ホーチミン市の南のはずれ、雨季になると水が引かず米がまともに実らなかった酸性硫酸塩土(現地でいう「フェン」=アルミニウムや硫黄分で酸性化した土壌)の田がある。そこをグアバ園に切り替えたグエン・ゴック・ビン氏の農園が、月に約1.5トンを安定出荷し、VietGAP認証とOCOP3つ星を取るまでになった。米が育たない土地を認証付きの果樹産地に変えた事例は、ベトナム産グアバをどう仕入れるか考える日本のバイヤーにとって、産地の「基礎体力」を測る材料になる。
米が実らない土を、認証グアバ園に切り替えた
舞台はホーチミン市クイドック地区(旧ビンチャン県)。ビン氏の家族が持つ9,000平方メートル余りの土地は、一年を通してフェン(酸性硫酸塩)が抜けず、稲作の収量が上がらなかった。そこに植えたのが「ゴックビンの女王グアバ(ổi nữ hoàng)」と梨グアバ(ổi lê)で、いまでは市が選ぶ2023年の優秀農産物にも名を連ねる。
売り物は実の質だ。牛糞と自然発酵させた草だけを肥料に使い、化学農薬ではなく生物的防除で虫を抑える。実は大ぶりで表皮がなめらか、種の入る芯が小さく、果肉は厚くて歯ごたえがあり甘い。栽培工程そのものはVietGAP(ベトナム版の適正農業規範)の基準に合わせ、そこから生まれた女王グアバの商品ラインがOCOP3つ星の認定を受けた。VietGAPが園地・工程への認証、OCOPが商品への評価という関係だ。
固定価格という、生産者側の需給コントロール
ビン氏の農園は市場相場の上下に価格を合わせない。女王グアバを1kgあたり25,000ドン、梨グアバを20,000ドンの固定価格で通す。豊作でグアバの相場が崩れても値を下げず、逆に品薄でも吊り上げない。この方針は、実の質と認証で買い手をつかんでいる産地だからできることだ。相場に振り回される露地物の農産物とは、値づけの発想が違う。
収益の規模は、地元紙が伝えた数字で見るのが分かりやすい。下の表は原文の記載をそのまま並べたもので、月商や月の利益は出荷が乗る最盛期の水準、年間は平均としての額と読むのが妥当だ(月・年の数字は単純な掛け算では揃わないため、目安として扱う)。
| 項目 | 数値(原文) | 円換算の目安 |
|---|---|---|
| 女王グアバ 価格 | 25,000ドン/kg | 約140円/kg |
| 梨グアバ 価格 | 20,000ドン/kg | 約110円/kg |
| 月間出荷量 | 約1.5トン | — |
| 月商(最盛期) | 約45百万ドン | 約26万円 |
| 月の純利益(最盛期) | 約35百万ドン | 約20万円 |
| 年間の平均収入 | 300百万ドン超 | 約170万円超 |
| 作付面積 | 9,000㎡超 | — |
円換算は1円=約175VND(2026年7月時点の概算)で計算。原文の金額はベトナム・ドン建て。
痩せた田を果樹に切り替える農家が、各地で増えている
収量の上がらない田畑を果樹や加工に切り替えて稼ぐ動きは、ビン氏に限らない。ホーチミン近郊のように水はけの悪い酸性土を抱える産地では、稲を続けるより付加価値の高い作物に振るほうが割に合う場面が増えている。実際、酸性硫酸塩土の稲作を数字で管理して黒字に変えた事例(経験頼みをやめて、アンザン酸性土の稲作が黒字へ変わった理由)もあり、同じ「フェンとの付き合い方」でも、稲を磨く道と果樹に切り替える道の両方が走っている。
グアバそのものでも、中部高原ダクラクでは2ヘクタールの農園が生食に加えて葉茶や果実酒まで自前で加工し、年商36億ドンを叩き出している(痩せ砂地のグアバが年商36億ドン、ダクラク農家の設計図)。規模も商流も違う両者だが、比べる軸を「認証の有無」「加工向け供給の厚み」「垂直統合の度合い」に絞ると差がはっきりする。ダクラクは加工まで自前で抱える垂直統合で相場変動を吸収し、ビン氏の農園は生食一本のまま認証と固定価格で安定を作る。痩せ地からの出発点は同じで、そこから先の設計が分かれている。
認証と近郊立地が、供給の読みやすさを生む
