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老いたドラゴンフルーツ畑にパッションフルーツ、等級別買取は調達に効くか

ベトナム・ラムドン省の海沿いで、7〜8年目に入ったドラゴンフルーツの支柱が抜かれ、跡地にパッションフルーツの棚が張られた。地元紙Nông nghiệp và Môi trường(2026年7月22日、Kim Sơ記者)によれば、ティエンタイン坊の農家フイン・ヴァン・ダウ氏の0.5haは植え付けから6か月で初なり約3トンを収穫し、キロ3万〜4万ドン(約185〜247円)で捌けた。同省ハムリエム社では9世帯・4haに、等級別の最低買取価格を書き込んだ契約が付いている。日本の調達担当が拾うべきは新産地の誕生ではない。ベトナム産パッションフルーツの生果はいまも日本に入れられないという前提で、この転換をどう使うかだ。

目次

老木を抜いた1haの半分で、何が起きたか

ダウ氏が持つのは1ha。もとは全面がドラゴンフルーツだった。木が老いて採算が合わなくなり、半分を伐り倒す。跡地にゴマを播き豆を植えたが実入りは薄く、遊ばせていた。残る0.5haも7〜8年目で収量が落ち、値も安定しない。記事はその手詰まりから始まる。

空いた0.5haに入ったのは、台湾由来の黄色系品種Hoàng Kim hương ổi(VN77)。畝間4m・株間1.5mのU字型棚に仕立て、節水潅水と液肥を一体化した配管を各株の根元まで引く。防除は生物農薬が中心、施肥は完熟堆肥を主役に化学肥料を絞る。気を配るのは根元の腐敗とうどんこ病くらいだという。ダウ氏本人は2年の作型で1haあたり40トンに届くと見積もる。

売り先はニャチャンとホーチミン市の集荷業者だった。原文はダウ氏の説明として、初なりがこの2市の集荷業者へ3万〜4万ドン/kgという高値で渡り、持ち込んだ分はすべて引き取られたと書く。買い手からは、この地域のパッションフルーツは他産地より品質が優れ、甘みがすっきりしていると評価されているという。記事はダウ氏の言葉を直接話法では載せていない。残る0.5haも近く抜く予定だという。

5年で8,000ha消えた畑と、そこに張られた棚

この転換が個人の思いつきでない理由は、産地の数字に出ている。ティエンタイン坊もハムリエム社も、党中央決議60号にもとづき2025年7月1日に発足した統合ラムドン省(旧ラムドン+ダクノン+ビントゥアン)の一部で、それまではビントゥアン省だった土地だ。旧ビントゥアン省の作付は2025年初めで約2万6,000ha、5年前は3万4,000ha超だったから8,000ha近くが消えた。生産量も年60万トン近くから約50万トンへ落ちたとThanh Niên紙は伝える。輸出はさらに露骨で、2025年1〜11月は4億8,520万ドル(1ドル=約163円で約791億円)と前年同期比0.8%減、2014年以降の最低に沈んだ。

一方のパッションフルーツは、2024年の輸出額が2億2,200万ドル超(約362億円)。全国の作付は農業環境省統計で9,500ha弱、生産量は年16万〜19万トンで、ドラゴンフルーツ一省分にも届かない。対中輸出は2022年7月の試験輸出に始まり、2025年4月に中国税関総署との植物検疫議定書が署名されて枠組みが正式化した。買取価格に「1等は輸出向け」と但し書きが付く背景はここにある。

数字で読む、置き換えの採算とリスク

項目 数値 時点
越ドラゴンフルーツ輸出額 4億8,520万ドル(1ドル=約163円で約791億円)/0.8%減・2014年以降最低 2025年1〜11月
うち中国向け 3億170万ドル(約492億円)/全体の62.2%・4.5%減 同上
同ピーク 約13億ドル(約2,120億円) 2018年
旧ビントゥアン省 作付 約2万6,000ha(5年前は3万4,000ha超) 2025年初
越パッションフルーツ輸出額 2億2,200万ドル超(約362億円) 2024年
市中価格/契約下限 3万〜4万ドン(約185〜247円)/2万ドン(約123円)・kg ダウ氏実績/Eden社

