ベトナム北部ラオカイ省が、薬用植物の産地づくりに公的資金を入れる決議24号(Nghị quyết 24/2026/NQ-HĐND)を2026年8月22日に施行した。種苗生産、集中栽培、森林下での栽培、原料地区の整備、貯蔵・加工までを一本の支援策でつなぎ、1プロジェクトあたり設備投資の半額を最大50億ドン(約2,857万円、1円≒175VND換算の概算)まで一度だけ補助する。当帰や川芎、砂仁といった漢方由来の生薬がここで育つため、日本で薬膳食材や健康食品の原料を探す調達担当にとって、供給側がどう組み替わるかを先に読む材料になる。
この記事は、越の生薬・健康食材を仕入れる立場のバイヤーと輸入業者、産地開拓を担う農業関係者に向けている。
決議24号は設備投資の半額を最大50億ドンまで、種苗から加工までを一括で支援する
決議24号が対象にするのは、良質な種苗の生産、まとまった面積での集中栽培、森林の樹冠下を使った薬用植物の栽培、標準を満たした原料地区の構築、そして貯蔵と加工への投資である。核になるのが設備補助で、機械・生産ライン・設備の購入費の50%を、1プロジェクト最大50億ドン(約2,857万円)まで一度限りで出す。栽培面積を広げるだけの補助ではなく、収穫後の加工までを一つの流れとして組む設計に踏み込んだ点が、この条例の勘所になる。
川上だけを補助する制度は、収穫物が加工されずに生鮮のまま買い叩かれる構図を温存しやすい。設備投資の半額補助を加工まで届かせることで、産地に付加価値を残す狙いが読み取れる。
Traphaco Sa Paの契約栽培60haが、サパとタフィン村で数百戸を束ねている
条例の裏づけになる実例が、アクティソ(アーティチョーク)のエキスを製造するTraphaco Sa Pa社の契約栽培だ。同社はサパ市街とタフィン村で約60haを組み、数百戸の農家と組んで年に生鮮2,000トン以上、乾燥で約70トンを買い取っている。栽培から一次加工、エキス製造までを一社が握る垂直統合型で、農家は栽培に専念しながら決まった買い手を持てる。
薬用植物は、天然採取に頼ると供給量も品質も安定しない。栽培へ切り替えて買い手を固定するこの型は、ラオカイと同じ北部のランソンが砂仁を森林の下で商業栽培に載せた事例や、自然採取に限界がきた薬用根「地レン」をクアンニンが産地化した動きと重なる。生薬の川上が、山採りから契約産地へ移っている流れが北部で同時に進んでいる。
省全体で6,500ha・年3万トン、生産額は約100億ドンにとどまる
ラオカイ省の薬用植物は栽培面積が約6,500ha、年間生産量が3万トン超に達する一方、生産額は約100億ドン(約5.7億円)にとどまる。量に対して金額が伸びないのは、多くが生鮮や乾燥の一次品のまま出ていくためだ。栽培品目はアクティソ、三七(田七)、当帰、川芎、砂仁、チェーザイ(甘茶蔓の一種)、ジャオコーラム(アマチャヅル)が主力で、サムブーディエップやホアンリエン(黄連)など希少種の保全も並行している。
| 指標 | ラオカイ省全体 | Traphaco Sa Pa契約分 |
|---|---|---|
| 栽培面積 | 約6,500ha | 約60ha |
| 年間生産量 | 3万トン超 | 生鮮2,000トン超/乾燥約70トン |
| 年間生産額 | 約100億ドン(約5.7億円) | — |
| 主要品目 | アクティソ・当帰・川芎・砂仁ほか | アクティソ |
金額はラオカイ省発表値。円換算は1円≒175VNDでの概算。
種苗と消費地の細さを、局長が「3つの要素」と名指しした
省農業環境局のチャン・ミン・サン局長は、薬用植物の産地化には良質な種苗、栽培に携わる担い手、売り先となる消費地の3つが欠かせないと述べ、面積を広げるだけでなく供給網を丸ごと組む必要があると指摘した。裏を返せば、この3つが現状の弱点だ。種苗は安定供給の仕組みが細く、加工設備も足りず、生鮮のまま流れる比率が高い。決議24号の設備補助と森林下栽培の後押しは、この弱点を埋めるための順番として置かれている。ラオカイは約86.5万haの森林を抱えており、樹冠の下で薬用植物を育てる余地が広い。
種苗が細いという指摘は、調達側から見ると品質のばらつきに直結する。基原となる種が揃わなければ、同じ「当帰」でも成分も見た目も年ごとにぶれる。買い手が固定された契約産地では、種苗も供給元が揃えられるため、この点でTraphaco Sa Pa型の垂直統合が効いてくる。決議24号が種苗生産そのものを補助対象に入れたのは、加工設備だけを増やしても原料の質が伴わなければ産地が育たない、という順序を押さえた設計になっている。
当帰・川芎・砂仁の川上として、日本の薬膳・健康食材バイヤーが今見ておくべきこと
当帰、川芎、砂仁は日本の漢方処方や薬膳食材でも使われる生薬で、ラオカイはその原料産地になり得る。日本のバイヤーにとっての意味は、契約栽培と加工が制度で後押しされ、産地に一次加工能力が積み上がる点にある。生鮮を買って自前で加工するより、乾燥・エキス化まで済んだ原料を産地から引ける可能性が開ける。当帰・川芎のように華北や中国産に依存しがちな生薬の調達先を分散する選択肢として、ベトナム北部の高地産を早い段階で見ておく価値がある。ただし薬用植物は残留農薬や重金属、種の同定が品質の生命線になるため、証明書類とトレーサビリティの確認は生鮮果実以上に厳しく行う前提で臨みたい。
調達で押さえる実務ポイント
- 買い手を持つ契約産地(Traphaco Sa Pa型)を軸に、栽培から一次加工まで一貫している供給者を優先して当たる
- 当帰・川芎・砂仁など日本の需要が読める品目に絞り、生鮮ではなく乾燥・エキスなど加工度の高い形での引き取りを打診する
- 残留農薬・重金属・基原(種の同定)の試験成績書と、栽培地の産地証明をロットごとに確認する
- 種苗の供給元が固定されているかを確認し、年次で品質がぶれない体制かを見る
- 希少種・保全対象種は取引可否の法規制を事前に照会し、栽培由来であることの裏づけを取る
ラオカイの決議24号は8月22日に動き出したばかりで、補助を使った加工設備の増設や新規参入がこれから出てくる段階にある。北部の生薬産地を調達候補に入れるなら、Traphaco Sa Paのような既存の契約産地に一次加工の状況を問い合わせつつ、決議24号で新たに加工設備を入れる事業者の動きを追うのが、次の一手になる。森林下の薬用植物という広い供給余地は、ゲアン省が618haの林業区で大径材と林床の薬用植物を一体化した設計とも通じ、越北部・中部で生薬の川上が同時に厚くなっていく。