日本のバイヤーがこの農園から読み取れるのは、グアバという品目そのものより、ベトナム産グアバの「供給の質」が上がってきたという事実だ。VietGAPは生産工程の記録と農薬・衛生管理の基準で、輸出の商談で最初に問われる部分を押さえている。OCOP3つ星は地方自治体レベルの品質認定で、トレーサビリティと出荷の安定を担保する。ホーチミン市中心部と港・空港に近い立地は、収穫から集荷までのリードタイムが短く、鮮度と物量の読みが立てやすい。
小規模でも認証を取り、固定価格で回す産地が増えることは、買い手にとって「小ロットでも品質のブレが小さい供給元」の選択肢が広がることを意味する。露地の相場物を大量に買い付けるやり方とは別に、認証産地から必要量だけ引く調達が組みやすくなる。減農薬・栽培記録つきの産地を対日輸出につなげる動き(農家が作物の医者になる日、クアンニン減農薬米が拓く対日調達)とも、方向は重なる。
日本の調達では「生鮮」と「加工品」を分けて見る
ここで冷静に押さえておきたいのが、日本への輸入のルールだ。日本が生果実の輸入を解禁したベトナム産フルーツは、白肉・赤肉のドラゴンフルーツ、カットチュー種のマンゴー、ライチ、龍眼といった品目にとどまる。グアバはミバエ類の寄主で、2026年7月時点で生鮮での輸入解禁品目に入っていない。つまり、ビン氏が売るような生グアバをそのまま日本のスーパーに並べる調達は、いまの検疫制度ではできない。
現実的な入口は加工品だ。冷凍ピューレ、果汁・濃縮果汁、乾燥グアバ、グアバ葉茶などのうち、加熱や十分な加工を経て生果実とは別の状態になった製品は、生果実の植物検疫の枠組みから外れやすい。ただし乾燥品や凍結品は形態しだいで扱いが変わり、植物検疫をクリアしても食品衛生法は別に効く。実際、ベトナム産のライチや一部加工品には輸入時のモニタリング検査がかかった経緯もある。加工品なら無条件で楽、という話ではない点は押さえておきたい。それでも日本でグアバ需要を取りにいくなら、まずは加工原料としての調達が軸になる。認証済みの小規模園地は、そのままでは生鮮輸出に乗らなくても、加工向け原料の供給元としては十分に候補になり得る。原料を供給する農園がVietGAPやOCOPで品質を管理しているかどうかは、加工品の安全性とトレーサビリティを買い手に説明するうえで効いてくる。
いま押さえる産地は、解禁後の先手になる
生鮮の解禁は、輸出国が産地登録・防除体制・処理施設を整え、日本側と協議を重ねて初めて実現する。ドラゴンフルーツもライチも龍眼も、その積み上げの末に解禁された。認証を取り記録を残す農園がベトナム側で増えていることは、将来グアバの生鮮解禁が動いたとき、すぐに供給できる産地の裾野が育っているという話でもある。いま加工原料の商流で関係を作っておけば、解禁後の生鮮調達で先手を打てる。
産地データと調達の要点
| 産地 | ホーチミン市クイドック地区(旧ビンチャン県) |
|---|---|
| 農園主 | グエン・ゴック・ビン(Nguyễn Ngọc Bình) |
| 品種 | 女王グアバ(ổi nữ hoàng)/梨グアバ(ổi lê) |
| 元の土地 | 酸性硫酸塩土(フェン)で稲作不振の田 |
| 栽培 | 牛糞・自然堆肥のみ/生物的防除/自動灌漑 |
| 認証 | VietGAP、OCOP3つ星、2023年 市優秀農産物 |
| 価格 | 女王25,000ドン・梨20,000ドン/kg(固定) |
| 日本への生鮮輸入 | 2026年7月時点で未解禁(加工品での調達が現実的) |
まとめ:加工原料から入り、産地を早めに押さえる
ビン氏の農園が示すのは、米の育たない酸性土でも、品種選びと栽培管理、そして認証で果樹産地に組み替えられるという実例だ。日本の調達側がいますぐ動けるのは生鮮ではなく加工品の側だが、VietGAP・OCOPで管理された小ロット産地が増えている事実は、ベトナム産グアバの供給が量から質へ移りつつある兆しとして押さえておきたい。次の一手として、グアバ加工品を扱う輸出業者に対して原料農園の認証状況とトレーサビリティを具体的に確認し、生鮮解禁を見据えた産地候補としてビン氏のような認証農園をリスト化しておくことをすすめたい。痩せ地を認証産地に変える力を持った農家が、次の調達ルートの起点になる。
参照元:Báo Dân Việt / ベトナム産生果実の輸入解禁状況は 農林水産省 植物防疫所(品目別検疫条件)、JETRO 青果物の輸入規制(ベトナム) を参照。