ドリアンの畑先価格が下がる局面でも、ダクラク省クオル・ダン県タン・ソン地区のレ・ヴァン・トゥオン氏は1haの畑をキロ62,000ドン(1円≒175VNDで約350円)で売り切った。A級品率は8割超。値ではなく揃った品質で買い手を選んだ格好で、対日調達で「規格の安定」を最優先する輸入業者にとって、拾うべき論点はこの一畑の工程管理にある。
トゥオン氏の1haは110本・Dona種で25トン、収益15.5億ドンの見立て
トゥオン氏の畑は約110本のDona種で構成され、2026年の収穫は約25トンを見込む。単価62,000ドンで計算すると収益は15.5億ドン(約886万円)に達する。同じ地区でも実がばらつけば選果で弾かれ、平均単価は落ちる。トゥオン氏の畑がA級8割を出せた点が、この数字を支えている。
ドリアンは1本の樹の中でも着果位置や日当たりで実の充実度が変わり、収穫適期の見極めも難しい。畑全体で規格を揃えるには、花芽の時期から収穫後の樹の回復まで、工程ごとに手を入れる設計が要る。トゥオン氏はそこを外注のマニュアル任せにせず、樹勢の段階に合わせて資材を切り替えた。
収穫後の回復から実肥まで、段階別に資材を替える一貫設計
トゥオン氏はNông Hóa Xanh社の技術基準を導入し、収穫後の樹勢回復段階から実の育成段階までを通しで管理している。使ったのはCon Cừuの有機肥料に加え、収穫後の回復に充てるBiofuvat、実を太らせる段階のBiofruitといった資材で、樹が今どの局面にあるかで投入を変える組み立てだ。
ポイントは、収穫が終わった直後を「休ませる時期」ではなく「翌年の品質を仕込む時期」と位置づけている点にある。前年に消耗した樹を有機質で戻し切ってから花芽・着果へ進めるため、実の肥大がそろい、収穫時のばらつきが小さくなる。化学肥料を一気に効かせて樹を追い込む従来型と比べ、A級率という出口の数字で差が出る。
ドリアンのA級・B級は、重量・形状・果肉の充実と、変形や刺の欠けといった外観で分かれる。畑の一部だけ養分が偏れば、同じ樹でも下位等級が混じり、選果後の平均単価は容易にキロ数千ドン単位で下がる。段階別に資材を替える管理は、この「畑内のばらつき」を抑えるための工程であって、単に肥料の銘柄を高級品に替える話ではない。樹がどの局面にあるかを読み、回復・花芽・肥大のどこに投入を寄せるかを判断する現場の目が伴って初めて、A級8割という数字が出る。
12ha・1,600本のドゥック氏は収量を倍増、単価も1万ドン上げた
同じタン・ソン地区で12ha・約1,600本を6年目で管理するフン・ヴァン・ドゥック氏は、2026年の収量を約120トンと前年の約60トンからほぼ倍増させる見立てだ。買い取り単価も前年の50,000ドンから60,000ドン(約343円)へ、キロ10,000ドン上げて商談している。面積規模が10倍以上違っても、樹の状態を見て投入を合わせるという考え方は共通する。
| 農家・産地 | 面積 | 規模 | 2026年収量(見込) | 単価 |
|---|---|---|---|---|
| レ・ヴァン・トゥオン氏 | 1ha | 約110本 / Dona種 | 約25トン | 62,000ドン・A級8割超 |
| フン・ヴァン・ドゥック氏 | 12ha | 約1,600本 / 6年目 | 約120トン(前年約60トン) | 60,000ドン(前年50,000) |
| ダクラク省全体 | 4.1万ha超 | 結実樹 約3万ha | 約50万トン | ― |
価格は原文記載のドン建て。円換算は1円≒175VND目安の概算。
個別農家が畑単位で工程を握る動きは、ダクラク以外でも広がる。技術者が畑に通って施肥や剪定を指図する契約生産型で収量を倍にした事例や、1本ごとの樹の収支を管理する農家の稼ぎ方と並べると、トゥオン氏の施肥設計は「畑を測って直す」という同じ潮流の一断面だとわかる。
日本の輸入業者が問うのは価格より「A級率が来年も出るか」
日本のドリアン輸入は冷凍が中心で、剥き身やピューレに加工して菓子・製パン・飲料に回る流れが太い。冷凍・加工の歩留まりは原料の熟度と果肉の充実に直結するため、買い手が本当に欲しいのは最安値ではなく、A級率が翌シーズンも再現される畑だ。トゥオン氏のように収穫後の回復から仕込む工程は、この再現性を直接つくる部分にあたり、単発の豊作より評価されやすい。加工に回す前提の買い手ほど、当たり年の見栄えより「外れ年でもA級が崩れないか」を重く見る。
調達側が現地で確認すべきは、その年の実の見栄えより、施肥の記録が段階ごとに残っているか、収穫後にどの資材でどれだけ樹を戻したか、という工程の証跡である。畑先の値付けだけを追うと、翌年に品質が崩れる産地をつかむ。工程を言語化して見せられる農家は、複数年の取引を前提にした価格交渉でも土台が固い。
実務上は、こうした畑を1軒だけ確保しても供給は安定しない。日本側が求めるロットを埋めるには、同じ施肥設計を回す畑を地区でまとめて押さえる必要がある。トゥオン氏の1haやドゥック氏の12haのように、規模が違っても同じ考え方で管理する農家が近接していれば、等級構成の読める原料を束ねやすい。逆に、豊作の年に飛び込みで安い畑を拾う調達は、冷凍歩留まりのブレとして加工段階でコストに跳ね返る。
品質を個人技で終わらせず産地に広げられるかが次の分かれ目
トゥオン氏やドゥック氏の成果は、いまのところ畑ごとの管理力に依存する。産地全体で見れば、施肥設計を持たない畑と持つ畑の差が、そのままA級率と単価の差になって表れている。ダクラク省は4.1万ha超・結実樹約3万haを抱え、2026年の生産量は約50万トンと見込まれる規模だが、この量を「揃った品質」で束ねられなければ、平均単価は畑先の値下げ圧力に流される。
その手がかりになるのが、技術を囲い込まず農家どうしで栽培ノウハウを共有する産地づくりだ。個人の施肥設計を地区の標準工程に落とし込めれば、A級率のばらつきは産地単位で縮む。買い手にとっては、特定の一畑を追いかける調達から、産地ぐるみで規格を担保する調達へ移れるかどうかが、来季の選定基準になる。
当面の実務では、次の点を現地確認の起点にしたい。
- 収穫後の樹勢回復に使った資材と時期の記録が畑ごとに残っているか
- A級品率が単年でなく複数シーズンで安定しているか
- 品種(Dona等)と樹齢、着果本数が申告と畑で一致するか
- 施肥設計が農家個人の記憶でなく、地区で共有・再現できる形になっているか
価格が下がる年ほど、揃った品質を出せる畑と出せない畑の差は広がる。トゥオン氏の1haが示したのは、豊作を待つのではなく、収穫が終わった翌日から翌年の規格を仕込むという順番だった。調達で見るべきは今年の実そのものより、その順番を回せる農家かどうかである。