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1997年生まれが野菜1.3haを甘い黄色のパッションフルーツに替えた

ラムドン省ズラン社(xã D’ran)チャウソン集落のファム・ゴック・ハイ氏(Phạm Ngọc Hải)は1997年生まれだ。2026年5月初め、1.3haの野菜畑を造成し直して「chanh vàng ngọt」の専作に切り替えた。初なりの段階で1日100〜200kgを収穫し、相場がピークをつけた50,000ドン/kgで計算すると日商は5〜10 triệu đồng、日本円でおよそ30,500〜61,000円になる。Báo Lâm Đồngが2026年9月末に報じたこの事例は、同じ作物を10,000〜20,000ドン/kgで売っている産地と並べて読むと、設備と単価の関係がはっきり見える。

目次

「chanh vàng ngọt」が何なのかは、記事の中でも揺れている

先に名前の話をしておく。記事の見出しと本文は一貫して「chanh vàng ngọt」(甘い黄色のチャイン)と書いている。chanhだけならレモンやライムを指す語だ。ところが同じ記事に載ったズラン社農民協会のチャン・キエン会長(Trần Kiên)のコメントには「chanh dây vàng ngọt hữu cơ」とある。chanh dâyはパッションフルーツを指す。

掲載されている写真を見ると答えが出る。支柱に絡んだつるの列、手のひらに乗る丸い緑の果実、箱に詰められた同じ形の実。パッションフルーツだ。本文で書かれている設備も「nhà lưới, giàn leo, phủ bạt」(ネットハウス、つるを這わせる棚、マルチ)で、つる性作物の仕立てである。地元紙が「dây」を落として表記しているだけで、作物はパッションフルーツと見るのが妥当だ。

ただし品種名は記事のどこにも出てこない。ベトナムの苗木業者は「chanh dây vàng ngọt」「chanh dây vàng siêu ngọt」といった呼び名で黄色く甘い系統の苗を売っており、商品名が統一されていない。これは地元紙の表記が揺れているという話とは別に、日本側が名前だけを頼りに何を買うのか決められないということを意味する。この産地に接触するなら、作物名と品種名を書面でもらうところから始めることになる。

1.3haの初なりで日商5〜10 triệu đồng、本格収穫は週3トンの見込み

ハイ氏の数字を並べる。農業で何年か起業を試みたあと、2026年5月初めに1.3haの野菜畑を造成し、この作物の専作に切り替えた。手入れを経て初なりの収穫期に入り、1日あたり100〜200kgを採った。市場価格がピークをつけた時点の50,000ドン/kgを掛けると、1.3haからの日商が5〜10 triệu đồngになる。

氏自身の見通しとして記事が引いているのは次の内容だ。今の園地の生育具合なら、5月以降が本格の収穫期になり、平均の収量はおよそ週3トン。同じ面積の野菜と比べて利益は2〜3倍になる。この利益があれば、園地を作ったときの初期投資は回収できる。なお原文の「tuổi cây đến tháng 5 trở đi」が何年の5月を指すのかは、記事の書き方からは確定できない。

注意しておきたいのは、50,000ドン/kgが「相場がピークをつけた時点」の価格だという点だ。通年の平均ではない。日商5〜10 triệu đồngという数字も、その価格で割り戻した初なり期の計算値である。

ハイ氏は現在、地元の10戸を超える農家と約10haで組んでいる。収穫物は、同じチャウソン集落のホー・ドゥック氏(Hồ Đức)が主宰する連携チェーンを通じて全量が買い取られる。このチェーンは市場の動きに合わせて運営され、高品質な種苗の生産から始まり、新しい栽培技術、収穫、保存、輸送、流通までを押さえる。2026年9月末時点で、チェーンに登録された農家は50戸、面積はズラン社の内外で約50haに広がった。いずれも、より収入の低い作物から切り替えた土地だ。

1,000平方メートルに65 triệu đồng、子をイスラエルで学ばせた主宰者

チェーンを主宰するホー・ドゥック氏のやり方が、この産地の単価を説明している。

氏によれば、消費者の求める品質と食品安全に応える製品を出すには、きちんとした投資水準と厳格な技術工程が要る。そこでモデルを立ち上げる前に、家族の中で2人の子をイスラエルでの農業技術と企業経営に進ませ、ホーチミン市の専門機関で市場との接続を学ばせるところから始めている。

