ベトナム産ホタテの輸出が、日本の水産バイヤーにとって無視できない存在になってきた。ベトナム水産物加工輸出協会(VASEP)によれば、2025年のホタテ輸出額は約6,600万ドルで前年の4,400万ドルから49%増加。さらに2026年に入って勢いは加速し、最初の2カ月だけで1,810万ドル、前年同期比166%という3桁成長を記録した。しかも最大の買い手は米国ではなく日本である。ベトナムがホタテの「産地」ではなく「加工・積み替え拠点」として動き出したこの変化は、日本の調達担当が仕入れ先の地図を描き直すきっかけになる。
日本が最大かつ最速の輸出先に浮上
2025年のホタテ輸出を国別に見ると、日本が1,400万ドル(1ドル150円換算で約21億円)で前年比173%増と、金額でも伸び率でもトップに立った。長く最大市場だった米国は1,380万ドルで、増加率は10%にとどまる。日本と米国がほぼ肩を並べ、そこに香港900万ドル(142%増)が続く構図だ。韓国が334%増、アラブ首長国連邦が314%増、カナダが167%増と、新興の受け皿も一斉に膨らんでいる。
2026年初頭の2カ月間はこの傾向がさらに極端になった。カナダが約24倍、オーストラリアが11倍、日本が約5倍、米国が2倍と、桁違いの伸びが並ぶ。単月ベースの変動なので数字の振れは大きいものの、ベトナム発のホタテが特定の1カ国に頼らず、複数の先進国市場へ同時に広がっている点は明確に読み取れる。
| 市場 | 2025年輸出額 | 前年比 |
|---|---|---|
| 日本 | 1,400万ドル | +173% |
| 米国 | 1,380万ドル | +10% |
| 香港 | 900万ドル | +142% |
| 韓国 | ー | +334% |
| UAE | ー | +314% |
| カナダ | ー | +167% |
| 合計 | 6,600万ドル | +49% |
ベトナムは「獲る国」ではなく「さばく国」
ここで押さえておきたいのは、ベトナムがホタテの一大産地になったわけではない、という点だ。VASEPの整理でも、ベトナムは加工と再輸出の工程に深く組み込まれつつある拠点として位置づけられている。原貝を大量に養殖している北海道や青森とは役割が違う。殻むき・整形・冷凍といった手間のかかる加工を担い、そこから各国へ送り出す「積み替え・加工ノード」として存在感を高めているのが実態に近い。
この構図を後押ししているのが、供給側である日本自身の動きだ。世界有数のホタテ供給国である日本は、中国向けの出荷を絞り、その分を他市場へ振り向けている。行き場を探す原料と、人件費を抑えて加工できるベトナムの工場が結びつけば、日本の原貝がベトナムで加工され、日本を含む各国へ戻ってくる循環が生まれる。日本がベトナム産ホタテの最大の買い手になったという事実は、この加工往復の一端を映しているとみるのが自然だ。ベトナム水産の全体像と日本調達の関係は、越水産58億ドルの中身と「加工」という穴場でも整理している。
日本の調達担当がここから読むべきこと
数字の派手さよりも、調達実務にとって意味があるのは「供給源が一本増える」ことだ。ホタテは相場変動と産地リスクが大きい品目で、国内産地が不漁や高騰に振れると調達計画が一気に崩れる。ベトナム経由の加工品が安定して回るようになれば、原貝の産地と加工地を切り離して手配できる。国内原料の端境期を、ベトナム加工ラインで埋めるという発想が現実味を帯びてくる。
一方で、加工ハブは「どこで獲れた貝か」が見えにくくなるという弱点も抱える。積み替え・再輸出が絡むほど、原料原産地の証明とトレーサビリティが調達側の確認事項として重くなる。仕入れの際は、加工地(ベトナム)と原料原産地を分けて確認し、日本の食品表示に耐える書類が揃うかを最初に詰めておきたい。エビや白身魚でベトナムが中国シフトを進める中で日本の調達がどう動くかは、ベトナム水産の中国シフトと日本調達の論点とも重なる。
加工能力の底上げが供給の質を決める
ベトナム側でホタテの伸びを支えるのは、既存の水産加工インフラだ。エビやパンガシウスで積み上げた冷凍・一次加工の設備と人材が、そのままホタテの加工にも転用できる。エビ最大手が新工場で対日供給を強化する動きと同じ流れの中に、ホタテの加工拡大も位置づけられる。加工能力が上がれば、単なる積み替えから付加価値のある製品輸出へと軸足が移り、日本のバイヤーにとっては「規格を指定して作らせる」余地が広がる。設備投資の方向性は、ミンフーのカマウ新工場の動きが参考になる。
ただし3桁成長の多くは金額の小さい市場での倍率上昇であり、絶対額はまだ大きくない。日本向けでも1,400万ドル規模で、国内流通量から見れば補完的な位置づけだ。過度な期待で在庫を積むより、加工品質と原産地確認を見極めながら試験的に取引を重ね、供給源の一つとして育てる姿勢が現実的だろう。
まとめ:新しい供給源をどう試すか
ベトナム産ホタテの急伸は、産地の増産物語ではなく、加工・積み替えという裏方の役割がグローバルな供給網の再編に組み込まれた結果だ。日本の調達担当にとっての実益は、国内産地に一極集中しがちなホタテの仕入れに、加工地と原料原産地を分けて手配できる選択肢が加わること。まずは加工地・原産地・トレーサビリティ書類の3点を確認し、小口の試験取引でベトナム加工ラインの安定性と品質を測るところから始めたい。数字の勢いに乗るのではなく、供給網のどの工程を担う相手なのかを見極めることが、この新しい仕入れ先を活かす前提になる。