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木製筏を捨てHDPE生簀へ、カインホアが挑む台風に強い海面養殖

ベトナム中南部のカインホア省が2026年7月8日、木製やイカダ・発泡ブイでできた海面養殖の生簀を、HDPE(高密度ポリエチレン)製の新素材生簀へ切り替える漁民を資金面で支える条例を可決しました。省人民評議会(第8期・第2回会議)が承認したもので、総額はおよそ592億9千万ドン(1万ドン≒60円換算で約3.6億円)。台風で壊れやすい旧来の生簀を4年かけて一掃し、輸出基準にも耐える養殖基盤へ作り替える計画です。カインホアはマグロやハタ、ロブスターの主要産地で、日本の水産バイヤーにとっては供給の安定性が直に効いてくる動きです。ベトナムは海面養殖に初の国家規格を導入し保険と融資の壁を崩そうとしているところで、今回の省レベルの補助はその流れを現場の生簀に落とし込む一手と言えます。

目次

省が可決した補助条例の中身

条例が対象にするのは、木の枠・発泡スチロールのブイ・使い古しのプラスチックドラム缶といった伝統的な素材でできた生簀を、HDPEなど新素材へ転換する個人と組織(協同組合・生産グループ)です。適用期間は2026年から2029年までの4年間で、2029年12月31日までに省内の生簀を安全な新素材へ全面転換することをゴールに据えています。

補助は2段階に分かれます。第1期(2026〜2027年)にはおよそ456億9千万ドン(約2.7億円)を割り当て、約150世帯の転換を支援。第2期(2028〜2029年)には136億ドン(約8千万円)で約80世帯を対象とします。前半に予算を厚く積み、早期の切り替えを促す設計です。

木製生簀の限界と、2017年の教訓

この補助が組まれた背景には、旧来の生簀が台風に弱いという構造的な問題があります。省の説明では、いまも海面養殖の生簀の大半が木で作られており、大波や強風への耐性が乏しいと指摘されています。

実際、2017年の台風12号(ダムレイ)と2021年の暴風雨は、カインホアの養殖に数百億ドン規模の損害を出しました。竹・木・鉄で組んだ小型の生簀は一晩で流され、養殖魚もろとも消える。その痛手が、素材そのものを変える発想の出発点になっています。HDPE生簀は軽量で剛性が高く、過酷な海洋環境でも壊れにくい。ヴァンフォン湾の実証養殖場ではダムレイの直撃に耐えた実績があり、素材転換の効果は現場で裏づけられています。

補助率は沖合ほど手厚い

補助率は養殖する海域の沖合距離で段階をつけているのが特徴です。沖へ出るほど生簀のコストとリスクが上がるため、そこに厚めの補助を寄せて沖合展開を後押しする狙いが読み取れます。

期間 海域 補助率 1者あたり上限
第1期(2026-27) 沿岸3海里以内 費用の50% 2億8,200万ドン(約170万円)
第1期(2026-27) 3〜6海里・混在域 費用の70% 3億9,500万ドン(約237万円)
第2期(2028-29) 6海里までの全域 費用の30% 1億7,000万ドン(約100万円)

初めて新素材生簀を導入する個人・組織が対象で、既に高度化を済ませた大手ではなく、これから切り替える中小規模の漁民に照準を合わせています。

現場と行政が積み上げてきた下地

今回の条例は突然出てきたものではなく、カインホアがここ数年進めてきた海面養殖近代化の延長線上にあります。現地報道や省の資料から、動きの下地が見えてきます。

  • ヴァンフォン湾のハイテク海面養殖センターの実証生簀は、ノルウェー技術のHDPE生簀で台風ダムレイを乗り切った。壊れない生簀は「あり得る」と現場が確認済み
  • 省内でHDPE生簀のノルウェー式養殖を手がける事業者はまだ3者ほどにとどまり、普及はこれから。補助はこの空白を埋める役割を担う
  • カインホア省はハイテク海面養殖の拡大に540億ドン超を投じる計画も掲げており、生簀の素材転換はその全体戦略の一部に位置づけられる

南部の主要漁業地カムランでは、養殖と観光を組み合わせて年収10億ドンに届く「億万農家クラブ」も生まれており、生簀の近代化が所得の底上げに直結する土壌はできつつあります。

日本の調達関係者が読むべき3つの論点

この補助は単なる地方の設備更新策ではなく、対日供給の質と安定に関わる変化です。日本のバイヤーや水産関係者にとっての意味は3点あります。

第一に、供給の安定性が上がることです。台風で生簀ごと養殖魚が消える構造は、これまでベトナム産のハタやロブスターを扱う際の「読めないリスク」でした。HDPE生簀への転換は、暴風で年間契約が飛ぶ確率を下げ、通年での引き合いに応えやすい産地へと体質を変えます。仕入れの計画性という点で、素材転換は地味だが本質的な前進です。

第二に、輸出基準への適合が進むことです。省は今回の転換の目的に、環境負荷の低減と国際輸出基準への接近を明言しています。発泡ブイやドラム缶が漂う従来の海域より、HDPEで統一された養殖場のほうが、トレーサビリティや環境認証の取得で有利に働きます。海面養殖の国家規格と歩調が合えば、日本向けの認証取得や書類対応もしやすくなるはずです。

第三に、調達先の選択肢が増えることです。近代化された生簀で育つ魚は、サイズや品質のばらつきが小さくなる傾向があります。カインホアが台風に強い産地へ育てば、既存のカマウ・バクリュウ系のエビ調達に加えて、中南部の海面養殖魚という新しい供給軸を日本側が持てる。産地分散はそのまま調達リスクの分散になります。

条例の基本情報

項目 内容
決定機関 カインホア省人民評議会(第8期・第2回会議)
可決日 2026年7月8日
対象素材 木製筏・発泡ブイ・旧プラドラム → HDPE等の新素材
総額 約592億9千万ドン(約3.6億円)
第1期(2026-27) 約456億9千万ドン/約150世帯
第2期(2028-29) 136億ドン/約80世帯
完了目標 2029年12月31日

まとめ——「台風に消えない産地」を追え

カインホアの補助条例は、木の生簀を捨ててHDPEへ移る4年計画に、約3.6億円という具体的な予算をつけたものです。金額そのものは巨額ではありませんが、沖合ほど手厚い補助率と2029年の全面転換という締め切りが、産地の性格を「台風で崩れる養殖」から「暴風に耐える養殖」へと切り替える意思を示しています。ベトナム産水産の対日・対中輸出が構造的に伸びている局面で、供給の安定と輸出基準への適合は、日本の調達側が最も待っていた変化と重なります。次に確かめるべきは、第1期150世帯の転換が計画通り進むか、そしてHDPE化した生簀の魚が日本市場にどのタイミングで乗ってくるかです。カインホア産のハタやロブスターを扱う商流にいるなら、今年後半の転換実績を追う価値があります。

参照元

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この記事を書いた人

京都で食品ブランドを運営しながら、これまで乾燥野菜や野菜パウダーなど、素材の魅力を活かした商品づくりに携わってきました。現在はベトナム在住2年目で、現地ではコーヒーの生産現場にも関わり、栽培から加工、味づくりまで一貫して学んでいます。毎日の暮らしの中で、安心して楽しめる食品を届けたいという思いから、生産背景や作り手の顔が見える商品を大切にしています。日本とベトナム、それぞれの食文化の魅力を活かしながら、日常にちょっとした豊かさを届けることを目指しています。

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