ベトナム水産物・水産加工品輸出協会(VASEP)が8月19日に公表したデータで、2026年1〜7月のマグロ輸出が5.44億ドル(約805億円、1ドル148円換算)に達し、前年同期比2%増へ転じた。年前半の大半は前年割れだったが、6月と7月に連続で急伸して押し戻した形だ。ただし回復の中身は特定市場に偏り、7月23日に発効した米通商法301条の追加関税が年末にかけての重荷になる。ベトナム産マグロを扱う日本の水産バイヤーにとって、調達先の集中リスクと価格の読み方を確かめる材料になる。
6月・7月の連続増が上期の落ち込みを埋め戻した
VASEPによれば7月単月のマグロ輸出は約9,000万ドル(約133億円)で、前月比30%増えた。年初から5月まで前年を下回り続けた流れが、初夏の2ヶ月でひっくり返った。金額の絶対値でみれば5.44億ドルは水産全体からすればなお一部だが、方向が下向きから上向きへ変わったことが今回の節目になる。前年割れが続いた局面では買い付けを絞っていたバイヤーも、単価と数量が戻り始めた6月以降は発注を再開しており、その積み上がりが7月の伸びに表れている。
戻りを引っ張ったのは米国向けだ。7月の対米マグロ輸出は3,760万ドル(約56億円)で前年同月から80%以上伸び、1〜7月累計では2.136億ドル(約316億円・6.3%増)に積み上がった。この結果、米国はベトナム産マグロ輸出の39.3%を占め、単独で全体の4割近くを担う。裏を返せば、この一本足に近い構成のまま関税環境が変わると、全体の数字がそのまま揺れる。缶詰やロインといった米国で消費量の大きい品目に供給が集中してきた分、代替市場をすぐには見つけにくいという弱さも抱える。
| 指標 | 2026年1〜7月 | 前年比 |
|---|---|---|
| マグロ輸出総額 | 5.44億ドル(約805億円) | +2% |
| うち対米累計 | 2.136億ドル(約316億円) | +6.3% |
| 対米シェア | 39.3% | — |
| 7月単月・総額 | 約9,000万ドル(約133億円) | +30%(前月比) |
| 7月単月・対米 | 3,760万ドル(約56億円) | +80%超 |
金額はVASEP発表(2026年8月19日)。円換算は1ドル=148円で算出した概算。
7月23日発効の301条追加関税でベトナムだけ12.5%
米国は強制労働に関わる通商法301条の調査を踏まえ、7月23日からベトナム産の多くの品目に12.5%の追加関税を課した。問題はこの水準が近隣の競合国より高いことだ。エクアドル、インドネシア、メキシコ、インドは10%にとどまり、ベトナムだけが2.5ポイント不利な位置に置かれた。缶詰マグロや標準的な冷凍品など、価格で競う汎用グレードほどこの差が効く。米国の輸入者からすれば、同じ規格の原料をベトナムから引くかエクアドルから引くかで着地価格が変わるため、調達先を切り替える理由になり得る。
対米が全体の4割を占める構造で、その市場に競合より高い関税がかかる。7月までの急伸は関税発効前の駆け込み分を含む可能性があり、8月以降に反動が出れば、上期にようやく取り戻したプラスが年末に向けて再び削られかねない。VASEPが回復と同時に「新たな圧力が年末に向かっている」と位置づけたのはこの読みによる。しかも301条は関税率だけでなく強制労働という調達の中身を突く措置で、産地や漁獲工程の証明が弱い供給元ほど、関税以外の面でも取引の対象から外れやすくなる。
EUは深い減少が続き、市場の綱引きが鮮明になった
もう一つの主要市場であるEUは、この7ヶ月で深い落ち込みが続いた。米国が伸びる一方でEUが沈むという綱引きが、マグロ輸出全体をなお不安定にしている。加工度の高い製品ほど各市場の規制やトレーサビリティ要件が重く、値ごろだけでは動かせない。ベトナム産マグロの輸出は、市場ごとの明暗がそのまま束ねられた状態にある。米国が関税で頭打ちになり、EUが戻らなければ、7ヶ月でようやく積んだ2%増という薄いプラスは足元から崩れやすい。
この構図は、産地側が単一市場への依存を薄める設計を迫られていることを示す。中国が越水産全体で最大の買い手に浮上した流れは、米国を抜いた中国が越水産の最大市場になった動きに詳しいが、マグロでも同じ分散の圧力が働き始めている。特定市場が政策一つで揺れることを繰り返し経験したことで、輸出者は買い手を二軸・三軸に広げる方向へ動く。
日本の水産バイヤーが読むべき調達先分散のサイン
日本はベトナムにとって水産全体で3位前後の安定した買い手で、7月の対日水産輸出は1.44億ドルを超え前年から3.8%伸びた(累計も2.6%増)。米国とEUが逆方向に振れるなかで、日本向けは細いながら着実に積み上がっている。対米が高関税で頭打ちになれば、ベトナムの輸出者は日本を含むアジア市場への配分を厚くする動機が強まる。刺身用ロインや冷凍サク、缶詰原料を調達する日本側にとっては、供給に振り向けられる量と交渉余地が増える局面になり得る。急いで契約を積み増すというより、これまで対米優先で回っていた供給元が日本向けの棚を空け始めるかを、四半期単位で見ておく価値がある。
一方で、米国の301条が強制労働を起点にした関税である点は、日本の調達でも見過ごせない。原料の産地・漁獲の証明が甘い供給元は、いずれ日本のサプライチェーン監査でも問われる。ベトナムがマグロの産地証明を紙から電子へ切り替えている取り組みを追える供給元かどうかは、価格以前の選別基準になる。関税で押し出された量を安く取れるからと証明力の弱い相手に寄せると、後で監査の側でつまずく。
調達側が確認したい実務ポイント
関税と市場の綱引きを踏まえると、日本の調達担当が短期に見ておく点は次の四つに絞られる。いずれも価格表の数字より前に、供給元の構造そのものを問うものだ。
- 取引先が対米比率をどれだけ抱えているか。39%の市場に関税がかかる以上、対米依存の高い相手ほど年末に価格・数量が動きやすい。
- 缶詰・冷凍の汎用グレードか、刺身用ロインなど高付加価値品か。関税差の影響は汎用品ほど大きく、高付加価値品は相対的に守られる。
- 電子的な漁獲証明(eCDT)や漁船の追跡体制を持つ供給元か。IUU漁業や強制労働の観点で、証明力が調達可否を左右する。
- 米国からアジアへ振り替える動きが出た際に、日本向けの数量とリードタイムをどこまで確保できるか。
ベトナム産マグロは、6月・7月の急伸で上期の赤字を消したものの、その回復は対米一本に大きく依存している。7月23日の12.5%関税はその一本足を直撃する構造で、年末に向けて数字は再び揺れやすい。WCPFC加盟をにらんだ漁業データ整備が対日マグロ調達を左右する流れと合わせて見ると、日本の買い手が次に打つ手は明確だ。対米比率の高い相手に偏らせず、証明力のある供給元へ配分を分けておく。関税が押し出す量を、証明の質で選び取る時期に入っている。