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メコン稲研究所が野生稲由来のND1・ND2を公表、加工用と輸出用に振り分け

カントー大学傘下のメコンデルタ稲研究所(Viện lúa ĐBSCL)が、野生稲の系統を親に使った2つの新品種「Nông Dân 1(ND1)」「Nông Dân 2(ND2)」の流通許可を公表した。8月19日付のNông nghiệp và Môi trường紙が伝えた。狙いは食用米の増産ではなく、米粉・ビーフン向けの加工原料(ND1)と、軟質・芳香の輸出米(ND2)という別々の出口に品種を振り分ける点にある。米粉や米麺の原料をベトナムに求める日本の食品メーカーにとって、産地が用途を意識して育種を始めた事実は、調達先を選ぶ前提が変わる兆しになる。

ベトナムの米はこれまで「食べる米」を中心に評価され、輸入側も炊飯用の等級で選んできた。ND1・ND2はその枠組みの外にある。片方は炊いて売る米ではなく、粉や麺に加工して初めて価値が出る原料として設計されている。バイヤーの視点で言えば、ジャスミン系やST系と価格や食味を突き合わせる従来の比較表とは別の軸で見る必要がある。

目次

ND1はアミロース26.51〜27.3%で米粉・ビーフン向け、ND2は95〜100日の軟質芳香種

ND1は加工適性を前面に出した品種だ。アミロース含量が26.51〜27.3%と高く、米粉、ビーフン(bún)、米麺、菓子といった加工原料に向く。高アミロースの米は炊くとパサつくが、その分だけ麺にしたときに切れにくく、粉にしたときの吸水挙動が扱いやすい。生育日数は冬春作で100〜105日、夏秋作で97〜102日。塩性土壌でも育ち、北部の低温や乾燥地でも一定の適応性を示すとされ、作付け地帯を広く取れる。収量は冬春作で6.29〜7.44トン/ha、夏秋作で4.9〜6.7トン/ha。

ND2は逆に食べる米としての質を狙う。軟らかく軽い香りを持ち、高品質米市場と輸出を想定する。生育日数は冬春作で95〜100日と短く、夏秋作で100〜105日。ND1より早く回収できるぶん、二期作・三期作の回転や端境期の出荷計画に組み込みやすい。収量は冬春作で6.04〜6.92トン/ha、夏秋作で4.75〜6.10トン/ha。

項目 ND1(農民1号) ND2(農民2号)
主な出口 米粉・ビーフン・菓子などの加工原料 高品質食用米・輸出
食味・成分 アミロース26.51〜27.3%(高め) 軟質・軽い香り
生育日数(冬春/夏秋) 100〜105日/97〜102日 95〜100日/100〜105日
収量(冬春/夏秋, t/ha) 6.29〜7.44/4.9〜6.7 6.04〜6.92/4.75〜6.10
適応 塩性土・低温・乾燥に一定の耐性 短期回収で作付け回転に有利

数値はメコンデルタ稲研究所の公表値(Nông nghiệp và Môi trường紙, 2026年8月19日)に基づく。

2018年に始まったBOLD Rice Vietnamが、野生稲の系統を親に使った

この2品種は、単独の育種プロジェクトの産物ではない。研究責任者グループを代表するPGS.TS Huỳnh Quang Tín氏によれば、開発は2018年に始まった「BOLD Rice Vietnam」(Biodiversity for Opportunities, Livelihoods and Development)の枠組みで進み、メコンデルタ稲研究所の研究者がドイツのCrop Trust(作物多様性トラスト)と組んで、野生稲由来の優良系統から選抜・試験を重ねた。BOLDはカントー大学が主導し、Crop Trustの資金で2023〜2027年に走る事業だ。

野生稲を親に使う意味は、栽培品種の遺伝的な幅が狭まった現状への打ち手にある。長く選抜されてきた食用米は収量や食味で洗練される一方、耐塩性や耐病性といった「使わなくなった形質」を落としてきた。野生稲はその形質を眠らせて持っている。ND1が塩性土壌や乾燥地でも育つとされるのは、この素材選びと無縁ではない。調達側にとっては、気候変動で作付け地帯が動いても供給が途切れにくい品種、という読み方ができる。

