ラムドン省カットティエン2社(Xã Cát Tiên 2)で、1993年生まれの女性2人が営むカカオ製造会社Bản Ca caoが、韓国への輸出に続いて日本向けの輸出手続きに入った。板チョコやピュアカカオパウダーを自社で仕上げるOCOP3つ星の小規模メーカーで、週2.5トンの生カカオを近隣15戸から集める。産地を自分たちで押さえながら加工まで一貫させる座組みは、日本の食品バイヤーが「原料の出どころ」から作り込みたいときの受け皿になる。誰に向けた話かといえば、単価より物語とトレーサビリティで棚を作りたい輸入業者・製菓調達の担当者だ。
4年の都市勤めを畳んだ法学部卒2人が、1年の試作でチョコまで自社化した
会社を切り盛りするのはBế Thị Thu HuyềnとLương Thị Duyênの2人。ともに法学部を出てホーチミン市で4年働いた後、2020年に郷里のラムドンへ戻った。Huyềnが事業開発と販路開拓を、Duyênが製造技術を受け持つという分担で、1年あまりの試作を経てBản Ca cao(会社名の直訳は「カカオの村」)を立ち上げた。2022年にはラムドンのスタートアップ大会で1位を取り、Huyền個人も2021〜2023年に地域の優秀青年として表彰されている。
この事例で目を引くのは、原料を右から左に流すのではなく、生豆の発酵・乾燥から板チョコの成形までを自分たちの工程に取り込んだ点だ。ラインナップは板チョコ、無糖のピュアカカオパウダー、ミルクカカオパウダー、ピーナッツバター入りカカオ、そしてカカオのリキュールまで広がる。パウダーやリキュールのような派生品を持つことは、規格外の豆や端境期の在庫を捨てずに現金化する設計でもある。都市のオフィス職を辞めて産地に入った担い手が加工の主導権まで握る流れは、法学部卒の女性が薬草仕立ての巻貝を韓国へ売るハティン産巻貝の輸出事例とも重なり、ベトナムの若い世代が一次産品を「作って売る」側へ回り始めていることを示す。
15戸・6ヘクタールから週2.5トン、生カカオは1kg1万VND超で買い取る
調達側が確認しておきたい足元の数字を並べる。原料の供給は近隣15戸・合わせて6ヘクタールの畑が支え、収穫最盛期には週あたり2.5トンの生カカオが集まる。買い取り価格は生の果実(ポッド)で1kgあたり1万VND超。1円≒175VNDの概算で約57円/kgにあたる(為替は目安)。この価格を提示して農家を囲い込み、発酵から先を自社で握ることで、豆の状態と風味を揃えている。
| 項目 | 数値 | 備考 |
|---|---|---|
| 契約農家 | 15戸 | ラムドン省カットティエン周辺 |
| 栽培面積 | 6ヘクタール | 15戸合計 |
| 集荷量 | 週2.5トン | 収穫最盛期の生カカオ |
| 買取価格 | 1kg1万VND超 | 生の果実・約57円/kg相当 |
| 認証 | OCOP3つ星 | 省レベル評価 |
為替は1円≒175VND、1USD≒148円で計算した概算。VND建て価格の円換算はレート変動で上下する。
週2.5トンという規模は、大手の白身魚やエビのように年間数千トンで語る世界とは桁が違う。裏を返せば、少量でも風味を揃えた単一産地ロットを、農家名や区画まで遡って説明できる強みがある。同じく川上を握りにいく動きとしては、ダクラクでカカオ苗1万7千本を配って産地ごと押さえる製菓調達型のカカオ産地形成があり、南部主体だったベトナムのカカオがラムドンやダクラクの高原へと担い手を広げていることが読み取れる。
ラムドンはMarouが単一産地バーに選んだ土地、日本の棚には既に接点がある
ラムドンのカカオは無名の新顔ではない。ホーチミン発のビーントゥバー大手Maison Marouは、ベンチェやティエンザン、ドンナイと並べてラムドン単一産地の板チョコを出しており、この省の豆は花や果実を思わせる複雑な風味で評価されてきた。ベトナムのカカオは世界生産の0.1%程度に過ぎないが、国際的な品評会で上位に入った実績があり、量ではなく質で選ばれる土俵に立っている。
ビーントゥバー市場は世界で年8%近い成長が見込まれ、産地の名前をそのまま商品名にする単一産地の語り口が定着しつつある。Marouの板チョコは日本でも百貨店やセレクトショップ、土産物として流通し、ベトナム産チョコという括りに一定の認知がある。つまりBản Ca caoが日本向け手続きを進める背景には、産地名で売れる下地が既に日本の棚側にできているという事情がある。ここが小規模メーカーにとって追い風になる。
日本のバイヤーが小規模OCOP産地を扱うときに詰める3つの実務
日本市場との接点を具体的に詰めておく。Bản Ca caoのような週2.5トン級のOCOP3つ星産地を日本の輸入業者・製菓メーカーが扱う場合、まず問われるのは供給の安定性だ。最盛期の週2.5トンは通年の平均ではなく、端境期の落ち込みや不作年の振れをどう埋めるかを、複数産地の組み合わせで設計する必要がある。次に加工品の輸入規格――板チョコやパウダーといった最終製品を輸入するのか、豆や半製品で入れて日本側で仕上げるのかで、必要な衛生証明や表示が変わる。日本のOCOP産地選定は、コープマートが地方OCOP54品を星の数で棚に採る星の数で産地を選ぶ流通の物差しと同じで、3つ星という格付けは入口の目安にはなるが、実際の風味と品質は自分でロットを取り寄せて確かめるしかない。
もう一つ、この会社が板チョコからリキュールまで派生品を揃えている点は、日本側の売り場設計と噛み合う。単一産地の板チョコをギフトや催事で打ち出しつつ、パウダーを製菓・飲料の業務用原料として並行で回せば、農家から買った豆を無駄なく捌ける。日本のバイヤーにとっては、完成品の仕入れと業務用原料の調達を1つの産地でまとめられる利点になる。
週2.5トンの高原カカオを、日本の棚でどう扱うか
- まず最盛期の週2.5トンと通年供給量の差を数字で押さえ、端境期は他産地と組み合わせる前提で数量を組む。
- OCOP3つ星は入口の目安。板チョコ・パウダーのロットを実際に取り寄せ、風味と品質を自分で確かめてから採否を決める。
- 完成品(板チョコ・リキュール)を輸入するか、豆・半製品で入れて国内加工するかを先に決め、必要な衛生証明・表示を洗い出す。
- Bế Thị Thu HuyềnとLương Thị Duyênの2人体制は販路担当と技術担当が明確なので、商談窓口と品質仕様のやり取りを分けて進めると早い。
- 15戸・6ヘクタールという供給源の狭さは、農家名・区画まで遡れるトレーサビリティの物語として売り場で使える。
ラムドンの高原で法律職を捨てた2人が、生カカオを1kg1万VND超で買い、板チョコからリキュールまで自社で仕上げてOCOP3つ星を取り、韓国の次に日本の扉を叩いている。週2.5トンという小ささは弱みであり、同時に産地を丸ごと説明できる武器でもある。日本側で動くなら、次の一手は完成品と業務用原料のどちらで組むかを決め、Huyền側の販路窓口にサンプルロットを請求して、最盛期以外の供給計画を一緒に描くことだ。産地名で売れる下地は、もう日本の棚にできている。