ベトナム北部ハイフォン市のカットハイ(Cát Hải)島で作られる伝統魚醤(ヌクマム)2品が、地場産品格付け制度「OCOP」の最高位である5つ星を新たに取得した。これでハイフォン市の5つ星製品は10品となり、市全体のOCOP登録は2026年6月末時点で649品に達した。5つ星は原料の産地・製造工程・製品の物語、そして輸出力までを国家レベルで審査する認証で、単なる名誉ではない。海外バイヤーにとっては「どの生産者と話を始めるか」を絞り込むスクリーニングの入口になる。日本の食品輸入業者や卸にとっても、無数にあるベトナムの中小加工業者から信頼できる調達先を見つける手がかりとして無視できない動きだ。
カットハイの魚醤2品が5つ星に、市内最高位は10品へ
今回5つ星を取得したのは、カットハイ水産加工サービス株式会社の「カットハイ魚醤(イトヨリ原料のコット)」と、クアンハイ有限会社の「伝統魚醤(サワラ原料のチャット・カー・トゥ)」の2品だ。いずれもハイフォン市カットハイ島を拠点とする生産者で、島の海と魚を原料にした一次加工品である。この2品の追加により、ハイフォン市の5つ星OCOP製品は合計10品となった。
OCOP(One Commune One Product=一村一品)は、日本の「一村一品運動」を下敷きにベトナムが2018年から全国展開している地場産品の認証制度だ。3つ星・4つ星は省・市レベルで評価されるが、5つ星は中央の評価評議会が国家レベルで審査する。今回のように魚醤という伝統食品が5つ星に届く例はまだ少なく、それだけカットハイ産魚醤の完成度が公的に認められた形になる。
なぜ今か──ハイフォンが「量から質」へ舵を切っている
ハイフォン市のOCOPは、この数年で数と質の両面を急拡大させてきた。市の登録製品は2026年6月末で649品にのぼり、内訳は5つ星が10品、4つ星が171品、3つ星が468品。対象となる郷・町は114のうち107で、市域のほぼ全域がOCOPの網に入っている。市は2030年までにOCOP製品(3つ星以上)を1,000品以上、うち5つ星30品以上・4つ星300品以上へ引き上げる目標を掲げている。
この「量から質へ」の流れの中で、魚醤のような伝統加工品を5つ星の看板商品に育てる動きは象徴的だ。カットハイ島の魚醤づくりは古く、地元の小規模生産者が1959年に協同組合として集約された歴史を持つ。原料はイトヨリ(cá nhâm)などの近海魚で、天日にさらしながら1〜2年かけて発酵・熟成させる伝統製法が特徴とされる。こうした「土地に根ざした物語」を持つことが、5つ星審査で重視される要素の一つになっている。
5つ星は何を審査するのか──調達先スクリーニングとして読む
5つ星OCOPが4つ星以下と決定的に違うのは、審査の重点が「製品の良さ」だけでなく「輸出できる体制かどうか」に置かれる点だ。ベトナム農業関連当局が示す評価軸では、品質・意匠に加えて、原材料の産地が明確であること、製造プロセスが標準化されていること、独自の製品ストーリーがあること、そして輸出実績または明確な輸出潜在力を持つことが問われる。
| 審査の重点 | 3〜4つ星 | 5つ星(国家レベル) |
|---|---|---|
| 評価主体 | 省・市の評議会 | 中央の国家評価評議会 |
| 原料の産地明示 | 推奨 | 必須に近い扱い |
| 製造工程の標準化 | 一定水準 | 厳格に審査 |
| 製品ストーリー | 加点要素 | 重視 |
| 輸出力 | 問われにくい | 輸出実績・潜在力を重視 |
つまりバイヤー側から見れば、5つ星は「原料の出所が追える」「工程がぶれない」「輸出対応を意識している」生産者を、ベトナム政府があらかじめ選別してくれた一次リストとして機能する。ハイフォンの魚醤2品が5つ星に入ったということは、少なくともこの4項目を国家審査でクリアしたという意味になる。
現地・業界の受け止め
