ハノイ市ソクソン社タイントゥイ村の砂州で、9月もジャスミンの収穫が続いている。摘むのは開く前のつぼみだけだ。夜に花が開いて香りを放つと、高級茶の着香には使えなくなる。ベトナム農業環境新聞(Nông nghiệp và Môi trường)が2026年9月24日に報じた。
集中的に栽培されている面積は約11ha、参加しているのは150戸を超える。買取価格はキロ5万5,000〜5万8,000ドンで安定しており、摘んだつぼみは全量をフーロー・ジャスミン協会(Hiệp hội Hoa nhài Phù Lỗ)が畑まで来て買い取り、高級ジャスミン茶の着香工程に回す。
フレーバーティーや香料茶のOEMを考える日本側にとって、この記事の値打ちは茶の値段ではなく、香りをつける花の単価と産地の大きさが数字で見える点にある。着香済みの茶をキロいくらで買うかの、ひとつ川上だ。
摘むのはつぼみだけ、開いた花は捨てる
11haに150戸超、全量を買うのは協会
報道によると、タイントゥイ村は1サオ(360平方メートル)あたり年3〜4タ(1タ=100kg、300〜400kg)の収量で回る。1haで約10トン、売上は最大で年5億8,000万ドン。稲作より収益の高い主力作物だ。
栽培自体は手がかからない。年1〜2回の除草と2〜3回の施肥で済み、切り戻した古枝が挿し木の苗になるので苗代も要らない。気をつけるのは雨季のつぼみの腐敗病だという。
「開いた花は香りが飛ぶ」現場の言葉
記事に登場するのはグエン・ドゥック・ゴックさん(42歳)。腰の籠につぼみを落としながら、「開いてしまった花は香りがすべて飛び、高級茶の着香工程に使える品質ではなくなる」と語る。一晩置いて花が開けば、その日の労力は消える。
ゴックさんの家は1サオを作付けし、月におよそ60kgの生つぼみを摘んで約350万ドンを手にする。収穫期は半年続く。
キロ5.5〜5.8万ドンは円でいくらになるのか
為替レートを決めてから割る
ベトナムの金額は桁を読み違えやすい。triệu は100万、tỷ は10億。今回は đồng と triệu đồng しか出てこない。ここでは2026年9月25日時点の1円=163.60ドン(exchangerate-api.com)で換算する。
| 項目 | 原文表記 | 円換算(1円=163.60ドン) |
|---|---|---|
| 生つぼみの買取価格 | 55.000 – 58.000 đồng/kg | 約336〜355円/kg |
| 1haあたり年間収量 | khoảng 10 tấn | 約10トン |
| 1haあたり年間売上(上限) | 580 triệu đồng/năm | 約355万円 |
| ゴックさん宅の月収(1サオ) | khoảng 3,5 triệu đồng | 約2.1万円 |
1サオの採算を分解すると上限値が見える
記事の各値は内側でつながる。ゴックさんの月60kgを半年分積むと年360kgで、1サオ3〜4タという村の平均に収まる。360kgを5万8,000ドンで売ると約2,088万ドン、収穫する6か月で割れば1か月約348万ドンとなり、記事の「約350万ドン」と合う。
裏を返せば、この手取りは買取レンジの上限で計算した数字に近い。1ha換算の年5億8,000万ドンも10トン×5万8,000ドンの上限値で、下限の5万5,000ドンなら5億5,000万ドン(約336万円)だ。580は天井の数字だと分かったうえで引用したい。
この単価は畑先渡しで、輸出価格ではない
外せない前提がある。キロ5万5,000〜5万8,000ドンは協会が畑で農家から買う値で、輸出価格でも日本着の値でもない。着香や乾燥の加工費、物流費、協会の取り分はこの上に乗る。目安に使うなら原価の床として置く数字だ。
2021年は6万ドン、2024年は5.4万ドン。価格は動いたのか
同じソクソンでも数字がそろわない
同紙はソクソン一帯を過去にも報じている。2021年7月の記事はフーローの栽培地を700ha超とし、当時の買取価格を6万ドン/kgと書いた。2024年5月の記事はソクソン内のドンスアン社を扱い、約40ha、5万4,000ドン/kgとしている。
| 報道時点 | 地域 | 面積 | 買取価格(原文) | 同一レートでの円換算 |
|---|---|---|---|---|
| 2021年7月 | フーロー | 700ha超 | 60.000 đồng/kg | 約367円/kg |
| 2024年5月 | ドンスアン社 | 約40ha | 54.000 đồng/kg | 約330円/kg |
| 2026年9月 | タイントゥイ村 | 11ha | 55.000 – 58.000 đồng/kg | 約336〜355円/kg |