設備投資は1,000平方メートルあたり約65 triệu đồng。1ha換算で650 triệu đồng、日本円でおよそ396万円になる。この金額でネットハウス、つるを這わせる棚、マルチ、節水灌漑と自動施肥の組み合わせ、育苗場、集荷と一次加工と包装のための倉庫を一式そろえた。2023年末に5haでモデルを起動し、定植密度は1haあたり5,000株で安定させている。20年以上の野菜栽培の経験を、生産の組み直しに充てた。

項目 内容
場所 ラムドン省ズラン社(xã D’ran)チャウソン集落
ハイ氏の転換 2026年5月初め、野菜1.3haを専作に転換
初なりの収穫量 1日100〜200kg
ピーク時の相場 50,000ドン/kg(約305円)
初なり期の日商 5〜10 triệu đồng(約30,500〜61,000円)/1.3ha
本格期の見込み収量 平均 週3トン
ドゥック氏の設備投資 1,000平方メートルあたり約65 triệu đồng(1ha換算 約396万円)
定植密度 5,000株/ha
ドゥック氏の自社面積 5ha(2023年末開始)、2026年9月の日次収穫 1.5トン前後
連携農家からの集荷 日2〜3トン
チェーンの規模 50戸・約50ha(2026年9月末時点)
販路の内訳 欧州・中東・ASEAN・豪州への輸出40%、国内のスーパー・卸売市場ほか60%
今後の計画 ズラン社に約3,000平方メートルの加工工場(冷凍品・ボトル飲料)

2026年9月の単月で見ると、ドゥック氏の5haからは毎日1.5トン前後が上がり、これに連携農家からの2〜3トンが加わる。全量がドンズオン社(xã Đơn Dương)の倉庫に集められ、選別と等級分けを経て、欧州・中東・ASEAN・豪州向けの輸出が40%、残り60%が国内のスーパー、卸売市場、その他の流通網に回る。得られる収入は1haあたり年に数 tỷ đồngだと記事は書いている。1 tỷは10億ドン、およそ610万円にあたる。

次の投資は構想段階にある。原料産地が広がってきたことを受けて、ズラン社に総面積約3,000平方メートルの大型加工工場を来年中に建て、冷凍品と瓶詰めの飲料を国際的な品質基準で作ることを想定している、と記事は書いている。着工が決まったとは書かれていない。

同じパッションフルーツで、設備は3倍、単価は2.5倍から5倍違う

この事例の値打ちは、同じ作物の別の産地と並べたときに出る。

ダクラク省エアリエン社では、痩せた丘をパッションフルーツの棚に変えた農家が報じられている。そちらの数字は、1haの初期投資が200〜250 triệu đồng、販売価格が10,000〜20,000ドン/kgだった。

項目 エアリエン社(ダクラク省) ズラン社(ラムドン省)
1haの初期投資 200〜250 triệu đồng(約122万〜152万円) 650 triệu đồng(約396万円)
販売価格 10,000〜20,000ドン/kg(約61〜122円) ピーク時50,000ドン/kg(約305円)
定植密度 3haに約2,500株=約833株/ha 5,000株/ha
主な設備 コンクリート支柱、棚、灌水配管 ネットハウス、棚、マルチ、節水灌漑+自動施肥、育苗場、選果包装の倉庫
出口 ザライ省の加工場経由で輸出 自社倉庫で選別、輸出40%・国内60%

初期投資は2.6倍から3.25倍、単価は2.5倍から5倍。設備の差と単価の差が、近い比率で並んでいる。ただしこれは2つの報道を横に置いて計算しただけで、設備が単価を押し上げたことを示す材料ではない。ネットハウスも自動施肥も自前の育苗場も、欧州や豪州に出すなら要る設備だが、その効果だけを取り出して測ることは2本の記事からはできない。

ただし比較の条件は揃っていない。50,000ドンはピーク時の値であり、10,000〜20,000ドンは「時期と品質による変動幅」として報じられた数字だ。同じ物差しで並べたものではないので、倍率はあくまで目安として見てほしい。

定植密度の6倍差も気になるところだ。833株/haと5,000株/haでは仕立て方そのものが違う。棚の形、仕立ての段数、剪定の回数が同じとは考えにくい。この違いが収量の差なのか、報道上の記載の違いなのかは、どちらの記事からも判断できない。産地を比較するときに実際に確かめるべき項目はここである。