現地の産地関係者の間では、5つ星取得を「輸出の看板」として前向きに受け止める声が中心だ。ある地元の加工事業者は、5つ星は国内スーパーの棚取りだけでなく海外商談での信用状になる、という趣旨の期待を語っている。一方で、伝統製法を守る小規模生産者からは、天日発酵に1〜2年かける手法は量産と両立しづらく、需要が伸びても供給を急には増やせないという慎重な見方も出ている。
流通側では、カットハイ産魚醤はすでにCo.opマートやWinMartなど国内大手スーパーの棚に並んでおり、5つ星取得を追い風に海外展開を狙う段階に来ているとされる。ベトナム全体でもOCOP5つ星製品は輸出の顔として位置づけられつつあり、地域産品を国家ブランドへ引き上げる政策の柱になっている。
日本の輸入業者・卸への示唆
日本市場でベトナム産魚醤(ヌクマム)を扱う、あるいは検討する立場からは、今回の5つ星取得は具体的な調達アクションに落とし込める。第一に、OCOP5つ星は「原料産地・工程・輸出力が国家審査を通った生産者」を絞り込むフィルターとして使える。数百社ある魚醤メーカーの中から商談相手を選ぶとき、まず5つ星・4つ星の認証保有を一次条件に置けば、産地不明・トレーサビリティ不十分な相手を早い段階で外せる。
第二に、魚醤のような発酵調味料は日本輸入時にヒスタミン等の食品衛生基準や表示規制が絡む。5つ星の「工程標準化」は必要条件ではあっても十分条件ではないため、日本側の基準に合わせた検査データや原料魚種の確認は別途取り付ける前提で動くのが現実的だ。ベトナム産の一次加工品が日本の衛生基準をクリアして初出荷に至る事例は、卵など他品目でも積み上がりつつある。衛生基準の厳しい日本へ初出荷したベトナム産ゆで卵の事例は、認証・検査・出荷までの流れを読むうえで参考になる。
第三に、魚醤は「産地の物語」で差別化しやすい商品カテゴリーだ。カットハイ島という具体的な産地名と伝統製法は、日本の小売やギフト市場で訴求材料になる。ベトナムの生産者が原料を素売りせず加工品として物語を付けて売る流れは各地で進んでおり、ダナンの作り手が素材を「物語」で売る動きとも通じる。
業界・市場への波及
OCOP5つ星が実質的な「調達先スクリーニング」として機能し始めると、影響は魚醤にとどまらない。ベトナムは農産品でも産地追跡やコード制度の整備を急いでおり、認証と物語をセットで輸出の入口にする方向は共通している。全国規模のトレーサビリティ制度のような仕組みと5つ星認証が組み合わされば、バイヤーが産地・工程を確認するコストは下がっていく。
結果として、ベトナムの中小加工業者は「認証を取って選ばれる側に回る」競争に入る。日本のバイヤーにとっては選択肢が増える一方、認証の意味を正しく読み分ける目利きが求められる。5つ星だから安心と丸呑みするのではなく、原料魚種・熟成期間・工程・検査体制まで踏み込んで確認する姿勢が、結局は失敗しない調達につながる。
実用情報・チェックの手順
ベトナム産魚醤の調達を検討する際に、今回のニュースから使える実務的な確認手順を挙げる。
- 相手先がOCOP認証(何つ星か)を保有しているかを一次条件で確認する
- 原料の魚種と産地(カットハイ等の具体的な島・湾名)を書面で取り付ける
- 発酵・熟成期間と製造工程を確認し、量産時に品質がぶれないかを見る
- 日本の食品衛生法に沿った検査データ(ヒスタミン等)の提出可否を早めに詰める
- 国内スーパー流通実績など、輸出前の販売実績を裏取り材料にする
まとめ──次の一手
ハイフォンの魚醤2品が5つ星に届いたことは、ベトナムのOCOPが「表彰制度」から「輸出向けの調達先スクリーニング」へと役割を広げつつある動きの一例だ。日本のバイヤーがまず取れる次の一手は、既存の取引候補や気になる生産者について、OCOP認証の有無と星の数を確認し、5つ星・4つ星を一次リストに据えることだ。そのうえで原料魚種・熟成期間・日本向け検査体制の3点を書面で詰めれば、産地不明の相手を避けつつ、物語で差別化できる魚醤の調達先を効率よく絞り込める。認証を入口に、確認は自分の目で。これがベトナム産加工食品を扱ううえで再現性のある進め方になる。