ベトナム水産加工・輸出協会(VASEP)が8月24日に公表したエビ輸出データで、7月単月の伸びが市場ごとに大きく割れた。累計トップの中国が全体の33.5%を握る一方、7月は豪州が前年同月比43.9%増と最も伸び、韓国は逆に14.6%減へ沈んだ。金額の順位そのものは中国・米国・日本・韓国・豪州の並びが続くが、「どこが伸びているか」の地図は動いている。越産エビを扱う日本のバイヤーにとって、調達先を1国に寄せるか、伸びている市場に競合が集まる前に押さえるかの判断材料になる。
この記事は関税の話ではなく、7月の成長率の偏りが示す市場の主役交代に絞って読む。
1〜7月で28億ドル、7月は豪州の43.9%増が中国を上回った
VASEPによると、2026年1〜7月のエビ輸出は約28億ドル(1USD≒148円換算で約4,144億円、以下同じ概算)で前年同期比13.5%増。最大の中国向けは約9億3,900万ドル(約1,390億円)で42.3%増と累計の伸びを牽引し、全体の33.5%を占めた。中国は7月単月でも約1億3,000万ドル(約192億円)を積み、19.2%増を維持している。
ところが7月単月の成長率で先頭に立ったのは豪州だった。豪州向けは1〜7月累計で1億5,510万ドル(約230億円)・16.5%増と5市場では最小の金額ながら、7月は2,930万ドル(約43億円)で43.9%増と、中国の19.2%増を大きく引き離した。金額はまだ小さいが、伸び率で見れば主役級の勢いに迫っている。
| 市場 | 1〜7月累計 | 累計前年比 | 7月単月前年比 |
|---|---|---|---|
| 中国 | 約9億3,900万ドル | +42.3% | +19.2% |
| 米国 | 3億5,750万ドル | −11.4% | +7.3% |
| 日本 | 約3億2,380万ドル | +4.0% | +10.1% |
| 韓国 | 1億9,730万ドル | −1.6% | −14.6% |
| 豪州 | 1億5,510万ドル | +16.5% | +43.9% |
出典:VASEP(2026年8月24日)。円換算は1USD≒148円で計算した概算値。累計は1〜7月、単月は7月の前年同月比。
韓国は7月に14.6%減、インド・エクアドル勢に価格で押された
対照的に沈んだのが韓国だ。1〜7月累計では1億9,730万ドル(約292億円)・1.6%減と小幅な後退に見えるが、7月単月は14.6%減と落ち込みが鮮明になった。背景には、インドやエクアドル産の安価なエビが韓国市場で存在感を増し、越産が価格競争で押され気味になっている構図がある。累計の微減という数字だけを見て「ほぼ横ばい」と判断すると、直近の失速を見誤る。韓国は越産にとって長らく安定した中規模市場で、加工エビと素材エビの両方を吸収してきた。その一角がひと月で二桁減へ振れたことは、供給側の越メーカーが余った数量を他市場へ回す動きにつながる。日本のバイヤーからすれば、韓国向けが緩んだ分の加工エビが自国に回ってくる可能性と、逆に韓国で戦えなくなった工場が豪州向けに軸足を移して日本の枠が圧迫される可能性の、両方を同時に見ておく必要がある。
ここで効いているのは、韓国と豪州が同じ「中規模の既存市場」でありながら、値段で選ぶ買い手と加工度で選ぶ買い手に分かれている点だ。韓国は素材エビの価格勝負に巻き込まれ、豪州は手のかかった商材で伸びている。越産水産全体が中国シフトを強めるなかで市場ごとの色分けが進んでいることは、中国シフトが鮮明になる越水産の構図とも重なる。
豪州の付加価値エビ40%が示す、越産の売り込み方
豪州が伸びている理由は単なる数量増ではない。豪州向けエビ輸出では加工度の高い付加価値品が金額の約4割を占めるとされ、むき身や生食用ではなく、下ごしらえ済み・調理済みの商材が売れている。台風や需給で価格が振れる素材エビと違い、加工品は単価が安定し、価格の叩き合いに巻き込まれにくい。7月に43.9%増を叩き出した豪州の内実は、越産が「原料の安さ」ではなく「加工の手間を肩代わりする」方向で刺さったことを映している。
逆に言えば、韓国の失速は素材エビでインド・エクアドルと同じ土俵に立ったことの帰結で、越産が価格でしか差を出せない市場は削られやすい。産地を選ぶ側から見れば、伸びている市場ほど加工度の要求が高く、素材のまま安く出す取引は先細ると読める。
日本は4%増の3億2,380万ドル、7月は10.1%増と底堅い
日本向けは1〜7月で約3億2,380万ドル(約479億円)・4%増と、5市場のなかでは中庸の伸びにとどまるが、7月単月は10.1%増と勢いを取り戻している。金額では中国・米国に次ぐ3番手で、豪州や韓国より一回り大きい安定市場だ。日本の水産バイヤーにとって重要なのは、豪州で起きている「加工度で伸びる」流れが、実は日本市場でも先に進んでいるという点だ。エビフライやむきエビの下処理、寿司ネタ加工など、日本は早くから越産に加工を求めてきた。
その意味で、豪州の43.9%増は日本の調達担当にとって競合の接近を意味する。加工エビの供給余力を豪州向けに割く越メーカーが増えれば、日本が慣れた価格・納期で押さえてきた枠が動きうる。越水産の付加価値化と日本の調達の関係は越水産58億ドルの中身と日本の調達が握る加工の穴場でも整理したとおりで、素材の安さで競う段階はすでに終わりつつある。中国が最大市場になり日本が3位に回った水産全体の力関係は、米国を抜いた中国と日本の調達3位という位置取りで見た構図がエビ単体でも進んでいる。
調達先を1国に寄せないための実務チェック
今回のデータから、越産エビを扱う実務者が押さえておきたい点を挙げる。
- 累計と単月を必ず分けて読む。韓国のように累計1.6%減でも7月は14.6%減と、直近の変調は月次に先に出る。
- 取引先メーカーの輸出先構成を確認する。豪州向け加工エビに注力する工場は、日本向けの供給余力・価格が動きやすい。
- 素材エビと加工品を分けて見積もる。素材はインド・エクアドルとの価格勝負に巻き込まれ、加工品は単価が安定する。
- 豪州が伸びる局面ほど、加工設備を持つ工場に引き合いが集中する。加工枠は早めに数量と納期を握っておく。
豪州43.9%増・韓国14.6%減が示す加工枠の奪い合い
7月のエビ輸出は、金額の順位こそ中国・米国・日本・韓国・豪州のままでも、豪州43.9%増・韓国14.6%減という単月の落差が主役交代の兆しを示した。豪州の伸びは付加価値エビが4割を占める加工需要が支え、韓国の失速は素材エビの価格競争が原因という、対照的な中身だ。日本のバイヤーが次に取るべき動きは、取引先の輸出先構成を洗い出し、加工エビの数量と納期を先に固定すること。伸びている市場に競合が集まりきる前に、加工枠を確保できるかどうかが調達安定の分かれ目になる。