ベトナム産ドリアンの調達では、産地や等級だけでなく「その農家がどう作っているか」まで見ないと品質が読めない。中部高原ダクラク省で、資材メーカーの技術者が農家の畑に入り込み、樹の回復期から結実までを毎週伴走する「技術指導付きの契約生産」が広がっている。ある農家では1シーズンで収量がほぼ倍になった。原料の安定調達を狙う日本の食品バイヤーにとって、産地の実力を測る新しい物差しになる動きだ。
資材メーカーが「売って終わり」をやめた
起点になったのは、農業資材会社Nông Hóa Xanhのダクラク支店が進める生産支援モデルだ。同社は肥料を納品するだけでなく、樹勢の回復、花芽処理、そして結実の管理まで、栽培工程の各段階に技術者を現場へ送り込む。訪問は週単位で、落果や生育不良が出れば即座に対応策を示す。同支店の代表を務めるNguyễn Hữu Cường氏は、この体制の核心を「農家の心理的な負担と生産リスクを下げること」だと説明する。
ダクラク省はベトナムで2番目のドリアン産地でありながら、中国向け正規輸出が本格化してまだ日が浅い。栽培面積は急拡大したものの、農家ごとに技術のばらつきが大きく、単収や品質が安定しないという課題を抱えてきた。資材を売る側が栽培工程そのものに責任を持つ形は、この不安定さへの一つの答えになっている。
回復期から結実まで、段階ごとに手を入れる
指導は肥料設計と一体で動く。土づくりの段階では羊糞やコウモリ糞といった有機肥料を、結実期にはBiofuvatやBiofruitといった生物由来の資材を、時期と量を指定して投入する。狙いは増量ではなく、必要な時に必要なだけ効かせて無駄な施肥を減らすことにある。農家は「いつ何をどれだけ与えるか」を工程として渡されるため、経験や勘に頼らずに毎シーズン同じ品質を再現しやすくなる。
この「技術を工程に落とし込む」発想は、隣接するメコンデルタでも別の形で現れている。カントーでは腕のいい生産者がノウハウを囲い込まずに共有する「億万農家クラブ」を築き、産地全体の底上げを図ってきた。担い手が技術を教える側に回るか、資材メーカーが伴走するか。入り口は違っても、産地の品質を個人技から仕組みへ移す流れは共通している。
実名農家で見える成果
効果は具体的な数字で表れている。Tân An地区でドリアン45本を育てるY Thinh Byă氏の畑では、樹齢7年の収穫樹で1本あたり100個を超える着果が得られ、2025年に約4トンだった収量が2026年は約8トンへと倍増する見込みだという。同じ地域でモデル導入3年目のThoang Ayun氏は、上質な果実を1kgあたり64,000ドン(1万ドン≒60円換算で約380円)で販売できるまでになった。Ea Knuếc地区のTrần Văn Huân氏は、収穫期の約60本に加えて140本の若木を抱え、品質を揃えたうえで安定供給に踏み出している。
| 農家 | 規模 | 主な成果 |
|---|---|---|
| Y Thinh Byă | 樹齢7年・45本 | 収量 約4トン→約8トン(倍増見込み) |
| Thoang Ayun | 5サオ・導入3年目 | 上質品 64,000ドン/kgで販売 |
| Trần Văn Huân | 収穫樹60本+若木140本 | 品質を揃えた安定供給へ |
省全体で見ると、ダクラクのドリアン栽培面積は約41,000ha、うち約30,000haが収穫期に入り、2026年の生産量は50万トンに達すると見込まれている。この規模の産地で単収と品質が工程管理によって底上げされれば、供給の読みやすさは大きく変わる。
日本の調達にどう効くか
日本のバイヤーがベトナム産ドリアンを扱う際に悩まされてきたのが、同じ産地・同じ品種でもロットごとに熟度や食味が揺れる点だ。技術伴走型の契約生産は、この揺れを畑の段階で抑える取り組みにあたる。仕入れ先を選ぶとき、面積や輸出実績だけでなく「栽培工程を管理している資材パートナーが付いているか」を確認材料に加えると、品質の再現性を見抜きやすくなる。
もう一つの示唆は、施肥を絞り込む設計が付加価値につながっている点だ。無駄な肥料を減らして品質を上げる工程は、栽培記録の透明化とも相性がよい。ベトナムはドリアンに産地コードによる長期輸出の設計を進めており、農家単位の栽培管理はそのまま調達側が求めるトレーサビリティの土台になる。技術指導の記録が残る産地ほど、日本側は安心して長期契約に踏み込める。
産地間競争は「伴走の質」へ
ダクラクは省を挙げて初のドリアン祭りで産地ブランドを押し出すなど、量の拡大から質と評判の勝負へ軸足を移しつつある。その足元で、資材メーカーが農家に伴走して単収と品質を同時に引き上げる動きが積み上がっていることは見逃せない。産地を選ぶ基準が「どれだけ作れるか」から「どれだけ揃えて作れるか」へ移るなかで、技術伴走の厚みが産地の実力差として表面化していく。
日本の食品バイヤーにとっての次の一手は、取引候補の産地に対して栽培支援の体制を具体的に尋ねることだ。誰が、どの段階で、どれくらいの頻度で畑に入っているか。その答えの解像度が、そのままロットの安定度に直結する。