メコンデルタのドンタップ省で、エアコンを回す密閉鶏舎が6万羽を抱えている。国営放送VOVが2026年9月24日に報じたダオタン坊のグエン・ドゥック・ルー氏(通称バイ・ルー、70歳)の3農場は、総面積5,000平方メートル超を常時8人で回し、飼育45日で1羽約3kgに届く。
日本の食品バイヤーや原料調達担当にとって、この1件の意味は農家の成功譚ではない。VOVは、能動的に温度を作る鶏舎と契約企業の出口に支えられた養鶏がドンタップ省の多くの農家に広がりつつあり、ルー氏はその代表例だと位置づけている。ただし日本へ持ち込める形は法令で絞られる。ベトナム産の家禽肉が通れるのは農林水産大臣が指定した加熱処理施設を経た経路だけで、その施設は3つしかない。
ダオタン坊の3農場が空調鶏舎で6万羽、45日で3kgに届く
VOVの取材によれば、グエン・ドゥック・ルー氏はダオタン坊第17街区に住み、3つの養鶏場の管理と運営を続けている。畜産の正式な教育は受けていないが、幼い頃からこの仕事に関心を持っていたと本人は語る。2010年に陸上運送の仕事を離れて養豚に転じ、その後、生物学的安全性を確保した密閉型の養鶏に可能性を見て、冷房鶏舎への投資と企業との契約飼育に踏み切った。現在の規模は3農場・総面積5,000平方メートル超・総飼養数6万羽超。工程を密閉して多くの作業を自動化したため、この規模でも常時雇用は8人にとどまる。鶏舎の床には籾殻を敷き、鶏糞は回収・処理して作物用の肥料として販売する。表彰歴は2014年に首相から生産・経営の優良表彰、2025年に国家主席から労働勲章三級。
地図を開くときは地名に注意が要る。ダオタン坊は2025年の再編まで旧ティエンザン省ミトー市のダオタン村で、同市の4坊・5坊と統合されて現在の坊になった。同年の決議で旧ティエンザン省と旧ドンタップ省も統合され、新しいドンタップ省が生まれている。同じ「ドンタップ」でも、カオランなど果物産地として知られる旧ドンタップの中心部とは別のエリアを指す。
鶏舎の中身は、エアコン、換気ファン、脱臭システムの3点で構成される。鶏舎内の温度・湿度・環境は、鶏の成長段階ごとに合わせて制御される。ルー氏は効き方をこう説明している。「冷房鶏舎は従来型より利点が多い。第一に温度を操作できる。暑すぎれば涼しくし、寒すぎれば暖める。第二に冷房鶏舎では脱臭ファンで臭いが上に抜けるので、鶏舎の周りに悪臭がない。鶏を涼しくしてやれば、鶏はよく食べて早く育つ」
成果として示されるのが飼育日数だ。約45日で1羽3kg前後に達し、契約に沿って出荷される。この速さは同じ坊の住民の証言とも一致する。ダオタン坊のチャン・コン・レン氏は「ほかの人は鶏を4〜5か月育ててから売るが、バイ・ルー氏は45日で出荷する。非常に効率がいい。私は彼の鶏を買って育て続けたことがあり、8kgに達した鶏もいた」と話す。ルー氏が条件として挙げるのは設備ではなく記録と投薬だ。ワクチン接種を厳格に行い、薬は病気に合わせて正しい用量で与える。同時に記録を取って体重を追い、増体量を把握したうえで飼料と薬を調整する。鶏舎の管理と飼育にはデジタル技術も使っている。
Japfaとの契約が種鶏と出口を握る、出荷先はスーパーと工業団地の給食
飼育技術より調達側に効くのは契約の構造だ。ルー氏はJapfaと組んでCoop 500という鶏を飼い、全国のスーパーマーケットと工業団地内の給食向けに食鶏を供給している。契約では企業側が種鶏を供給し、技術支援を行い、産出物を全量引き取る。生産者は販路を探す必要がなく、企業が品質と数量を握る形だ。契約先のJapfaはインドネシア発祥で、1996年にベトナムで飼料・養鶏事業を開始し、自社が操業地域として挙げるのはインドネシア、ベトナム、ミャンマー、インド、バングラデシュの5カ国だ(原文は「マレーシアの会社」と記している)。
