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樹齢45年の古木が語る、原料を売らないメコン産地のブランド戦略

ベトナム南部・カントー市タインスアン地区のマンゴスチン園で、農家が古い果樹に「名前」と「樹齢」を記したプレートとQRコードを取り付ける取り組みが始まった。スキャンすると、その木が歩んできた歴史や栽培者の物語が読める。果実そのものではなく、木と作り手の背景を観光資源に変える発想だ。輸出向け原料の調達先として語られがちなメコンデルタで、産地が「物語」を商品化し始めた動きは、国産ドライフルーツやギフト、産地ブランディングに関わる日本の事業者にとっても見逃せない。

目次

カントーで始まった「果樹に名前をつける」取り組み

報じたのはベトナム農業・環境系メディアのnongnghiep.vn系媒体で、舞台はカントー市タインスアン地区のシェーカオ集落。地元の農家組合が中心となり、長年実をつけてきたマンゴスチンの古木に、樹齢・名称・QRコードを記したプレートを設置した。QR先には木の来歴や栽培者の歩みがまとめられ、訪れた人がその場で読めるようになっている。

取り組みの核には、元農業相で国会の要職も務めた人物が掲げた一文がある。「農産物を売るだけでは、そこそこ豊かになれるにすぎない。その作物を生み出した農家自身を売ってこそ、本当の豊かさにつながる」。果実の重量や等級ではなく、作り手と土地の物語に値段をつける、という考え方だ。

樹齢45年・200本超──古木が持つ「語れる資産」

現地で紹介された一例では、ある農家が45年以上の樹齢を持つマンゴスチンを200本超育てている。集落にはさらに古い、樹齢100年級とされる木も残る。年間の収量はおよそ15トン、年間の利益はおよそ3億ドン規模と伝えられている。為替を1円あたり約170ドンで換算すると、3億ドンはおよそ176万円にあたる(レートは変動するため目安)。

注目したいのは、この古木が単なる生産設備ではなく「語れる資産」になっている点だ。新しく植えた木では出せない年輪、世代をまたいで手入れしてきた家の記録、その土地でしか育たない理由。こうした情報は、果実を箱詰めして出荷する流通の中では値段に反映されにくい。木に名前と履歴を結びつけることで、これまで価格に乗らなかった背景に、来園者が対価を払う設計へ切り替えている。

「原料を売る農家」から「物語を売る生産者」へ

ベトナムの果樹産地は、これまで生果の出荷や加工原料の供給を主役にしてきた。マンゴスチンやドラゴンフルーツ、ランブータンといった産品は、中国をはじめとする輸出市場や国内の加工業者に向けて、量と価格で競う場面が多い。供給が増えれば単価は下がりやすく、産地は価格競争に巻き込まれる。

原料を売るモデル 物語を売るモデル
売るもの 果実の重量・等級 木・作り手・土地の背景
価格の決まり方 市況・需給に連動 体験と希少性で上乗せ
競争の相手 他産地・他国の供給 代替の効かない固有の物語
収益の安定性 豊作・不作で振れやすい 来園・指名買いで補完

カントーの取り組みは、この構造に観光と物語という別の収益軸を足す試みだ。同じ木から採れる果実でも、「樹齢45年の○○さんの木のマンゴスチン」として届ければ、価格は市況だけで決まらなくなる。ベトナム国内では、ドンナイ省ロンカイン市の農家が園地情報をQRで公開した事例など、生産者を前面に出す動きが各地で出始めており、カントーの試みもその流れの中にある。

現地・業界からの受け止め

地元では、数十軒規模の農家が集まって取り組みを共有したと伝えられ、古木を持つ生産者の関心は高い。長く育ててきた木に正当な評価がつくなら、伐採して植え替えるより残す価値が出る、という受け止めがあるという。

観光・農政の側からは、果樹園を地域の観光マップに組み込み、収穫期に合わせた来園体験を設計する狙いが語られている。メコンデルタはもともと水路と果樹園めぐりが旅の定番で、そこに「名前のついた木」という目的地を足すことで、滞在時間と消費単価を伸ばせるとの見方だ。

一方で、QRの中身を誰がどう維持するか、物語をうたう以上は来歴の裏付けをどう担保するか、といった運用面の課題を指摘する声もある。物語型のブランディングは、内容が事実と食い違えば一気に信頼を失う。情報の正確さと更新の継続が、定着のカギになる。

