米国向けのエビと養殖ナマズ(パンガシウス)の輸出が2026年8月に急減し、ベトナムの水産大手が販路をアジアへ組み替え始めた。ゴダコ(Godaco)の会長兼CEOグエン・ヴァン・ダオ氏は、対米で細った数量をアジアの需要家に振り向ける方針を明らかにしている。矛先の一つは日本市場だ。米国の関税が積み上がるほど、余った良質な原料がアジアへ流れ込む。日本の流通・調達にとっては、単価や取引条件を見直す好機が動き出している。
対米エビは8月に前月比22%減、パンガシウスは半減した
2026年1〜8月のベトナム水産輸出は80億ドルで、前年同期比11.8%増を保った。伸び率は7カ月時点の12.8%からやや鈍り、失速の中心は対米にある。エビの対米輸出は8カ月累計で4億2,760万ドルと前年同期を13.4%下回り、8月単月は7,000万ドルへ前月比22%落ち込んだ。養殖ナマズはさらに深く沈み、8月が1,250万ドルで前年同月比54.8%減、8カ月累計は2億170万ドルの13.9%減だった。一方でエビ全体の輸出額は32億9,000万ドル(12.3%増)を確保しており、落ち込みは対米という一点に集中している。対米関税がベトナムエビと日本の調達に開いた隙間は、この夏さらに広がった格好だ。
POR21の反ダンピング税引き上げが対米採算を崩した
失速の引き金は税だ。8月中旬に示された第21次年次見直し(POR21)で、パンガシウスの反ダンピング税が一段と重くなった。ビエンドン(Biển Đông)は1キロ0.29ドルから1.00ドルへ、NTSFは0.07ドルから0.38ドルへ、カセアメックス(Caseamex)とナビコ(Navico)は0.23ドルから0.84ドルへ引き上げられ、全社一律の国別税率は2.39ドルに置かれた。ここに12.5%の追加関税が乗る。競合国に課される10%より重く、米国の棚に載せるほど採算が薄くなる構図が固まった。パンガシウス関税の確定でCPTPPと日本に白身魚が流れる背景は、この見直しではっきりと数字に表れている。
Godaco会長がアジア市場へ販路を切り替える
Godacoのグエン・ヴァン・ダオ会長は、対米の目減りを座して待つのではなく、アジアの需要家へ供給を振り向ける構えを示した。米国の税負担と技術要件が積み上がるほど、加工の手を止めずに数量を捌ける行き先が要る。日本を含むアジアの市場は、そのまま受け皿になりうる。輸出企業が「米国以外」を本気で見始めたことは、買い手にとって商談の卓に着く相手が増えることを意味する。
中国・香港が20.3億ドルで業界の伸びの6割を占めた
行き先の組み替えは統計にも出ている。中国・香港向けは20億3,000万ドルで33.4%増と急伸し、この分野の伸びのおよそ6割を一手に引き受けた。ASEANも5億4,490万ドルの20%増で、8月単月は31%増と勢いを増した。エビだけで見ると、中国が37.6%増、韓国が16%増、ASEANの8月が48%増と、アジア各地が数量を吸い上げている。米国の一市場に頼る形から、複数の需要地へ荷を散らす動きが数字の上で進んだ。輸出企業にとって、まとまった数量を安定して引き取る相手は、価格が多少動いても手放したくない存在だ。日本はその位置に収まりやすい。
日本向けエビは8カ月で10%増、CPTPPの関税優位が支える
日本も受け皿の一角にいる。日本向けエビは8カ月で10%増と、着実な伸びを刻んだ。派手さはないが、CPTPPの枠内で関税優位を持つ日本は、ベトナムの輸出企業にとって計算の立つ相手だ。米国が税で遠のいた分、これまで対米に厚く回っていた良質な原料が日本の商談に上がってくる余地が生まれる。米関税301条12.5%を前にベトナムエビが日本へ活路を探す動きは、単発の話ではなく夏を通じた流れになっている。
価格と取引条件の交渉余地が日本の調達側に生まれた
対米で行き場を失った数量がアジアへ回れば、供給に厚みが出る。売り手が「米国に代わる安定した買い手」を求める局面は、日本のバイヤーにとって条件交渉の追い風だ。単価はもちろん、ロットの刻み方、決済サイト、年間の供給計画まで踏み込んで話せる余地が広がる。売り込む側と買い付ける側の力関係が動く時期こそ、複数社に同時に当たって条件を比べる価値がある。急いで一社に決めるより、対米の圧力が続く数カ月を交渉の窓として使いたい。とくに対米比率が高かった加工場ほど、当面の稼働を埋める相手を探しており、まとまった発注に応じる余地が大きい。買い手側から供給の見通しと希望価格を先に示すと、話が具体的に進みやすい。
交渉で確かめたい加工度・原産地・認証の条件
好機だからこそ、条件の中身を詰めておきたい。反ダンピング税は生鮮と加工品で扱いが分かれるため、どの加工度で供給されるのか、フィレか一次加工品かで採算と用途が変わる。サイズの揃い方、歩留まり、冷凍の管理状態は、実際の使い勝手を左右する。ASCなどの認証や産地の証明が取れるかも、国内の販路や小売の要件に直結する。価格の話に入る前に、これらの前提を書面で揃えておくと、あとで齟齬が出にくい。
年末商戦へ、中国依存の反動を見ながら動く時間軸
ベトナム側は、中国・香港の需要が続けば通年120億ドルの輸出目標は射程内と見る。ただし伸びの6割を中国・香港が担う形は、その市場が揺れれば反動も大きい。売り手がアジアの需要を分散させたいと考えるなら、日本は「もう一つの安定した行き先」として交渉力を持てる。年末商戦に向けた仕込みの時期と、対米の圧力が重なる今は、日本の買い手にも取引条件を見直す余地が広がる。ただし米国から溢れた数量の主な受け皿は中国・香港で、日本向けの数量が大きく動いたわけではない。
日本の買い手が今取れる一手
やることは難しくない。対米比率の高かった輸出企業を含めて複数社に引き合いを出し、加工度と認証をそろえた見積もりを横並びで取る。単価だけでなく供給の継続性と決済条件まで含めて比べれば、この夏の相場の緩みを来季の調達に取り込める。米国の関税が生んだベトナム側の販路転換は、日本の調達にとって取引条件を組み直す実務の好機になっている。
参照元:Dân trí「対米エビ・パンガシウス輸出が急減、ベトナム水産が新たな活路を探す」/SeafoodSource/Việt Nam News