ベトナム農民協会中央が第7回「農民の科学者」(Nhà khoa học của nhà nông)の表彰を行い、42名が選ばれた。ダクラク省からの1名が、エアスップ社(xã Ea Súp)クームラン第7集落のグエン・ティ・ビック氏(Nguyễn Thị Bích)だった。Báo Đắk Lắkが2026年10月に伝えた受賞理由の中身を見ると、表彰そのものより、この人が下した1つの判断のほうが読む価値がある。2haのグアバ園の売上が年16億ドンから24億ドンに増えた。そして報じられた単価で売上を割り戻すと、改善の前後でどちらも8万kgになる。
単価は20,000ドンから30,000ドンへ、売上を割り戻すとどちらも8万kgになる
報じられた数字はこの4つだけだ。製品の価値が1kgあたり20,000ドンから30,000ドンに上がったこと。2haのグアバからの売上が年1.6 tỷ đồngから2.4 tỷ đồngになったこと。tỷは10億なので、1.6 tỷは16億ドン、2.4 tỷは24億ドンにあたる。1円=164ドンで換算すると、およそ976万円から1,463万円である。
この数字を割り算してみる。
| 項目 | 改善前 | 改善後 |
|---|---|---|
| 1kgあたりの価値 | 20,000ドン(約122円) | 30,000ドン(約183円) |
| 2haからの年間売上 | 1.6 tỷ đồng=16億ドン(約976万円) | 2.4 tỷ đồng=24億ドン(約1,463万円) |
| 売上÷単価(逆算した数量) | 80,000kg | 80,000kg |
どちらも80トンになる。ただしこれは売上を単価で割った逆算値で、実際の出荷量は記事に書かれていない。それでも、報じられた4つの数字が「量は同じで単価が1.5倍」という形で整合しているのは確かだ。増えた8億ドン(約488万円)は、単価の側から出ている。
土地の条件も記事に出ている。エアスップは砂利混じりの砂地で、年間を通して暑い。その環境でビック氏が課題として立てたのが、生果を売ることだけに依存しないで農産物の価値を上げる方法だった。なお2haで80トンなら1haあたり40トンになるが、灌水の方法も品種も栽植密度も報じられていないので、この数字が地域の平均に対して高いのか低いのかは判断できない。
捨てていた葉が茶になり、果実のほかに売れるものが増えた
ビック氏の取り組みは「エアスップ国境地域におけるルビーグアバからの製品開発」(Phát triển sản phẩm từ cây ổi Ruby tại vùng biên giới Ea Súp)という名前で、生産と加工と副産物の活用を組み合わせる方向で組み立てられている。記事が例として挙げているのは次の品目だ。
- 生果のルビーグアバ
- グアバ葉茶「Briêt Organic」
- ルビーグアバ酒
- グアバの果汁・エキス(nước cốt ổi)
このうちグアバ葉茶が目を引く。葉は果実を売るうえでは値段のつかない部分だ。それが「Briêt Organic」という名前の商品になっている。記事は、このモデルが直線的な生産から循環型の生産へ段階的に移り、原料の無駄と農業廃棄物を減らしたと書いている。
ビック氏はあわせてデジタル化も進めた。栽培地区の管理、生産日誌の更新、トレーサビリティにFaceFarmというソフトとQRコードを使い、品質を保証できる原料産地づくりと製品情報の透明化に向かっている。酒と茶と濃縮液を売るなら、原料の素性を示せることが前提になる。加工に進むことと記録を付けることは、同じ1つの決断の両面だ。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 受賞者 | Nguyễn Thị Bích(ダクラク省エアスップ社クームラン第7集落の農民会会員) |
| 表彰 | ベトナム農民協会中央「農民の科学者」第7回/42名中ダクラク省から1名 |
| 対象の取り組み | エアスップ国境地域におけるルビーグアバからの製品開発 |
| 土地条件 | 砂利混じりの砂地、年中高温 |
| 栽培面積 | 2ha |
| 製品(記事の例示) | 生果、グアバ葉茶 Briêt Organic、ルビーグアバ酒、グアバの果汁・エキス |
| 単価 | 20,000ドン/kg → 30,000ドン/kg |
| 年間売上 | 1.6 tỷ đồng → 2.4 tỷ đồng(16億ドン→24億ドン) |
| デジタル化 | FaceFarm、QRコードによる生産日誌とトレーサビリティ |
「加工に回す」が単価を上げる場合と、下げる場合がある
日本の産地の感覚でこの話を読むと、違和感が出るはずだ。規格外や豊作時の余剰を「加工に回す」というとき、たいていは単価が下がる。ジュース向け、ペースト向け、カット向けに安く引き取ってもらうのが加工だからだ。生果で売れないものを処分するための出口であって、単価を上げる手段ではない。