最後の行が契約の性格を言い当てている。1等の下限2万ドンは、いまダウ氏が市中で取っている3万〜4万ドンの半分から3分の2でしかない。契約は上振れを取る道具ではなく、下振れを止める保険として設計されている。転作直後の農家が恐れるのは高値を逃すことではなく、2年後に値が崩れて投資を回収できないことだ。

その投資額も出ている。ハムリエム社ハムチン村のグエン・ヴァン・ティエム氏は3サオ(南部の慣行で約3,000平方メートル)に1億ドン近く、およそ62万円弱を投じた。1ha換算なら200万円規模だ。ただし棚は旧ドラゴンフルーツのコンクリート支柱を流用し、高さ2mのワイヤーを張った。転換が速いのは、前作の骨組みがそのまま使えるからでもある。

普及センター、技術員、農家──三者の温度差

ラムドン省農業普及センター副所長のグエン・ドゥック・ティエン氏は、収量の低い水田での作付転換モデルを重ねてきた経緯を説明し、「どのモデルも高い収量を出し、節水でき、病害虫も抑えられ、慣行栽培より20%以上高い利益をもたらしている。いまでは省の東南部の多くの地域が自主的に面積を広げ、持続的な方向が開けてきた」と述べている。この20%以上は水田転換を含むモデル全般の実績で、パッションフルーツ単独の数字ではない。

現場の技術員ルオン・ティ・アイン・ダオ氏の指導は細かい。台木芽と副芽を掻き取って主枝1本に養分を集めること、長雨後の新植株にトリコデルマ製剤とフミン酸を株元潅注すること、晴れが戻れば潅水を絶やさないこと。植え付け10日あまりの園にこの水準が入る事実は、後述する対日調達の可否を左右する。

農家側は足並みが揃っていない。ダウ氏はすでに収穫を経験したが、ティエム氏の園は植えて10日ほどで、記事も家族が成功に自信を持っていると書くだけで成果は報じていない。9世帯4haを実証済みの産地と読むのは早い。

生果の扉は閉じている──日本の調達が組むべき順序

ここが本題になる。ベトナム産パッションフルーツの生果実は、日本にまだ入らない。農林水産省の資料では、輸入解禁要請を受理したのが2016年7月で、以後の進展は公表されていない。同じベトナムでも、ドラゴンフルーツは白肉種が2009年、赤肉種が2017年1月に蒸熱処理を条件として解禁された。輸出が細る作物には日本への扉があり、伸びる作物には扉がないというねじれが続く。

日本の買い手が触れられるのは、冷凍パルプ、IQF、ピューレ、NFC果汁、濃縮果汁といった加工形態に限られる。この経路には厚みがあり、パッションフルーツ濃縮果汁でアジア首位を掲げるNafoods Groupは、ISO・BRC・ハラル・コーシャの認証を揃えて日本を含む市場へ出荷している(越青果36.5億ドルの上半期、日本の調達が生鮮の先へ動く理由)。

今回の等級構造は、日本側に具体的な入口を示している。1等は輸出向けで下限2万ドン、2等は国内向け1.5万ドン(約93円)、3等は1万ドン(約62円)。生果で中国へ抜けるのは1等だけで、2等・3等は国内で捌かれる。加工原料として日本が買うのは、この2等・3等の経済圏だ。中国向けの生果需要が強いほど1等は吸い上げられ、下位等級は相対的に余る。生果市場の過熱は、日本の加工調達にとって必ずしも逆風ではない。

逆に、契約の実効性には注意がいる。市中3万〜4万ドンに対して下限2万ドンという開きは、好況局面では横流しの誘因になる。契約栽培が効くのは値が落ちた局面であって、高値のときに約定数量が揃う保証はない(摘めば完売する唐辛子、契約栽培が拓くベトナム産香辛料の原料)。数量を握りたいなら、圃場ではなく集荷・加工の側と組むのが順序になる。

作型の短さも調達設計を変える。ドラゴンフルーツは7〜8年かけて老いたが、パッションフルーツは2年で一巡して植え替わる。3年契約を結んだ相手の畑は、期間中に一度ならず入れ替わる計算だ。区画単位でトレーサビリティを固定する発想は成り立ちにくく、生産者グループと普及センターの栽培記録に紐づける形が現実的になる。苗・肥料・農薬を50%補助する仕組みは、裏を返せば何をいつ投入したかの記録が公費側に残ることでもある。残留基準の監査材料として使える。

