コーヒー殻「カスカラ茶」が生豆の4倍の価値を生む
ベトナム最大手コーヒー輸出企業の一つ、Phuc Sinh(フックシン)グループが、これまで農園で廃棄されていたコーヒーチェリーの殻を乾燥・加工し「カスカラ茶」として製品化した。この副産物から生まれたハーブティーは、生豆の4倍の単価で取引され、オランダ・イタリア・ドイツへの輸出で年間数万ドル規模の売上を記録している。
同社CEOのPhan Minh Thong氏は「農業は持続可能な”金の鉱山”だ。原料をそのまま売るのではなく、深加工に切り替えるべき」と語り、ビンズオン省とソンラ省の加工工場で生産体制を構築した。
ベトナムコーヒー輸出、過去最高の89.2億ドルに到達
カスカラ茶の成功は、ベトナムコーヒー産業全体の構造転換と軌を一にしている。2025年のコーヒー輸出総額は89.2億ドル(160万トン)で過去最高を記録。とりわけ加工コーヒーの輸出額は17.8億ドルに達し、前年比50.4%増という急伸を見せた。
品種別では、ロブスタ種が65.9億ドル(全体の73.8%、前年比57.4%増)、アラビカ種が5.5億ドル(同129.1%増)と、いずれも大幅に拡大している。2026年1月単月でも10.9億ドル(前年同月比39.5%増)を記録し、トン当たり平均輸出価格は5,450ドルに上昇した。
| 指標 | 数値 | 前年比 |
|---|---|---|
| コーヒー輸出総額(2025年) | 89.2億ドル | 過去最高 |
| 加工コーヒー輸出額 | 17.8億ドル | +50.4% |
| ロブスタ種輸出額 | 65.9億ドル | +57.4% |
| アラビカ種輸出額 | 5.5億ドル | +129.1% |
| 2026年1月輸出額 | 10.9億ドル | +39.5% |
| 平均輸出価格(2026年1月) | 5,450ドル/トン | – |
| 栽培面積 | 71万ha | – |
| 2025-26年産予測 | 180万トン | – |
「捨てていた殻」を商品に変えた背景
カスカラ(cascara)は、コーヒーチェリーの果肉・果皮を乾燥させたもので、軽い甘味とドライフルーツのような風味を持つハーブティーの原料になる。カフェイン含有量は一杯あたり約30mgと、通常のコーヒー(約95mg)の3分の1程度で、午後のリフレッシュ飲料として欧米の健康志向層に支持されている。
従来、コーヒー加工の過程で生じるチェリーの殻は産業廃棄物として農園に放置されていた。The Coffee Cherry Companyの試算によれば、カスカラをトラック1台分買い取ることで、約12.7万kgの果実廃棄を防ぎ、約10.1万kgのCO2排出削減に相当する環境効果がある。
EUは2022年にカスカラを「ノベルフード(新規食品)」として飲料用途に限定承認しており、制度面での市場参入障壁がやや高い一方、RTD(Ready-to-Drink)セグメントではAlldae Superfruit Soda、Dianaeなどの新興ブランドが参入し、2025-2026年にかけて市場拡大が見込まれている。
My Viet社も24カ国へ加工コーヒーを展開
カスカラ茶に注力するPhuc Sinhだけでなく、My Viet International Group(CEO: Doan Huu Tue氏)もアジア・欧州24カ国に加工コーヒーを輸出し、高付加価値化の波に乗っている。両社に共通するのは、「原料輸出から加工品輸出への転換」という明確な経営方針だ。
ベトナムのコーヒー栽培面積は71万haに及び、2025-2026年産は180万トン(約2,950万袋)と予測されている。この生産規模を背景に、カスカラ茶のような副産物の商品化は、追加の農地を必要とせず収益を上乗せできる点で、他の農産物にも応用可能なモデルとなっている。
現場の声: 加工シフトへの期待と課題
Phuc Sinh Phan Minh Thong CEO: 「農業は持続可能な金の鉱山。深加工に切り替えれば、同じ原料から何倍もの価値を引き出せる」
ベトナムコーヒー・カカオ協会(VICOFA)は、輸出額100億ドルの壁を突破するには「量から質へ」の転換が不可欠と指摘している。副産物活用はその具体的な一手だ。
一方、EU市場ではノベルフード規制により、カスカラの用途が飲料に限定されている。エチオピアなど他の産地では輸出カテゴリーの整備が遅れ、ベトナム勢が規制対応の早さで先行している構図がある。
日本市場・読者への示唆
日本のスペシャルティコーヒー市場でも、カスカラ茶は一部のロースターやカフェで取り扱いが始まっている。サードウェーブの流れの中で「コーヒーチェリー丸ごとの価値」に注目する動きは今後加速する可能性がある。
食品メーカーやOEM企業にとっては、ベトナム産カスカラは原料調達コストの面で競争力がある。生豆の4倍の単価とはいえ、欧州産やエチオピア産と比較すると価格優位性があり、RTD飲料やサプリメント原料としての引き合いが増えている。
業界への波及: 副産物の高付加価値化モデル
カスカラ茶の事例は、ベトナム農業全体で進む「副産物の商品化」トレンドの一つだ。パンガシウス(ナマズ)の加工副産物からコラーゲンを抽出し、価格を15-25倍に引き上げた事例(関連記事)と同じ構造にある。
コーヒー殻の商品化が成功すれば、カカオハスク、ライスブラン(米ぬか)、カシューナッツシェルなど、ベトナムが大量に生産する農産物の副産物にも同様のアプローチが広がる可能性がある。100億ドル輸出目標の達成に向け、「廃棄物ゼロ」の深加工モデルが鍵を握る。
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 注目企業 | Phuc Sinh Group(ビンズオン・ソンラ)、My Viet International Group |
| 製品 | カスカラ茶(コーヒーチェリー殻乾燥品) |
| 価格水準 | 生豆の約4倍 |
| 主要輸出先 | オランダ、イタリア、ドイツ |
| EU規制 | 2022年ノベルフード承認(飲料用途限定) |
| 環境効果 | トラック1台分で約12.7万kgの廃棄物削減 |
よくある質問
カスカラ茶とは何ですか?
コーヒーチェリーの果肉・果皮を乾燥させたハーブティーで、軽い甘味とフルーティーな風味が特徴です。カフェインは通常のコーヒーの約3分の1(約30mg/杯)で、欧米では健康志向の消費者に人気が広がっています。
なぜベトナム産カスカラが注目されているのですか?
世界第2位のコーヒー生産国であるベトナムは原料供給量が豊富で、Phuc Sinh社のように加工インフラを整えた企業がEU規制にも対応済みです。他産地と比べて価格競争力もあり、RTD飲料メーカーからの引き合いが増えています。
日本でカスカラ茶は入手できますか?
一部のスペシャルティコーヒーロースターやオンラインショップで取り扱いが始まっています。ただし、日本の食品衛生法上の位置付けは「茶」に分類されるケースが多く、輸入時の規格確認が必要です。
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