ビック氏の場合は向きが逆になっている。報じられているのは、工程を研究して完成させ、茶、酒、果汁という商品にまで仕上げたことと、単価が1.5倍になったことだ。商品に「Briêt Organic」という名前が付いている以上、原料として安く引き渡しただけではないことは読み取れる。ただし製造を自前の設備でやっているのか委託なのか、販売を誰が担っているのかは記事に出ていない。原料を渡す側に立てば単価は下がり、商品を売る側に立てば単価は上がる。同じ「加工に回す」でも、どちらの側にいるかで向きが変わる。
農家が加工や直販に回る形は日本でも統計の対象になっている。農林水産省の6次産業化総合調査によると、令和6年度の農業生産関連事業の年間総販売金額は2兆2,244億円だった。この数字は農産加工、農産物直売所、観光農園、農家民宿、農家レストランの合計で、加工と直販だけの金額ではない。それでも、農産物をそのまま出荷する以外の売り方が兆円単位で積み上がっていることは分かる。
ただし、この事例をそのまま大きな産地に当てはめるのは難しい。2haの園地で複数の商品を立ち上げ、FaceFarmで記録を付け、QRまで用意するのは1つの経営体の中で完結する話だ。区画も農家も増えれば、誰がどの記録を付けるかという別の調整が要る。ダクラク省エアリエン社でパッションフルーツを30haに広げた協同組合が、各戸に肥料と農薬の使い方を守らせることを参加条件にしているのは、その調整を契約で担保しているからだろう。
加工場を建てた人、端境期をずらした人、葉を売った人
ベトナムで単価を上げる方法は、だいたい3つの型に分かれる。
1つめは、自分で工場を持つ型だ。家を売って茶工場を建て、年商800億ドンに届いた女性の事例が報じられている。平均単価はキロ320円だった。設備を自分で持つと加工賃が内側に残るが、初期投資と稼働率の重さを背負う。
2つめは、出荷の時期をずらす型だ。ハイフォンの農協は端境期に蓮を咲かせて、単価を旬の2倍にした。設備は要らないが、作期をずらす技術と、ずらしたときに本当に値が付くかという読みが要る。
3つめが、ビック氏の型だ。果実そのものに加えて、果実を売るうえでは値段の付かない部分から商品を作る。副産物に値段を付けるという意味では、精米工場が籾殻を発電燃料として売る動きと同じ発想だ。規模はまったく違うが、園地や工場の脇に積んでいたものに出口を作るという点で発想は共通している。
この3つの型は排他的ではない。ビック氏も酒と果汁を作る以上どこかで加工設備を使っているはずだが、その規模も所有形態も記事に出ていない。
8万kgは逆算値で、単価が生果のものかどうかも書かれていない
数字を扱うときに正直に線を引いておく。逆算した80トンは、売上を単価で割って出した数字であって、記事に書かれた収穫量ではない。報じられた「1kgあたり20,000ドンから30,000ドン」が、生果と加工品を合わせた平均なのか、生果だけの値なのかも書かれていない。加工品が混ざった平均だとすれば、生果の単価は変わっていない可能性もある。
灌水の方法、品種、樹齢、栽培年数も報じられていない。表彰の記事は取り組みの要点をまとめたもので、生産データを公開する性質のものではない。
それでも、報じられた4つの数字が揃って指しているのは1つの方向だ。面積は2haのまま、単価が1.5倍、売上が1.5倍。増えたのは1kgあたりの取り分である。
照会するなら、単価の中身と記録の出し方を聞く
| 確認したいこと | なぜ聞くか |
|---|---|
| 単価は生果だけか、加工品込みの平均か | 生果の相場と自社ブランドの価格は別の数字 |
| 加工設備は自前か委託か | 単価の上がり方と再現性が変わる |
| 葉茶の原料は剪定枝か専用の採葉か | 副産物活用か別の生産ラインかで原価が違う |
| FaceFarmの記録を外部に出せるか | トレーサビリティは出力できて初めて意味を持つ |
| 年間の生産量と出荷カレンダー | 80トンは逆算値で、実数は公表されていない |
| 輸出実績の有無 | 国内向けだけなら対日供給の体制はこれから |
まとめ
2haのグアバ園で、単価が20,000ドンから30,000ドンに上がり、売上が16億ドンから24億ドンになった。売上を単価で割り戻すと前後どちらも8万kgで、増えたのは量ではなく1kgあたりの取り分だと分かる。生果だけに頼らず、葉の茶、酒、果汁という商品を立てた結果である。表彰されたのはこの判断であって、収量でも面積でもない。
日本の産地関係者に勧めたいのは、自分の産地で「加工に回している」ものについて、原料を渡しているのか製品を売っているのかを分けて数えてみることだ。同じ言葉で呼んでいても、前者は単価が下がり、後者は上がる。規格外や豊作時の余剰をどちらに流しているかで、産地の手取りはまったく違う方向に動く。
本文の円換算は1円=164ドン(2026年10月6日時点の実勢)で計算した。80,000kgは売上を単価で割った逆算値である。