ベトナム産コーヒーの買い手として、中国が急に量を増やしている。ベトナム通信(VietnamPlus)が2026年8月にまとめた対中農産物の分析によると、2026年1〜5月に中国が輸入したベトナム産コーヒーは9,960万ドル(約147億円、1ドル148円で概算)で、前年同期比87.1%増えた。中国のコーヒー輸入に占めるベトナムのシェアは8.8%から15.3%へ、ほぼ倍近くに上がっている。ベトナム産ロブスタをブレンドやインスタントの土台に使ってきた日本の焙煎業者と商社にとって、これは仕入れの数量と単価が具体的に動く前触れだ。
中国の越コーヒー輸入は1〜5月で9,960万ドル、シェアは8.8%から15.3%へ
数字の伸びが際立つ。金額で87.1%増、シェアはほぼ倍。中国のコーヒー市場はブラジル産アラビカや欧州経由の焙煎豆が主流だったが、そこにベトナム産ロブスタが一気に食い込んだ格好だ。インスタントや缶・ペットボトルの調整コーヒー、若年層向けチェーン店など、ロブスタを主原料にする用途が中国国内で広がったことが伸びを後押ししたと読める。シェアが1割を超えて15%台に入ったことには意味がある。1桁台のうちは供給元の一つに過ぎないが、15%まで来ると中国はベトナムのロブスタ輸出量そのものを左右する主要顧客になり、産地や輸出業者が数量配分を決めるときに中国の引き合いを優先する動機が働き始める。中国の買い付けが強いのはコーヒーに限らず、2026年1〜7月で中国はベトナムの農産物輸出額の21.9%を占め、青果は22.2億ドル、水産は7カ月累計で約17.4億ドルに達している。ドリアンでも同じ流れで、中国の越ドリアン爆買いがベトナムを第2供給国に押し上げた。ただ日本のコーヒー調達に直接効くのはコーヒーの数字なので、本稿はここに絞る。
87.1%増の正体は、収穫量の限られた同じロブスタ生豆の奪い合い
ここで効いてくるのは、コーヒーが在庫の限られた一次産品だという点だ。ベトナムは世界最大のロブスタ生産国で、1シーズンに収穫できる生豆の量は決まっている。中国のシェアが8.8%から15.3%へ動いたということは、同じ産地・同じ収穫年の生豆をめぐって、中国の買い手が従来より大きな取り分を確保したことを意味する。全体の生産量が急に増えるわけではないから、後から同じ豆を買う側の枠はそのぶん狭くなる。米国を抜いた中国が越水産の最大市場になり、日本が3位に回った局面と、コーヒーで起きていることは同じ構造だ。買い手が一国に集中するほど、限られた供給を取り合う力が価格に乗ってくる。
タイミングも効いてくる。ベトナムのロブスタ収穫は秋から冬にかけて集中し、輸出向けの数量交渉はその前後で動く。中国の買い手が年間ベースで大きな枠を先に確保すれば、同じ収穫年の生豆から後で数量を積み増そうとする買い手は、残りの薄い部分を高い値段で拾う形になりやすい。今回の1〜5月という時期は、この収穫年の初期にあたる。ここでシェアが8.8%から15.3%へ跳ねた事実は、中国が早い段階から数量を押さえに動いたことを示し、後続シーズンでも同じ動きが続けば影響は一過性で終わらない。
日本の缶コーヒーとインスタントを支えるロブスタに、単価と数量の圧力
日本のコーヒー輸入は、ブラジルと並んでベトナムが主要な仕入れ先だ。ベトナム産ロブスタは、缶コーヒーやペットボトル飲料、インスタント、業務用の低価格帯ブレンドで土台を担う。中国の輸入が87.1%増でシェアを倍近くに伸ばした状態が続けば、日本の焙煎業者が受ける影響は二つに整理できる。ひとつは生豆の仕入れ単価に上向きの圧力がかかること。もうひとつは、希望する数量を満額で押さえにくくなることだ。ロブスタは商品設計上アラビカへ簡単に置き換えられない用途が多く、単価が上がっても数量を確保しに行かざるを得ない場面が増える。中国需要が中部高原のロブスタに向かうほど、日本の買い手は「安いから買う」ではなく「必要量が取れるか」を先に問う立場に変わる。
用途によって痛みの出方は違う。缶コーヒーやインスタントのように、味の設計をロブスタ主体で固めてきた製品は、生豆が上がってもすぐに配合を変えにくく、原価の上昇をそのまま抱えることになる。スペシャルティ寄りのアラビカ中心の焙煎業者は影響が薄いが、日本の消費量を支えているのは業務用・量販向けのロブスタブレンドだ。中国のシェア上昇が直に響くのは、この大量消費の土台部分になる。
スポット中心の中小焙煎ほど、大口の中国需要に枠を後回しにされる
影響の出方は買い方でも分かれる。年間契約で数量を先に固定している大手は、単価が動いても必要量は読める。一方、スポットで数量を都度調整してきた中小の焙煎業者は、年間契約で先に枠を取りに来る大口の中国需要とぶつかったとき、供給が逼迫する局面で後回しにされやすい。ベトナム国内では中部高原のロブスタ一辺倒から、ディエンビエンなど北西部のアラビカ産地も育ちつつあるが、これは主にアラビカの話で、缶コーヒーやインスタントが求めるロブスタ用途の代替にはならない。ロブスタを主原料にする業者ほど、中国需要と正面からぶつかる構図からは抜けにくい。だからこそ、単価交渉より先に「次シーズンの必要量をどこまで前もって押さえるか」の判断が重くなる。
見るべき指標もはっきりしている。今回の8.8%から15.3%へというシェアは1〜5月の数字なので、まず年後半のデータで中国のシェアがさらに伸びるか、頭打ちになるかを追う。伸びが続くなら、次の収穫年の交渉を中国勢が枠を取りに動く前、つまり収穫が本格化する秋より前に前倒しする判断が現実味を帯びる。商社経由で買っている業者は、仕入れ先が確保している数量の何割が自社に回るのか、中国向けの引き合いが強まったときに優先順位がどうなるのかを、契約更新の前に確認しておきたい。
ベトナム産ロブスタは「安く買える原料」から「中国と取り合う原料」へ
2026年1〜5月の87.1%増と、シェア8.8%から15.3%への上昇という数字は、ベトナム産ロブスタが日本にとって取り合う原料に変わりつつあることを示している。まず自社が使うベトナム産ロブスタの年間数量と、それがスポット買いか年間契約かを棚卸ししたい。そのうえで、次シーズンに必要な量のうちどこまでを早めに固定するかを、中国の大口需要が枠を取りに来る前提で決める。中国のシェアが15%台に乗った今、この判断を先送りするほど、単価でも数量でも不利な側に回りやすい。年後半の対中輸入データでシェアがさらに動くかどうかが、次シーズンの仕入れ計画をいつ固めるかの目安になる。