ベトナム北部トゥエンクアン省で、標高のある冷涼な村の農家がネットメロンとブドウの温室栽培に切り替え、家族で年約25億ドン(約1,470万円)の売上を上げている。VietnamNetが2026年8月10日に伝えた。米やトウモロコシが中心だった山あいの土地で高付加価値の果実を作る動きは、日本の食品バイヤーにとって「北部高地=茶・薬用植物・畜産」という調達地図を書き換える材料になる。誰に向けた話かをはっきりさせると、これは温室園芸への設備投資と、その回収条件を見極めたい調達・企画担当者のための事例だ。
ネットメロン3,000㎡とハーデン種ブドウで回す一戸の経営
記事が取り上げたのはトゥエンクアン省ヴィスエン地区のドアン・コン・オアイン氏。家族で3,000㎡のネットメロン温室と1,000㎡のハーデン種の黒ブドウ(ハーデン=Hạ Đen、種なしの導入品種)を育て、あわせて15基のいかだ・水面約350㎡でコイやナマズ、ウナギなどの淡水魚を養殖する。メロンは年2作で収量が約20トン、水産と果実を合算した家族の年間売上が約25億ドンに達する。
技術面では、北部山岳地帯の農林技術研究機関から科学技術の支援を受けて栽培を組み立てている。個人の勘だけでなく、外部の研究機関が温室の設計や品種選びに関わっている点が、収量の安定につながっている。
目を引くのは、果実だけに頼らない構成だ。メロン温室とブドウ棚に加え、いかだ養殖でコイやナマズ、ウナギを育てる。果実は季節の収穫に売上が集中するが、淡水魚は出荷の時期をずらせる。土地の使い方を上下(温室と水面)で分け、収入の入り方を月ごとにならす。狭い敷地から現金を切らさず引き出す工夫が、規模の小ささを補っている。
標高の村が高付加価値作物に賭ける背景
トゥエンクアン省は2025年の省再編で旧ハザン省の山岳部を取り込み、46の民族が暮らす人口130万超の地域になった。うち少数民族が約73.5%を占める。標高が高く平地が乏しい土地では、面積あたりの収益が低い米やトウモロコシのままでは所得が伸びにくい。温室でネットメロンやブドウのような単価の高い果実を作れば、限られた面積から現金収入を引き出せる。
同じ流れは一戸にとどまらない。省内ドンヴァン地区シンルンチュ村では村長のリー・ファイ・シン氏が1ヘクタールのヤマイモ(サムホワイ)にハーデン種のブドウを加え、2026年からは栗も導入して、年200百万ドン(約118万円)超の収入を得ている。冷涼な高地の気候を弱点ではなく品質の材料に変える発想が、村単位で広がりつつある。
数値で見るオアイン氏の温室経営
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| ネットメロン温室 | 3,000㎡ |
| ハーデン種ブドウ | 1,000㎡ |
| 淡水魚の養殖 | いかだ15基・水面約350㎡ |
| メロン年間収量 | 約20トン(年2作) |
| 家族の年間売上 | 約25億ドン(約1,470万円) |
為替は1円≒170VNDで換算した2026年8月時点の概算。売上は原文の約2.5 tỷ đồngを円換算したもの。投資額は原文に記載がないため掲載していない。
温室投資の回収を左右するのは面積あたりの単価
この事例で押さえるべきは、温室という初期投資を、単価の高い果実で回収する構図だ。露地の米やトウモロコシは面積を広げないと稼げないが、山岳部には広い平地がない。そこで面積あたりの単価が高いネットメロンとブドウを選び、限られた土地の生産性を上げている。年2作で20トンという回転の速さも、設備を早く回収するうえで効く。
ただ温室園芸は誰でも黒字になるわけではない。ベトナムでは同じ北部で、痩せた水田を温室に替えて韓国系ブドウを10億ドン投じて国産化した農家もいる(ノイバイの温室ブドウの事例)。投資が大きいほど、単価と歩留まりが崩れたときの痛手も大きい。オアイン氏の場合は研究機関の技術支援と、メロン・ブドウ・淡水魚という複数の収入源を組み合わせることで、一つの作物が不作でも家計が傾きにくい設計になっている。単作の温室より、収入の分散が回収の安全弁になる。
日本の観光農園・高付加価値園芸への示唆
この事例は日本の園芸にも読み替えられる。中山間地の狭い農地で米の収益が伸びない構図は、日本の条件不利地とよく似ている。面積で稼げないなら、単価で稼ぐ。ネットメロンや高糖度ブドウのような「摘み取り体験や贈答に向く果実」を温室で作り、観光農園やふるさと納税の返礼品につなげる発想は、そのまま日本の中山間地の選択肢になる。
もう一つは、外部研究機関を設計段階から巻き込む点だ。オアイン氏は自己流ではなく、山岳農業の研究機関の技術を土台にしている。日本でも、公設試や大学と組んで品種と栽培体系を固めてから設備投資に踏み切れば、回収の確度は上がる。すでにベトナム北部の山岳では、雨季に露地栽培が難しい環境で温室7,000㎡が年11作の通年野菜を生む例も出ている(ライチャウの山岳温室の事例)。高地×施設園芸という組み合わせは、条件不利地の反転策として現実味を帯びている。
冷涼な標高は、平地との差別化にも使える。昼夜の寒暖差が大きい高地は、メロンやブドウの糖度が乗りやすい。同じ品種でも産地の標高で味が変わるなら、そこに値付けの根拠が生まれる。日本の中山間地が「標高が高くて不利」と見なしてきた条件は、単価で稼ぐ果実に切り替えた瞬間に強みへ反転する。ベトナムの高地農家が示しているのは、その反転を一戸単位で成立させる道筋だ。
調達・取引で見るべき実務ポイント
日本の食品バイヤーや企画担当者がこの動きを追うなら、次の点を確認したい。
- 供給の安定性:一戸あたりの規模は3,000㎡と小さい。まとまった量を確保するには、村単位・研究機関単位で束ねた産地との取引が前提になる。
- 品種の素性:ハーデン種(Hạ Đen)のブドウは導入品種で、糖度や日持ちが産地によって振れる。サンプルで実際の品質を見てから話を進める。
- 用途の見極め:ネットメロンは贈答・加工原料の両面で使える。生果の輸送コストが合わなければ、ピューレやドライなど加工前提で組む選択肢がある。
- 産地の履歴:トゥエンクアン省は少数民族地域の所得向上策として園芸を伸ばしている。ストーリー性のある産地は、贈答筋やブランド商品と相性がよい。
規模の大きい温室ブランド化の先例としては、ビンズオン省で温室80haのマスクメロンが贈答筋を狙う動きもある(ビンズオンの温室メロンの事例)。北部高地の小規模産地と、南部の大規模ブランド産地では、狙う棚も価格帯も異なる。
まとめ
トゥエンクアン省の一戸が示したのは、標高の高い痩せ地でも、温室と高単価の果実を組み合わせれば年25億ドンの現金収入を生めるという事実だ。鍵は、研究機関の技術を土台にすること、そしてメロン・ブドウ・淡水魚と収入源を分散させて回収リスクを下げることにある。日本のバイヤーがまず取るべき一歩は、こうした山岳産地の品質をサンプルで確かめ、生果か加工かの出口を先に決めておくことだ。産地が育つ初期に接点を持てば、量がまとまる段階で優先的な取引につなげやすい。