普及品種と正面から競わせず、特定の加工用途に絞ったND1・ND2

カントー大学のLê Văn Lâm副学長は、市場で広く出回る品種と直接ぶつけるのではなく、特定の市場セグメントと製品に応える多様な品種を育てる方向を示した。これは輸入バイヤーの実務に直接効く。既存のジャスミン米やST25と価格で殴り合う品種がもう1つ増えるのではなく、「炊く米」の競争とは別の棚を作りにいく発想だからだ。

ベトナムの米はここ数年、量から質への転換を各地で進めている。アンザン省が半年で530万トンを低排出米へと切り替えた動きや、クアンニンの減農薬米が対日調達を意識して品質を磨く事例は、いずれも「安い大量の米」から抜け出す試みだった。ND1・ND2はそこにもう一段、用途別の育種という軸を足した格好になる。輸出一辺倒だった品種開発が、国内の加工需要と輸出の両にらみに広がっている。

高アミロース米は日本の米粉・ビーフン加工とどう噛み合うか

日本側の文脈で見ると、ND1の設計は無視できない。国産米の価格が上がった局面で、加工用の原料米や米粉を輸入で手当てする食品メーカーが増えている。グルテンフリーの米粉パンや米粉麺、フォー・ビーフンといった米麺、せんべい系の加工品は、炊飯用のもちもちした低アミロース米よりも、ND1のような高アミロース米のほうが素直に扱える。麺のコシ、粉の吸水、成形時の崩れにくさは、アミロースの高さがそのまま効く領域だ。

ただし、日本のバイヤーがすぐ発注できる段階ではない。ND1・ND2は流通許可が下りたばかりで、当面の作付けはメコンデルタ中心の南部にとどまる。輸出用に安定した数量とロット間のばらつきの少なさを求めるなら、契約栽培や加工歩留まりの実測を挟む前提で見るのが現実的だ。米そのものを輸入する前に、現地で粉やビーフンに一次加工した形で入れる選択肢も、加工原料という性格を踏まえれば検討に値する。ベトナム米の主力がアフリカ向けの香り米で支えられてきた構図を踏まえると、加工用の高アミロース種は輸出ポートフォリオの中でまだ薄い層であり、そのぶん先に接点を作る価値がある。

20年の流通許可は取れた、だが調達側が先に確かめること

ND1・ND2は農業・植物保護局(Cục Trồng trọt và Bảo vệ thực vật)から流通許可を受け、有効期間は20年。制度上は長く付き合える品種になった。とはいえ、公表されているのは試験段階の収量と成分の幅で、商業ロットの実績はこれから積み上がる。原料米・米粉の担当者が動くなら、次の点を順に押さえたい。

  • ND1の高アミロースが、自社の米粉・ビーフン・菓子のどの工程歩留まりに効くかを少量サンプルで実測する。
  • 作付けがメコンデルタ南部に偏る初期は、供給地帯と収穫期(冬春・夏秋の二期)を確認し、通年調達の穴を洗い出す。
  • 野生稲由来という素材の物語は、加工品のブランド訴求に使えるが、栄養や機能をうたう表現は避け、事実の範囲で扱う。
  • 米を輸入するか、現地で粉・麺に一次加工した形で入れるか、関税と物流を含めて出口の形を先に決める。

今回のニュースの核は、収量記録でも輸出額でもない。ベトナムの育種が「どんな米を作るか」から「何に使う米を作るか」へ、出口から逆算する段階に入ったことだ。米粉や米麺の原料をベトナムに求める日本の食品メーカーにとっては、既存の炊飯用グレードとは別の商談ルートが生まれる合図として、ND1の加工適性を早めに評価しておく意味がある。

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この記事を書いた人

京都で食品ブランドを運営しながら、これまで乾燥野菜や野菜パウダーなど、素材の魅力を活かした商品づくりに携わってきました。現在はベトナム在住2年目で、現地ではコーヒーの生産現場にも関わり、栽培から加工、味づくりまで一貫して学んでいます。毎日の暮らしの中で、安心して楽しめる食品を届けたいという思いから、生産背景や作り手の顔が見える商品を大切にしています。日本とベトナム、それぞれの食文化の魅力を活かしながら、日常にちょっとした豊かさを届けることを目指しています。

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