ラムドン省ナムヌンの農家Mai Hong Quan氏が、老朽化したコーヒー園を矮性品種「Xanh lun(青い矮性種)」へ3年がかりで植え替えている。周囲からは多収の品種を勧められたが、氏は急がず、試験的に植えた木の育ちを見極めてから本格転換に踏み切った。コーヒーは短期作物と違い、品種を誤れば数十年単位の損失を受け入れることになる。日本の焙煎業者にとっては、いま植えられる品種が、10年後・20年後に手に入るベトナム産ロブスタの質を決めるという話だ。
約1,000本を1年以上観察してから本格転換に踏み切った
Quan氏はまず約1,000本のXanh lunを植え、生育の安定性や樹形、揃いを1年以上かけて確かめた。手応えを得たのち1,200本を追加し、いまはさらに約1,800本を植える計画で、合計はおよそ4,000本、園地は約2haに達する。矮性種は樹高が低く、収穫や管理の手間を抑えやすい。標準の植栽密度は1haあたり2,000本超で、成熟すれば1haあたり7〜8トンの生豆収量が見込めるという。多収品種に飛びつかず、まず小さく試して確かめる——この順序が、数十年を左右する改植では効いてくる。
| 段階 | 植栽本数 |
|---|---|
| 初回(3年前) | 約1,000本 |
| 2回目 | 約1,200本 |
| 3回目(計画) | 約1,800本 |
| 合計 | 約4,000本(約2ha) |
コーヒーは翌シーズンに撒き直せず、品種選定が全サイクルを固定する
コーヒーの樹は一度植えれば数十年にわたって収穫を続ける。裏を返せば、最初の品種選定を誤ると、その誤りが樹の寿命が尽きるまで固定される。専門家のPhan Viet Ha博士は、品種選択がコーヒーの生産効率を全サイクルにわたって決めると指摘する。短期作物なら翌シーズンに撒き直せるが、コーヒーではそれができない。老いた作物を別の作目へ切り替える判断はラムドンで珍しくなく、老朽ドラゴンフルーツ畑をパッションフルーツへ転換する事例も出ている(老いたドラゴンフルーツ畑にパッションフルーツ、等級別買取は調達に効くか)。ただしコーヒーの改植は意思決定の可逆性が低い分だけ、品種選定の重みが際立つ。ロブスタの本場ラムドン一帯でも、老朽園の更新期に「どの品種で次の30年を回すか」という問いが同時多発しており、多収を急ぐ農家とQuan氏のように観察を挟む農家の選択の違いが、数年後の産地全体の豆質のばらつきとして表れてくる。
品種の世代交代は価格表に出ない、供給の質の変化として追う
ベトナムは世界最大のロブスタ産地で、日本の焙煎業者にとってブレンドの土台を担う。いま各地で進む改植が、将来のロブスタの質と量を静かに決めている。矮性種への切り替えは、収穫効率や管理性の向上を通じて安定供給の下支えになりうる。中長期で同じ品質のロブスタを確保したい買い手ほど、目先の相場より、産地がどの品種で更新を進めているかを見ておく価値がある。品種の世代交代は、価格表には表れない供給の質の変化だ。高地ではトウモロコシ畑をアラビカに変える動きも各地で進んでおり(トウモロコシ畑がアラビカに変わる、ソンラ高地が拓く豆と果実の調達先)、単価交渉と同じ熱量で産地の改植動向を情報として取りにいく焙煎業者が、数年後に差をつける。
矮性種は省力化と品質の均一化を通じ、焙煎の再現性まで左右する
改植には数年の非収穫期が伴い、産地全体で更新期が重なれば一時的に供給がタイトになる局面もありうる。一方、廃棄されてきたコーヒーの枝葉を資源として活かす動きも出ており(捨てるはずのコーヒー枝葉が資源に、越コーヒーの脱炭素が拓く商機)、品種更新は産地の生産構造そのものの組み替えとして進んでいる。樹高が低い矮性種は機械化・省力化と相性がよく、高齢化が進む産地でも収穫を続けやすい。加えて樹形が揃う品種は、同じ園地から採れる豆の熟度や粒径が揃い、精製工程での品質の均一化につながる。豆が揃えば焙煎側のロースト設計も安定する。品種選定は生産者だけの問題に見えて、焙煎の再現性という買い手側の都合にまで影響が及ぶ。
主力仕入れ先に、主力品種・改植の進捗・非収穫期の計画を尋ねる
産地とのやり取りで確認したいのは、まず主力品種と更新の進捗だ。老朽園の比率、改植中の面積、矮性種など新品種の導入状況を把握すると、数年後の供給像が読める。あわせて、非収穫期をどうつなぐか(既存園との併存計画)も聞いておきたい。単年の契約より、更新サイクルを見越した複数年の関係づくりが、この産地では実利につながる。産地の年齢構成や労働力の確保状況まで踏み込めば、供給の継続性まで読める。