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アカシアだけで40年、フエの農家が全国96人の1人に選ばれた

フエ市フーバイ地区の林業農家ドー・ヴィエット・トゥエン氏(1962年生まれ)が、8ヘクタールのアカシア林だけで「2026年ベトナム優秀農民(ドイモイ40年)」に選ばれた。全国で96人しか選ばれない表彰に、大規模果樹でも高級養殖でもなく、紙原料向けの短伐期アカシア一本で名を連ねた。木材・パルプを扱う日本の調達担当にとって、この一件は供給側の設計を読む手がかりになる。

ベトナムは日本の製紙用木材チップの最大供給国で、その原料の中心がトゥエン氏の育てるアカシアだ。派手さのない一農家の稼ぎ方が、日本の紙の川上とつながっている。

目次

アカシアだけで40年、8haで全国96人の1人に

トゥエン氏は40年にわたりアカシア(keo)の造林一本で生計を立ててきた。手がけるのは家具用の大径材ではなく、製紙パルプ向けの原料材だ。所有する8ヘクタールを一度に伐るのではなく、毎年およそ2ヘクタールずつ収穫する。植えて4年で伐り、跡地に植え直すサイクルを畑ごとにずらすことで、毎年一定の伐採量と現金収入を確保する設計になっている。

この積み重ねが2026年、農業農村開発分野で全国96人だけが受ける「ベトナム優秀農民(ドイモイ40年)」の表彰につながった。中部フエは高付加価値作物の産地というより、痩せた丘陵地と台風の通り道という条件を抱える。その土地でアカシアの回転をひたすら磨いた点に、この受賞の重みがある。

5〜7年の大径材を捨て、4年で伐る

トゥエン氏があえて短い4年周期を選ぶ理由は台風にある。アカシアは伐期を5〜7年まで延ばせば幹が太り、家具・合板用の大径材として単価が上がる。ただし木が高く育つほど倒伏に弱く、中部の台風シーズンに一夜で林が全壊する危険が跳ね上がる。氏はこのリスクを取らず、幹が細いうちに製紙原料として現金化する道を選んだ。値は下がるが、台風で数年分の投資を失う確率を下げる判断だ。

同じ林業でも狙いは分かれる。ゲアン省では618ヘクタールのハイテク林業区で大径材と林床の薬用植物を一体で育てる構想が動く。長い伐期で単価を追う北中部の設計と、短い伐期で災害リスクを外すフエの設計は、同じアカシアでも経営の前提が違う。調達側が産地を評価するとき、面積や樹種だけでなく「何年で伐る前提か」を押さえる必要がある。

1haで純利益80〜90百万ドンの採算

トゥエン氏の経営数値は、原料材アカシアの採算を素直に映す。1ヘクタールあたりの売上は100〜115百万ドン、苗・植栽・伐出などの費用が15〜20百万ドンで、手元に残る純利益は80〜90百万ドンとなる。毎年2ヘクタールを伐る前提なら、年間の純益は160〜180百万ドン(およそ91万〜103万円)の水準に収まる。

項目 1haあたり(VND) 円概算
売上 100〜115百万 約57〜66万円
費用(苗・植栽・伐出) 15〜20百万 約9〜11万円
純利益 80〜90百万 約46〜51万円

為替は1円≒175ドンで概算。相場で変動する。

氏自身も市場について「アカシア原料材の価格はいまのところ比較的安定していて、1ヘクタールあたり80〜90百万ドンの利益を出せる」と語る。突出した儲けではないが、4年で回収でき、価格が読める。原料材アカシアが辺境の丘陵地に広がってきた理由が、この安定性にある。

日本向け木材チップの最大供給国というアカシアの出口

この農家の稼ぎ方は日本と直結している。ベトナムは日本向け木材チップの最大の供給国で、日本の製紙メーカーが輸入するチップの主力をベトナム産が占める。その中心となる樹種が、トゥエン氏の育てるアカシアと低密度ユーカリだ。いずれも数年で伐れる短伐期の造林で、東南アジア産の低・中級チップが日本のパルプ原料の主力に上がってきた。

日本の紙・段ボール・衛生用品の川上をたどると、フエやその周辺で毎年2ヘクタールずつ伐られていくアカシアに行き着く。日本の製紙・商社の調達担当にとって、この供給は匿名の「ベトナム産チップ」ではなく、台風リスクと伐期を計算した個々の造林経営の集積だ。産地の伐期設計や台風被害の年変動を把握できるかどうかが、チップの安定調達を左右する。

調達側が押さえる実務ポイント

  • 短伐期アカシアは価格変動に強く回収が早い供給源だが、単価は大径材より低い。用途がパルプ・チップなら相性が良い。
  • 中部フエは台風の通り道で、伐期の選び方が経営を分ける。安定供給を求めるなら、産地が何年周期で伐っているかを確認する。
  • アカシアは幹だけでなく鋸屑・端材まで使い切れる。同じフエでアカシアの鋸屑からヒラタケを育てて月商を立てる農家もあり、副産物の受け皿が産地の採算を底上げする。
  • 遊休林や低収益の山も、フート省で遊休林をキノコの生産林に変えた事例のように用途転換が進む。造林地の来歴と現状の使われ方まで見て産地を選びたい。
  • チップ調達では認証(FSC等)と産地の分散が効く。特定産地が台風で打撃を受けても供給が止まらない体制を組む。

4年周期のアカシアが日本の紙の川上を支える

フエの一農家が8ヘクタールのアカシアで全国表彰まで届いたのは、単価の高い作物を選んだからではなく、4年で伐って台風を避け、毎年2ヘクタールずつ現金化する回転を40年間崩さなかったからだ。日本向け木材チップの最大供給国ベトナムの出口をたどれば、こうした造林経営の積み重ねに行き着く。木材・パルプの調達担当は、次に産地資料を受け取ったとき、面積と樹種の下にある伐期と台風リスクの設計まで質問してみるといい。

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この記事を書いた人

京都で食品ブランドを運営しながら、これまで乾燥野菜や野菜パウダーなど、素材の魅力を活かした商品づくりに携わってきました。現在はベトナム在住2年目で、現地ではコーヒーの生産現場にも関わり、栽培から加工、味づくりまで一貫して学んでいます。毎日の暮らしの中で、安心して楽しめる食品を届けたいという思いから、生産背景や作り手の顔が見える商品を大切にしています。日本とベトナム、それぞれの食文化の魅力を活かしながら、日常にちょっとした豊かさを届けることを目指しています。

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