日本の産地ブランディング・ギフト事業者への示唆

この事例は、果実の輸入だけでなく、産地の価値づくりに関わる日本の事業者にも応用の余地がある。ポイントは、すでに手元にある「語れる資産」を価格に乗せる視点だ。

第一に、原料の調達という観点では、物語を持つ産地は単価が上がる代わりに、量の安定や差別化された原料を得やすい。生果の輸入や加工原料の供給を物語型産地と組む場合、価格交渉だけでなく、その背景をどう自社の商品説明に活かせるかを設計に入れておくと、仕入れ先の選定基準が変わってくる。

第二に、国産のドライフルーツやギフトの作り手にとって、古木や来歴は強い差別化材料になりうる。一般論として、果樹は植え替えれば若返るが、長く実をつけてきた木の履歴は代替が難しい。日本各地にも世代をまたいで守られてきた果樹園は多く、その背景を商品ラベルや贈答用の説明に結びつければ、量販品との違いを言葉で示しやすくなる。

第三に、QRを使った来歴公開は、トレーサビリティと物語を同時に担う器になる。栽培者の顔、土地の歴史、加工の工程を一つの導線にまとめれば、ギフトの受け取り手にも背景が伝わり、再注文や指名買いにつながりやすい。日本の産地でも、QRを単なる生産者表示で終わらせず、物語の入り口として設計できるかが分かれ目になる。

市場への波及──供給過剰時代の差別化軸

ベトナムの果実・野菜輸出は拡大が続き、産地間・国家間の供給競争は強まっている。供給が潤沢な局面では、量と価格だけで戦う産地ほど利益を削られやすい。物語型のブランディングは、その消耗戦から一部を切り離す手段になる。

この動きは、調達側の日本企業にとっては選択肢の広がりを意味する。価格優先で原料を確保したい局面と、背景を語れる原料で商品を差別化したい局面では、組むべき産地が違ってくる。フルーツの供給過剰が生む調達の好機を見極めるうえでも、産地が量で勝負しているのか、物語で価値を上げにきているのかを見分ける目が要る。

加工・クラスター化の文脈とも接続する。ダクラクの果物加工クラスターのように産地が加工と一体で価値を上げる動きと、カントーのように物語と観光で上げる動きは、どちらも「生果のまま安く出さない」という方向では一致している。調達戦略を組むうえで、両者を併せて見ておくと判断の精度が上がる。

実用情報・関連リンク

メコンデルタのマンゴスチン産地を実地で確認するなら、収穫期にあたる初夏前後が目安になる。カントーは水路と果樹園めぐりの観光基盤が整っており、果樹園体験と地域イベントを組み合わせた視察がしやすい。産地の取り組みを把握するには、地域単位の果物イベントが効率的な入り口になる。

仕入れ・視察のタイミングを計るうえでは、産地が開く催事の情報が手がかりになる。ドンタップの果物週間のような地域イベントは、複数の生産者や加工事業者にまとめて会える場として活用しやすい。

まとめ──「語れる資産」を棚卸しする

カントーのマンゴスチン園が示したのは、果実そのものより、木と作り手の背景に価格をつける産地戦略だ。供給過剰が進むほど、量で戦う産地は利益を削られ、物語を持つ産地が単価を守る構図が鮮明になる。

日本のドライフルーツ・ギフト・産地ブランディングに携わるなら、次の一手は二つある。一つは、自社が扱う産地や原料に「語れる資産」がないかを棚卸しすること。古木、世代をまたいだ栽培、土地固有の理由は、いずれも価格に乗せられる素材だ。もう一つは、QRやラベルを単なる表示で終わらせず、来歴と物語の入り口として設計し直すこと。仕入れ先を選ぶ段階から「この産地は何を語れるか」を評価軸に加えることが、量販品との違いを言葉で示す出発点になる。

参照元

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この記事を書いた人

京都で食品ブランドを運営しながら、これまで乾燥野菜や野菜パウダーなど、素材の魅力を活かした商品づくりに携わってきました。現在はベトナム在住2年目で、現地ではコーヒーの生産現場にも関わり、栽培から加工、味づくりまで一貫して学んでいます。毎日の暮らしの中で、安心して楽しめる食品を届けたいという思いから、生産背景や作り手の顔が見える商品を大切にしています。日本とベトナム、それぞれの食文化の魅力を活かしながら、日常にちょっとした豊かさを届けることを目指しています。

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