円換算は3本とも2026年9月25日の同一レートで割った値で、当時の為替ではない。面積の欄は同じ地域が縮んだ推移ではなく、社・村と範囲の違う3つの数字が並んでいるだけだ。ドン建ての名目価格は5年を挟んで横ばいから微減で、国内の物価上昇を考えると農家の実質的な手取りは目減りする側に傾く。
産地全体で年何トン採れるかは、この数字からは出ない
3本の数字は足し合わせても供給量にならない。2021年の記事はフーロー700haの出荷を日量平均10トンと書くが、今回の「収穫は半年」を当てて掛けると年1,800トン、1haあたり2.6トンで、今回の「約10トン」と合わない。1サオの収量も2024年のドンスアン社は8タ超、タイントゥイ村は3〜4タで倍以上ひらく。対象地域も取材時点も違う数字を掛け合わせて産地全体の供給量は出せない。調達量は協会や着香工場に昨シーズン何トン集まったかを聞くほうが早い。
日本の茶・飲料メーカーは、この花を直接買えるのか
手に入るのは花ではなく着香済みの茶
つぼみは開けば価値を失い、畑から着香工場までその日のうちに運べる距離でしか成立しない。ノイバイ国際空港が近くても鮮度の制約は変わらず、生花のまま日本へ運ぶ前提は置きにくい。発注できるのは着香を終えた茶か、精油などの加工品だ。
2024年の記事でドンスアン社の人民委員会委員長グエン・ヴァン・チュン氏は、花を代理店やキムアイン茶工場などに売るほか、ジャスミン合作社が香水・化粧品・薬用原料向けに独占供給契約を結んだと説明する。同記事は2019年の台湾への輸出にも触れるが、生花か加工品かまでは書かれていない。
自社の配合比を当てはめれば原価が出る
それでも花の単価が見えた意味は小さくない。着香に使う花と茶葉の比率は工場や等級で変わるが、自社の仕様なら分かっている。そこにキロ約336〜355円を当てれば、仕入れ値のどれだけが香りの原料代かを分解でき、着香を重ねる上位グレードが高い理由も数字で説明がつく。
産地が加工まで取りに行く動きはコーヒーでも起きており、カウダットの有機アラビカが深加工へ進んだ事例でも、日本の焙煎所が何を仕入れるかという問いが出る。
4〜6月のロットは前の年に決まる
収穫は半年続くが、花が集中し品質も最も良いのは4〜6月だ。期の端のロットとは香りの出方が変わるため、年間で同じ香りを求めるならロット単位の確認がいる。ハイフォンの農協が端境期に蓮を咲かせて単価を旬の二倍にした例も、花の値段が咲かせる時期で動くことを示す。ピーク月のロットを押さえたいなら、前年のうちに話を通しておきたい。
茶葉はハザン、花はハノイ近郊。どちらが止まっても作れない
2021年に畑で起きたこと
ジャスミン茶は北部山間の茶葉とハノイ近郊の花をつないで形になる。2021年7月、フーローに本社を置くチャー・ホアンロン社のグエン・ドゥック・ライ社長は、ハザンの工場から原料茶をハノイへ運べず輸出コンテナも出せないと同紙に訴えた。同社は700haの花を買い支える10社の1社で、茶葉が届かなければ花を買えない。買い手がつかなければ、つぼみは翌朝に価値を失う。
供給の安定性を花の産地だけで測ると、この構造を見落とす。聞くべきは茶葉の調達地と、輸送が止まったときの代替手段だ。
花殻にまで買い手がついている
香りを抜き切った花殻は霊園が買い取り、捨てる部分がない。部位ごとに規格化して売る発想はダラットのアーティチョークが部位別に買い取られている事例にも共通する。着香後の残渣の処理費は見積もりに乗ることがあり、産地側の出口は原価の話として聞く価値がある。
見積もりを取る前に聞いておきたいこと
相手に確認する6項目
| 確認すること | 今回の記事で分かる範囲 |
|---|---|
| 花の買い手は誰か | タイントゥイ村はフーロー・ジャスミン協会が畑で全量買取 |
| 花の単価 | 55.000 – 58.000 đồng/kg(約336〜355円)。畑先渡しの値 |
| 着香に使う時期 | 収穫は半年、品質のピークは4〜6月 |
| 茶葉の調達地 | 2021年の報道ではハザンから運ばれる例がある |
| 認証の有無 | 今回の記事では有機やGAPへの言及は確認できない |
| 行政上の地名 | 2021年は「ソクソン県フーロー社」、2024年は「ソクソン県ドンスアン社」、2026年は「ハノイ市ソクソン社」 |
最後の行は書類仕事に効く。同じ紙面でも呼称が変わっており、契約書に古い地名を引き写すと差し戻される。
最初の一歩は香りの比較から
いま動くなら、取引のある茶の商社に「ソクソン産の花で着香したジャスミン茶のサンプルはあるか」と一行で聞けばいい。花の原価がキロ約336〜355円という目安を持ってサンプルを並べれば、着香回数とグレードの差が見積もりのどこに出ているかを、相手と同じ土俵で話せる。