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エビ養殖池に海藻いかだ、水質浄化と年6000万ドン副収入を両立

ベトナムのエビ養殖池に、海藻(rong biển)を浮かべた「いかだ」を並べる手法が広がっている。1つの池に40〜50基を配置し、水中の窒素やアンモニアを海藻が吸って水質を整えつつ、育った海藻を飼料原料として売って年5,000〜6,000万ドンの副収入にする。すでに100ヘクタール超で運用され、化学薬品への依存を下げる低炭素モデルとして注目される。持続可能な調達を掲げる日本の水産バイヤーにとって、これは「環境対応が価格ではなく収益で回る」珍しい事例であり、対日プレミアムの根拠になり得る。

目次

池に浮かべた40〜50基の海藻いかだが、アンモニアと窒素化合物を吸って底の有毒ガスを抑える

仕組みは単純だ。集約的なエビ養殖では、餌の食べ残しやエビの排せつ物から出るアンモニアや硝酸塩が水中にたまり、池の底には硫化水素などの有毒ガスが蓄積する。ここに海藻のいかだを浮かべると、海藻が成長のためにこれらの窒素化合物や有機物を養分として吸収し、水中の負荷を下げる。生きた生物ろ過装置を池に浮かべるイメージに近い。

ベトナムでの実践では、1つの池あたり40〜50基のいかだを並べる。海藻が余分な栄養塩を取り込むことで、水質の悪化とそれに伴うエビの病気の発生を抑えられるという。この「エビ×海藻」の組み合わせは、学術的には統合多栄養段階養殖(IMTA)と呼ばれ、Gracilaria(オゴノリ類)やUlva(アオサ類)が窒素・リンの吸収に有効だとする研究が各国で積み上がっている。ベトナムの現場は、その理屈を低コストな浮きいかだで実装した格好だ。

育った海藻は飼料原料として月4〜5百万ドンで売れ、年5,000〜6,000万ドンの副収入になる

この手法が普及する最大の理由は、環境対策が「持ち出し」で終わらない点にある。水質浄化のために育てた海藻は、そのまま飼料メーカーに家畜飼料の原料として販売できる。農家の手取りは月あたり約4〜5百万ドン、年間で約5,000〜6,000万ドンにのぼる。

日本円に換算すると、年5,000〜6,000万ドンはおよそ29〜35万円(1円≒170ドン換算、米ドルでは約2,000〜2,400ドル)にあたる。金額そのものは大きくないが、これは「本業のエビ収穫とは別に、水をきれいにした副産物から生まれる収益」である点が重要だ。水質管理はこれまでコストセンターだったが、海藻いかだはそれを小さな利益源に変えている。

項目 従来の集約エビ養殖 海藻いかだ併用
水質管理 換水・薬剤・機械曝気に依存 海藻が窒素・アンモニアを吸収
化学薬品 投入量が多い 依存を低減できる
追加収入 なし 年5,000〜6,000万ドン(約29〜35万円)
炭素 飼料由来の排出が大きい 海藻飼料1トンで約2.5トン削減
日本バイヤーの評価軸 価格・サイズ中心 環境ストーリーを上乗せ可能

飼料1トンで約2.5トンのCO2を減らす計算が、対日ESG調達の交渉材料になる

元記事は、海藻から作った飼料1トンあたり、従来の飼料原料と比べて約2.5トンの二酸化炭素排出を減らせるとする。海藻は成長過程でCO2を吸収し、大豆やトウモロコシのように農地転換や長距離輸送を必要としないため、飼料のカーボンフットプリントを押し下げる方向に働く。

ここが日本のバイヤーにとっての勘所になる。国内の食品小売や外食は、スコープ3(調達先を含む間接排出)の開示要求が年々強まっており、エビは冷凍・養殖由来の排出が大きい品目として神経質に見られる。「抗生物質や化学薬品への依存を下げ、飼料の炭素まで削る養殖池のエビ」という物語は、単なるコスト競争から一歩抜けた調達の差別化材料になる。ベトナムでは政府やNGOが低排出エビの認証・支援を進めており、こうした現場の積み上げは対日プレミアムの土台になり得る。輸出の信用を支える制度面でも、産地コードの取得要件を緩め事後検査主導へ切り替えるトレーサビリティ改革が並行して進んでいる。

抗生物質を「減らせる」かは、放養密度と海藻の収穫頻度の設計しだい

ここは冷静に見ておきたい。海藻いかだは水中の栄養塩を吸って病気の発生を抑えるが、それ自体が抗生物質をゼロにする魔法ではない。効果の大きさは、エビの放養密度、いかだの数と配置、そして海藻をどれだけこまめに収穫して系外へ栄養塩を持ち出すか、といった運用設計に左右される。海藻を池に浮かべたまま放置すれば、枯れた海藻が逆に有機負荷になりかねない。

つまり「海藻いかだ=薬いらず」と短絡せず、密度管理・収穫サイクル・水質モニタリングをセットで見る必要がある。日本側が調達根拠として使うなら、抗生物質の使用実績データや第三者認証と突き合わせるのが安全だ。稲田とエビ・オニテナガエビを組み合わせて土地の価値を高める事例(タインホアの稲田でオニテナガエビ混養、同じ土地の価値が1.5〜3倍に)と同様、複合養殖の効果は「組み合わせ方の設計」で決まる。

日本の調達担当が次に確認すべきは、海藻の種類・販路・トレーサビリティ

この手法の産地からエビや海藻を仕入れる、あるいは同種の取り組みを供給先に促す場合、確認したい点は3つある。

  • 海藻の種類と用途:現地報道は種名を特定していない。Gracilaria系かUlva系かで、飼料向きか食用・寒天原料向きかが変わる。食用グレードなら、海ぶどうのように日本向け食材として別の販路が開ける可能性もある(ベトナム産海ぶどうが有機認証、対日輸入の選択肢になるか)。
  • 販路の実在性:副収入の前提は「飼料メーカーが買い取ること」。買い手が地域に存在するかで、モデルの再現性は大きく変わる。
  • 排出削減の裏づけ:2.5トン/トンという数字を調達文脈で使うなら、算定範囲と第三者検証の有無を確認する。数字を単独で引用するのは避けたい。

環境対応が農家の収益になり、その副産物が調達側の環境ストーリーを補強する。エビ養殖の海藻いかだは、100ヘクタール超という小さくない規模で「持続可能性とコストは両立し得る」ことを見せている。数千ヘクタールへの拡大が実現すれば、日本の水産調達にとっても無視できない選択肢になる。

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この記事を書いた人

京都で食品ブランドを運営しながら、これまで乾燥野菜や野菜パウダーなど、素材の魅力を活かした商品づくりに携わってきました。現在はベトナム在住2年目で、現地ではコーヒーの生産現場にも関わり、栽培から加工、味づくりまで一貫して学んでいます。毎日の暮らしの中で、安心して楽しめる食品を届けたいという思いから、生産背景や作り手の顔が見える商品を大切にしています。日本とベトナム、それぞれの食文化の魅力を活かしながら、日常にちょっとした豊かさを届けることを目指しています。

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