日本側が最初に確認するのは、品種名と密度と工場の稼働時期

ベトナムのパッションフルーツ産業について、公益財団法人中央果実協会が2025年に収集した海外果樹農業情報は、課題として産地の断片化、種苗の品質の低さ、農薬の過剰使用の3つを挙げている。加工品だけで年間約3億ドルを生む品目になりながら、苗の品質が足を引っ張っているという指摘だ。

ドゥック氏が設備投資の一式に自前の育苗場を含めているのは、この指摘に正面から答えている。チェーンの説明が「高品質な種苗の生産から始まる」という順序になっているのも同じ理由だろう。苗を外から買っていると、翌年に別物が届くリスクが残る。

その一方で、記事に品種名がないことと、本文と引用で作物名の表記が揺れていることは、そのリスクが完全には消えていないことを示している。日本の輸入業者や飲料・製菓のメーカーがこの産地を見るなら、確認する順番は次のようになる。

確認したいこと なぜ聞くか
作物名と品種名(学名・系統名) 「chanh vàng ngọt」の表記が一定しておらず、別物が届く余地がある
定植密度と仕立ての方法 5,000株/haが本当なら他産地と栽培体系がまるで違う
年間の出荷カレンダー 50,000ドンはピーク時の値で、通年ではない
輸出40%の実績国と数量 欧州・中東・ASEAN・豪州の内訳が分かれば対日の余力が読める
加工工場の着工・稼働時期 3,000平方メートルの工場は計画段階で、冷凍品の供給はその後になる
農薬の使用記録を農家単位で出せるか 50戸に広がったチェーンで工程がどこまで揃っているかを測る

自前で育苗し、少数で試し、周りに広げ、最後に工場を建てる

ズラン社のやり方は、ベトナムの他の産地で見た進め方と似たところがある。先に自前で育苗する主体を作り、少数の農家で試し、数字が出たら周りに広げ、最後に加工場を考える。ラオカイでタイ系のバンレイシの苗2,300本を4戸に配り、2haで試している事例も入り口は同じ形だった。2例だけで一般化はできないが、違いははっきりしている。ズラン社はすでに50戸・50haまで広がり、加工工場を構想する段階に来ている。

ラムドン省は高原の冷涼な気候を使って品目を切り替えてきた土地でもある。白肉ドラゴンフルーツ約400kgがベトナム航空の機内サービスに初めて納入されたのも同省からだった。生果のまま高い値がつく出口を探す動きと、加工して通年で売る動きが並行して進んでいる。

チャン・キエン会長は、ズラン社は気候と土壌が栄養価の高い果樹の栽培に非常に適していること、有機の甘い黄色パッションフルーツを連携して栽培するモデルが作付け構成を変えて豊かになる新しい方向を開き、農民会員の雇用を生んでいることを挙げている。さらに、住民が現代的な機械を加工に投じ、製品を各国市場へ直接輸出する形につなげていることは、この新しい作物が高付加価値の産業品目へ発展する見通しを示している、と述べた。

まとめ

1997年生まれの農家が1.3haの野菜畑を植え替えて、初なりで日商5〜10 triệu đồng(約30,500〜61,000円)を出した。その背後には、1ha換算で約396万円の設備を入れ、自前の育苗場を持ち、輸出4割・国内6割で捌くチェーンがある。同じパッションフルーツを10,000〜20,000ドン/kgで売っている産地と比べると、設備額で2.6〜3.25倍、単価で2.5〜5倍の開きがある。ただし品種が同じかどうかは確認できておらず、価格の取り方も揃っていないので、何がこの差を作ったのかは2本の記事からは特定できない。

ベトナム産のパッションフルーツを扱う側がすぐできることは1つ。現地から「chanh vàng ngọt」や「甘い黄色のパッションフルーツ」という名前で提案を受けたら、品種名と定植密度を書面で出してもらうことだ。地元紙の記事の中ですら作物名の表記が揺れている。名前だけで判断すると、届いたものが想定と違う。

本文の円換算は1円=164ドン(2026年10月6日時点の実勢)で計算した。

参照元

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この記事を書いた人

京都で食品ブランドを運営しながら、これまで乾燥野菜や野菜パウダーなど、素材の魅力を活かした商品づくりに携わってきました。現在はベトナム在住2年目で、現地ではコーヒーの生産現場にも関わり、栽培から加工、味づくりまで一貫して学んでいます。毎日の暮らしの中で、安心して楽しめる食品を届けたいという思いから、生産背景や作り手の顔が見える商品を大切にしています。日本とベトナム、それぞれの食文化の魅力を活かしながら、日常にちょっとした豊かさを届けることを目指しています。

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