水産専門誌Vietnam Fisheries Magazineが2026年8月24日、認証機関DNVがベトナム南部カマウ省のエビ養殖協同組合「HTX Thanh Dat(タインダット高技術エビ養殖協同組合)」にASC Farm Standard(水産養殖管理協議会の養殖場基準)認証を交付したと報じた。日本の食品バイヤーや商社にとって、これは一つの養殖場の話にとどまらない。イオンなど大手小売がASCを調達方針に組み込む流れのなか、認証を持つ産地は対日・対EUの商談で候補に上がりやすくなるからだ。ただし後述のとおり、製品にASCラベルを付けるには加工・流通側の認証確認が別途要る。
カマウのエビ養殖協同組合が2種のエビでASC認証を取得した
認証を受けたHTX Thanh Datは、カマウ省で複数の生産者が参加するエビ養殖協同組合だ。同誌が伝える組合概要によると、対象はバナメイ(ホワイトレッグ)とブラックタイガーの2種で、供給先としてEU、米国、日本、オーストラリア、韓国が挙がっている。DNVの告知では養殖面積や参加戸数、年間生産量にも具体的な数字が示されているが、これらは認証機関の発表に依拠する数値で、別の第三者統計での相互確認は取れていない。供給力に直結する規模の数字は、後述するとおりバイヤー自身が一次で当たるべき項目であり、本稿では認証の事実と対象種を軸に読む。
ASC Farm Standardは、養殖場の管理と自然環境への影響、養殖対象(エビ)の健康と福祉、労働者や地域社会の人権を対象に、養殖場・魚・人・環境という4つの原則に沿って審査する枠組みだ。組合長で代表のTran Thanh Trieu氏は「ASC Farm Standard認証の取得は当組合にとって重要な節目だ」とコメントしている。
ASC認証がなぜ対日・対EUの「通行証」になるのか
DNV東南アジア・オセアニアの食品・飲料マネージャーRachel Ng氏は、責任ある養殖は養殖場のレベルから始まり、ASC Farm Standardへの認証は独立した第三者評価を与える、という趣旨のコメントを出している。この「第三者評価」という性格が、日本や欧州の調達現場で効いてくる。
イオンの調達方針が入り口を絞る
日本の大手小売や外食チェーンは、水産物の持続可能性を示す認証としてMSC(天然)やASC(養殖)を調達方針に掲げている。イオンは早い段階からASC/MSC対応の売り場を広げ、認証水産物の取り扱いを段階的に増やしてきた。バイヤーの立場では、認証の有無は「棚に載せられるかどうか」の一次スクリーニングになる。認証が実質的な前提になっている売り場や商品群があり、非認証だと候補から外れる場面が生じる。
認証を取った越産エビの産地はまだ限られる
ベトナム産エビは対日供給で大きな地位を占めるが、ASC Farm Standardを取得済みの養殖場は全体の一部にとどまる。認証を持つ産地は、価格だけで競う土俵から一歩外れ、要件適合という別の軸で選ばれる余地を得る。買い手にとっては、同じ越産エビでも「認証あり」の一群が交渉の入り口をひとつ多く持つことになる。
ベトナムのエビ輸出は伸びているが、伸びの中身が割れている
ベトナム水産物輸出加工協会(VASEP)によると、2026年1〜7月のエビ輸出額は約28億ドルで前年同期比13.5%増、7月単月では4億5,150万ドルと前年同月比10.1%増だった。金額は前年を上回るが、7月は6月の4億5,820万ドルをわずかに下回る。マクロの数字は伸びを示すものの、市場ごとの中身までは表さない。
| 指標 | 数値(原表記) | 前年同期比 | 出所 |
|---|---|---|---|
| エビ輸出額(1〜7月) | 約28億ドル(USD 2.8 billion) | +13.5% | VASEP |
| エビ輸出額(7月単月) | 4億5,150万ドル(USD 451.5 million) | +10.1% | VASEP |
価格で競う市場と、認証や品質で選ばれる市場とでは、買い手が求める条件が違う。対EU・対日のように持続可能性認証を要件化する取引先に対しては、ASC認証が交渉の前提条件のひとつになる。関連して、対米エビ失速でGodacoがアジアへ動いた事例は、価格市場の縮小が高要件市場への転換を促す構図を示しており、認証取得はその転換を後押しする条件と重なる。
日本のバイヤーが認証を「使える材料」にするための確認点
実務では、「ASC認証取得」という言葉を額面どおり受け取ると足元をすくわれる。認証にはFarm Standard(養殖場基準)とChain of Custody(加工・流通のCoC)が別建てで存在し、養殖場が認証されていても、加工・輸出の各段階でCoCがつながっていなければ、最終製品にASCラベルは付けられないからだ。
Farm StandardとCoCは別物として押さえる
バイヤーが最初に確かめるべきは、認証番号でASC公式サイトの認証データベースを引き、対象養殖場・対象種・有効期限が自社の引き合いと一致するかどうかだ。HTX Thanh Datの例なら、バナメイとブラックタイガーの双方が引き合いの対象種に合うか、必要なロットを賄える供給可能量と収穫計画があるかを、組合や輸出者へ直接照会し、商社任せにせず一次で当たる。
一次で当たる項目を先にそろえる
| 確認項目 | 当たり先・方法 | 見落とすと起きること |
|---|---|---|
| 認証番号と有効期限 | ASC公式の認証データベースで照合 | 失効・対象外の農場を有効と誤認 |
| 対象種 | 認証書の記載(バナメイ/ブラックタイガー) | 引き合いの種が認証外だった |
| CoC(加工・流通) | 加工・輸出各社のCoC認証を確認 | 最終製品にASCラベルを付けられない |
| 供給量 | 組合・輸出者に供給可能量と収穫計画を照会 | ロット未達で契約が破綻する |
この確認は、豪州・韓国向けでベトナム産エビの主要市場が並び替わっている状況と併せて読むと意味が増す。供給側が売り先を選び直している局面では、認証要件を満たせるバイヤーのほうが、価格以外の条件でも交渉の余地を持ちやすい。
エビ一本足からの脱却と、認証産地の希少価値
ベトナム水産はエビ依存からの多角化が進み、カニや貝類の輸出が二桁で伸びている局面にある。品目が広がるほど、エビの中では「どの産地・どの認証か」という選別が細かくなる。認証産地は数量で勝負する層と切り離され、要件適合を武器に対日・対EUの棚を狙える。
カマウ省はメコンデルタの主要なエビ産地で、大手加工企業の工場も集積している。産地に認証養殖場が積み上がることは、加工から輸出までを一貫でASC対応にそろえやすくする土台になる。日本側から見れば、単発の認証取得より、産地単位で認証の厚みが増していく動きのほうが、安定調達の材料として重い。
次の一手は認証番号を一件、自分で照合すること
ベトナム産の認証エビを検討するなら、最初にとるべき行動は具体的だ。取引候補から提示された認証書のASC認証番号を1件、ASC公式サイトの認証データベースで自ら照合し、対象種・有効期限・対象養殖場を確認する。HTX Thanh Datのように産地単位の認証が積み上がる局面では、この一次確認を習慣にしているバイヤーは、要件適合を示せる分だけ供給側との交渉で優位に立ちやすい。エビ相場や関税の変動は制御できないが、認証の裏取りは自社の手で今日から始められる。
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