による減産で輸出余力が細るなか、限られた玉を中国依存から脱却する新市場へどう配分するかが、産地の当面の課題になる。
日本の調達担当が今の高値局面で確認したい三点
ここからが日本の食品事業者への含意だ。ドラゴンフルーツは対日輸出が認められた数少ないベトナム産生果で、解禁は2009年、いまも年間およそ1,000トンが日本に入る。品目の背景はベトナム産ドラゴンフルーツの産地・旬・品種の解説にまとめているが、今回のような相場変動局面で押さえるべき論点は主に三つある。
第一に、価格の「底」がコスト割れだという前提だ。農家がキロ20円前後の利益でようやく黒字化する構造なら、平時の安値は持続しない。長期契約で価格を固めるなら、投げ売り水準ではなく生産コストを織り込んだ水準で握るほうが、供給の安定につながる。
第二に、天候リスクの季節性である。今回の減産は長雨が引き金だった。ベトナム南部の雨季は例年おおむね5〜10月にあたり、この時期は単収と品質が振れやすい。日本の需要期と重ねて、雨季を外した調達枠と雨季用の代替産地・代替品目を分けて設計しておくと、単価の急騰に巻き込まれにくい。
第三に、赤肉種の争奪だ。輸出の伸びはタイ・UAE・中東の加工向けが牽引しており、単価の高い赤肉種ほど引き合いが強い。生果でもパウダーやドライでも、赤肉種を安定調達したいなら、産地との直接の関係づくりを他社に先んじて進めておく価値がある。
相場より「振れ幅」を管理する調達へ
今回の倍増は、豊作の余りではなく減産の裏返しだ。農家の手取りはキロ20円前後にとどまり、輸出は3%減、最大市場の中国は自国生産の拡大で需要を絞る。値動きの大きさそのものが、産地と輸入側の双方にとってのリスクになっている。
日本の食品事業者にとっての現実解は、安いときに買い、高いときに見送るという相場追随ではない。生産コストを踏まえた価格帯で、雨季を織り込んだ枠と代替産地を組み合わせ、赤肉種は早めに産地と握る。長雨ひとつで農家渡しが倍になる作物だからこそ、価格の上下ではなく供給の振れ幅を管理する調達設計が問われている。品目全体の見取り図はドラゴンフルーツの品目ページも参照してほしい。