ベトナム水産・養殖輸出加工協会(VASEP)が7月初旬にまとめた集計で、2026年上半期の水産輸出額が約58億ドルに達し、前年同期比12.8%増となった。伸びを引っ張ったのは対中国・香港で、37.9%増の15億ドルと全体の4分の1超を占める。一方で日本向けは0.7%増の約7億8,750万ドルにとどまり、金額の絶対水準は高いまま横ばいで推移した。中国が数量で押し切る調達に動くなか、日本のバイヤーが同じ土俵で買い負けするのか、それとも別の勝ち筋があるのか。数字の内訳を、中国シフトが鮮明になった水産の構造変化と重ねて読み解く。
VASEPが示した上半期の全体像
今回の集計で目を引くのは、6月単月の勢いだ。月間輸出額は約11億ドルで前年同月比21%増。上半期を通した二桁成長は、この6月の急伸が押し上げた形になっている。品目別ではエビが上半期23億ドル(13.6%増)で全体の4割超、パンガシウス(ナマズ)が11億ドル(12.1%増)で約2割を占め、この2品目が牽引役という構図は変わっていない。
市場別に見ると、中国・香港の突出が際立つ。6月は32.2%増、上半期でも37.9%増と、他市場を引き離す伸びを見せた。米国は6月に48.3%増と回復の兆しを見せ、上半期では約9億ドルで前年並みに戻した。対して日本とEUは横ばい圏に沈み、成長の勢いは明確に地域差が出ている。
なぜ対日だけが伸びないのか
日本向けが0.7%増にとどまった背景には、需要側の事情がある。国内消費の伸び悩みに加え、円安が輸入水産の割高感を強め、バイヤーが数量を積み増しにくい環境が続いている。ドル建てで契約する越産水産は、円で決済する日本側から見れば実質的な仕入れ単価が上がり続けている状態だ。
ただし、これを「日本市場の停滞」と一括りにするのは早い。中国が求めるのは活・丸物や大型サイズの水物で、価格と数量で動く取引が中心だ。日本の調達はむしろ、切身・むきエビ・加熱加工品といった手のかかる付加価値品に厚みがあり、買い方の性質そのものが違う。横ばいの数字は、需要の質が中国と別の軸にあることを映している。
数字で見る市場別・品目別の温度差
上半期の主要市場と品目を並べると、どこに資金が向かっているかが見える。
| 区分 | 上半期輸出額 | 前年同期比 |
|---|---|---|
| 総額 | 約58億ドル | +12.8% |
| 中国・香港 | 約15億ドル | +37.9% |
| 米国 | 約9億ドル | ほぼ横ばい |
| 日本 | 約7.9億ドル | +0.7% |
| EU | 約5.4億ドル | -0.8% |
| エビ(全品目) | 約23億ドル | +13.6% |
| パンガシウス | 約11億ドル | +12.1% |
中国が絶対額でも伸び率でも他を圧倒する一方、日本は金額こそ中国に次ぐ規模を保つが、成長寄与は小さい。エビとパンガシウスの2品目で輸出全体の6割を占める集中構造も、調達先を絞り込むうえでの前提になる。
現地・業界からの声
VASEP側の見立てと、生産現場が抱える負担を拾うと、今後の値動きの読み筋が立てやすい。
- VASEP副事務局長のレ・ハン氏は、2026年通年で8〜10%成長を見込み、輸出額は120億ドルを超え得ると予測。ただし中国需要の持続、パンガシウスの価格競争力、エビの回復、IUU(違法漁業)問題の解消が条件になると釘を刺している。
- エビ加工品と対中ロブスターの好調が上半期の伸びを支えた一方、生産者側は稚魚価格・飼料・輸送費の上昇に直面しており、コスト転嫁の余地は限られている。
- 白身魚の世界的な供給減を受け、代替としてパンガシウスへの引き合いが強まっている点も、輸出拡大の追い風として挙げられている。
日本の調達が取りに行くべき「加工」の余地
横ばいの数字の裏側に、日本のバイヤーにとっての具体的な機会が2つ隠れている。
第一に、付加価値加工品という日本固有のポジションだ。越産水産の輸出で日本は、生冷凍と加工品の需要バランスが取れた数少ない市場とされる。中国が丸物を数量で買い上げるのとは対照的に、日本はむきエビ・天ぷら用・惣菜用といった加工度の高い品を安定的に引き続けてきた。円安で丸物の輸入採算が悪化するほど、歩留まりロスや加工人件費を現地に移せる付加価値品の相対優位はむしろ高まる。国内で下処理する前提のコスト計算を、加工済み調達に切り替える発想が効いてくる局面だ。エビ最大手が新工場で加工能力を積み増す動きは、カマウの新拠点が日本の調達を変える理由としてすでに現れている。
第二に、パンガシウスを白身魚の実務的な代替として組み込む余地だ。タラ類など天然白身の供給が世界的に細るなか、価格が読めて年間を通じて量が確保できるパンガシウスは、外食・中食の原料として計算が立てやすい。すでに回転寿司や定食チェーンで定番の白身として定着しつつあり、その広がりはパンガシウスが日本の定番になるまでの経緯に詳しい。上半期12%増という供給の勢いは、切身・フィレでの長期契約を組む側にとって安定調達の裏付けになる。
そしてもう一点、中国一極集中はベトナム側にとってもリスクである。対中依存が37.9%増と突出するほど、検査強化や需要変動で価格が振られる不確実性は大きくなる。数量では中国に及ばなくとも、単価と契約の安定を評価する日本の需要は、越企業にとって分散先としての価値を持つ。買い手が少ない加工カテゴリーでこそ、条件交渉の余地は残っている。
上半期の基本データ
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 集計主体 | ベトナム水産・養殖輸出加工協会(VASEP) |
| 対象期間 | 2026年1〜6月(上半期) |
| 輸出総額 | 約58億ドル(前年同期比+12.8%) |
| 6月単月 | 約11億ドル(+21%) |
| 最大市場 | 中国・香港(約15億ドル/+37.9%) |
| 日本向け | 約7.9億ドル(+0.7%) |
| 通年目標 | 120億ドル(VASEP、8〜10%成長見込み) |
まとめ——横ばいの数字を「構成の変化」として読む
上半期58億ドルという全体の伸びは中国が作ったものだが、日本向け0.7%増という数字を停滞と受け取るかどうかで、次の手は変わる。中国が数量で押す市場と、日本が加工度で選ぶ市場は、そもそも競合していない。円安が続く前提でも、加工済みエビやパンガシウス切身のように国内処理コストを現地に移せる品目なら、円建て総コストで見た調達の勝ち筋は残っている。まず確かめるべきは、自社の取扱品を丸物中心から加工品中心に組み替えたときの総原価と、複数の越サプライヤーとの年間契約で単価をどこまで固定できるかだ。中国需要が過熱するいまこそ、加工カテゴリーでの交渉を仕掛ける時期にあたる。