オーストラリア産とニュージーランド産の果実が、ベトナムの小売店頭で伸びている。2026年上半期の輸入額はオーストラリアが1億280万ドル(約154億円)で前年同期比55.7%増、ニュージーランドが7,804万ドル(約117億円)で同20.4%増。キウイやりんご、ぶどうが贈答品の棚から日常の買い物カゴへ移りつつある。ベトナムへ果実や加工品を供給する日本のバイヤー、輸入果実を扱う小売・流通の担当者にとって、この地殻変動は競合構図と品揃えの両面で読み解く価値がある。
数字の裏で起きているのは、消費者の買い方そのものの変化だ。祝い事やテト(旧正月)の贈答に限られていた輸入果実が、都市部では週次の食卓に入り始めた。単発の高額購入から反復購入へ移れば、必要な物量も棚割りも変わる。産地選びの前提が動いているとみてよい。
贈答用から常備品へ、消費者の買い方が動いた
大手スーパーのCo.opmart(コープマート)は、購買習慣の転換をこう説明する。輸入果実はかつて祝祭やテト、ギフトボックス向けの高級品として買われていたが、いまでは都市部の一部の消費者がりんご、キウイ、ぶどう、チェリー、オレンジなどを普段の買い物として手に取るようになった、という。もう一つのチェーンKingfoodmartも、輸入果実の消費が力強く伸びていると報告し、売れ筋にキウイ、りんご、ぶどう、オレンジ、梨を挙げる。
この動きは、可処分所得の伸びた都市中間層が「安全で見た目の整った果実」に日常的な対価を払い始めたことを映す。ホーチミンやハノイでは近代小売の店舗網が広がり、冷蔵輸送と鮮度管理が整ったことで、傷みやすい温帯果実を毎週の棚に置けるようになった。産地国からすれば、テト前の一括需要だけでなく通年の棚を取りにいく段階に入ったことになる。反復購入される品目は値段の見え方に敏感で、産地間の入れ替えも起こりやすい。上位を取った産地が翌年も安泰とは限らない。
上半期の輸入額と、ベトナム側の輸出をならべて見る
オーストラリア産のシェアは輸入果実全体の5.5%から6.51%へ上がった。伸び率だけでなく、市場での取り分そのものが厚くなっている点が要点だ。一方でベトナムは果実の売り手でもある。オーストラリア向けの青果輸出は2026年の最初の5カ月で6,069万ドル(約91億円)に達し、2022年の3,721万ドルから年平均15.06%で積み上がってきた。
| 項目 | 金額(米ドル) | 前年同期比・注記 |
|---|---|---|
| 豪州産果実のベトナム輸入(26年上期) | 1億280万ドル(約154億円) | +55.7%/シェア5.5→6.51% |
| NZ産果実のベトナム輸入(26年上期) | 7,804万ドル(約117億円) | +20.4% |
| ベトナム青果の豪州向け輸出(26年1〜5月) | 6,069万ドル(約91億円) | 年平均15.06%増(22年比) |
円換算は1米ドル≒150円で計算した概算。原文はいずれも米ドル建て。
端境期と品質、そして第4四半期の需要が押し上げる
豪州とNZは南半球にあり、北半球のベトナムとは収穫期がずれる。ベトナム国産や中国産が薄くなる時期に、りんご、ぶどう、桃、ネクタリン、チェリー、プラム、梨といった温帯果実を通年で供給できる。ベトナム果物野菜協会のグエン・バン・ムオイ副事務局長は、第4四半期からテト前にかけて、豪州・NZなどが品質の安定した見栄えの良い贈答向け果実の需要を取り込むと見通す。日常買いの定着と季節の贈答需要が二本立てで効く構図だ。
価格や自由貿易協定の効果を原文は明示していないため、ここで断定はしない。ただ、収穫期のずれと選果・輸送の品質管理が、店頭での「いつ行っても同じ見た目」を支えている点は、消費者の反復購入と噛み合う。豪州産のシェアが1年で約1ポイント上がった背景には、この供給の安定と、テト向け贈答という季節の山を両取りできる立ち位置がある。裏を返せば、端境期に穴を空けない産地だけが日常の棚に残る。単発の高単価商戦で稼ぐ発想では、この市場の主戦場からは外れていく。
日本の果実はこの棚に食い込めるか
ここが日本のバイヤーにとっての宿題になる。りんご、ぶどう、梨は日本が得意とする品目でありながら、生果のベトナム向け輸出は検疫協議が整わず足踏みしている領域が残る。実際、日本産ぶどうがベトナムに入れない状況を逆手に、現地では日本系品種を国内で栽培する動きすら出ている(ハティンの丘でシャインマスカットが実った事例)。豪州・NZは端境期の供給枠と検疫アクセスをすでに握り、日常の棚を先に押さえつつある。日本が同じ棚を狙うなら、糖度や食味の物語だけでなく、通年供給と検疫の実務で追いつく設計が要る。
もう一つの読み筋は、輸入果実市場そのものの厚みだ。ベトナムの果実輸入は上期で16億ドル規模に膨らんでおり、豪州・NZはその一角にすぎない(輸入果実16億ドルが開く商機の分析)。日本にとっては、生果で正面から競うより、加工・贈答フォーマットや日本ブランドの果実加工品で差をつける道が現実的だ。ドライフルーツ、ゼリー、果汁飲料、菓子といった常温流通できる加工品なら、検疫の壁を回避しつつ日本産の食味と安全性を訴求できる。テト前のギフト需要も、生果より賞味期限の長い加工詰め合わせのほうが在庫リスクを抑えやすい。加えて、ベトナムは豪州へ果実を売る側でもあり(トゲバンレイシ茶が豪州と3年契約した例)、産地間は一方通行ではなく相互に流れている。
調達・取引で押さえる実務ポイント
- 需要は「テト前の一括」と「通年の日常買い」の二層。棚割りと発注ロットを層ごとに分けて組む。
- 売れ筋はキウイ・りんご・ぶどう・オレンジ・梨。まず反復購入されるコモディティ帯を押さえ、チェリー等は季節の山で乗せる。
- 第4四半期からテト前は贈答フォーマットの需要が立つ。見栄え・等級・化粧箱の仕様を早めに固める。
- 日本産の生果は検疫アクセスが未整備の品目が残る。参入判断の前に対象品目の検疫協議の進捗を確認する。
- ベトナムは輸入国かつ輸出国。豪州・NZ産の動向は、ベトナム産の対日・対豪供給を読む材料にもなる。
- 加工品での参入は常温物流と賞味期限が武器。生果より在庫と鮮度のリスクを抑えつつ日本ブランドを立てられる。
まとめ:日常の棚が主戦場になった
豪州・NZ産果実の上期55.7%増・20.4%増は、単なる高級品ブームの延長ではなく、贈答から日常へと買い方が移った結果だ。日本の果実がこの流れに乗るには、食味の訴求に加えて、通年供給と検疫という実務の壁を一つずつ外す作業が先に来る。次の一手として、対象品目の検疫協議の現状を棚卸しし、生果で競う品目と加工・贈答で攻める品目を仕分けておきたい。