1万ha弱の作物に、2万6,000haの転作候補地が向く

市場への波及は面積を並べると見える。全国のパッションフルーツ作付は1万ha前後。対して旧ビントゥアン省だけでドラゴンフルーツが約2万6,000ha残る。仮に1割が転換しただけで2,600ha、全国面積の2〜3割が上乗せされる。しかも初収穫まで6か月だ。供給が跳ねるまでの時間は、ドリアンやコーヒーの比ではない。

価格が2年で崩れる可能性を、この算術は否定できない。だからこそ普及センターは面積を煽る前に、長期買取と品質基準・トレーサビリティを敷いている。ティエン氏は「今後、センターは技術移転を一体で進め、バリューチェーン連携を強めて収量と競争力を高め、農家の暮らしを改善していく」と述べており、順番としては筋が通る。

露地で単価と病害に振り回される構造を施設化で外す試みには先例があり(病害虫が減り単価が上がる、越パッションフルーツを温室で育てる二重の利益)、作物の入れ替わりは産地の敗北ではなく再配置として読むほうが実態に近い。

商談前に押さえる実務情報

項目 内容
実施主体 ラムドン省農業普及センター(Trung tâm Khuyến nông tỉnh Lâm Đồng)
2026年モデル ハムリエム社4ha・9世帯(ハムチン村/ホイニョン村/第2村)
先行実証 2024〜25年:ファンティエット0.5ha、ティエンタイン坊ほか計2ha
公的支援 苗・肥料・植物防疫資材の費用50%を補助
買取企業 Công ty TNHH Nông nghiệp công nghệ Eden Bình Thuận
買取条件 全量買取。1等(輸出)下限2万ドン(約123円)/kg・市況調整、2等1.5万ドン(約93円)、3等1万ドン(約62円)
品種・栽植 Hoàng Kim hương ổi(VN77)黄色系/U字型棚、旧支柱の流用可
日本向け生果 未解禁(2016年7月に解禁要請受理、以後の進展は未公表/農林水産省)
日本向け経路 冷凍パルプ・IQF・ピューレ・NFC果汁・濃縮果汁

訪問するなら窓口は生産者ではなく、普及センターと買取企業の二者になる。収穫期は、ハムリエム社の植え付けが2026年7月10日前後だった点から逆算できる。

まとめ:買うより先に、記録を見に行く

4haで9世帯という規模は、コンテナ単位の調達先としては小さい。ダウ氏の見込む1haあたり40トンを当てはめても2年で160トン、年換算80トンの生果にすぎない。ここを仕入れ先として評価するのは順序が違う。読むべきは、2万6,000haの転作予備軍が等級別の最低価格つき契約を伴って動き出した事実のほうだ。

日本側で先に着手できることは三つある。ひとつ、自社の既存パッションフルーツ原料の産地内訳を洗い直し、ラムドン省東南部の新規面積がどの加工業者へ流れるかを確認する。ふたつ、生果は未解禁という前提を商品企画と共有し、生鮮で企画を組む前に加工形態で設計する。みっつ、投入資材の記録が残る補助事業の圃場を優先候補に置き、残留基準の監査資料として使えるかを普及センターに直接確認する。

老いた畑が入れ替わる瞬間は、産地の実力を測るのに向いている。支柱を残したまま作物だけ差し替えられる土地は、次の一手も速い。

参照元:Nông nghiệp và Môi trườngVietnamBizThanh Niên農林水産省VIETJOBáo Đầu tưNông nghiệp Việt NamNafoods GroupVIETJO(越産ドラゴンフルーツ解禁)

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この記事を書いた人

京都で食品ブランドを運営しながら、これまで乾燥野菜や野菜パウダーなど、素材の魅力を活かした商品づくりに携わってきました。現在はベトナム在住2年目で、現地ではコーヒーの生産現場にも関わり、栽培から加工、味づくりまで一貫して学んでいます。毎日の暮らしの中で、安心して楽しめる食品を届けたいという思いから、生産背景や作り手の顔が見える商品を大切にしています。日本とベトナム、それぞれの食文化の魅力を活かしながら、日常にちょっとした豊かさを届けることを目指しています。

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