ルー氏は契約先との関係をこう語っている。「このモデルは非常に効率的だと思う。外国企業と協力するのも安全だ。会社との契約に沿って信用を守らなければならない。契約に書かれたとおりに実行する」。今後は畜産用に計画された土地を探して農場を増やし、顧問として子どもたちがモデルを発展させるのを手伝う予定だとも述べている。
農場出し31,000〜32,000ドンは1kg約189〜195円
価格と採算の数値を、検算できるものだけ整理する。為替は1円=約164ドン(2026年9月24日)で換算した。ルー氏は時期によってはこれより高く売れることもあると述べている。
| 項目 | 報道された数値 | 円換算(1円=約164ドン) |
|---|---|---|
| 農場出し価格 | 31,000〜32,000ドン/kg | 約189〜195円/kg |
| 1kgあたり利益 | 5,000〜8,000ドン/kg | 約30〜49円/kg |
| 出荷体重 | 約3kg/羽 | — |
| 飼育日数 | 約45日 | — |
| 総飼養数 | 6万羽超(3農場合計) | — |
| 鶏舎総面積 | 5,000平方メートル超 | — |
| 常時雇用 | 8人 | — |
利益率は原文では約10%とされるが、1kg単価と利益幅から計算すると15〜26%になり整合しない。本表はkg単位の数値のみを採った。
1kgあたり189〜195円は、生体を鶏舎から出す時点の価格だ。食鳥処理・加工・冷凍・輸送・検疫対応の費用は含まない。日本の店頭価格と直接比べる数字ではなく、産地側の原価構造を推し量る材料になる。
原文は年商を20〜25 tỷ đồng(約1.2〜1.5億円)としているが、6万羽×3kg×年5ロットで順算すると28 tỷ đồng前後になり噛み合わない。採算は記事の年商ではなく、出荷記録と入金実績で確認したい。
日本に入るベトナム産鶏肉は、加熱処理の指定3施設を通ったものだけ
ルー氏の6万羽はベトナム国内向けで、輸出の話は出ていない。それでも日本の調達担当がこの事例を読む価値があるのは、産地側の生産基盤がどこまで揃ってきたかを測れるからだ。そのうえで、日本へ持ち込む経路は限られている。
農林水産省動物検疫所の家畜衛生条件で、ベトナムは「加熱処理家きん肉等」の区分だけが認められている(2018年5月16日設定)。非加熱の家禽肉を日本へ出せる国・地域にはタイ、マレーシア、シンガポール、フィリピン、ブラジル、米国などが並ぶが、ベトナムはその一覧に入っていない。ベトナム産の鶏肉を日本で扱うなら、加熱処理品であることが前提になる。
その加熱処理を行える工場も指定制だ。動物検疫所が公開するベトナムの加熱処理施設一覧(2025年7月7日更新)に載っているのは、次の3施設のみ。
- KOYU & UNITEK CO., Ltd(ロンビン工業団地、ドンナイ省)
- C.P. VIET NAM CORPORATION – FOOD PROCESSING PLANT HA NOI(フーギア工業団地、ハノイ市)
- CPV FOOD CO., LTD(ベカメックス・ビンフォック工業団地、チョンタン坊/一覧の所在地表記はドンナイ省)
3施設のうち2件はC.P.系だ。うちCPV FOODは、C.P.ベトナムがベトナム初の加工鶏肉を韓国へ送り出したビンフォックの一貫生産拠点と同じ名前で一覧に載る。同社は日本を含む8市場へ鶏肉を出してきたと既報は伝えており、この経路は制度上だけでなく実際に動いている。ただし加熱処理の区分でも、鳥インフルエンザの発生を理由に輸入が停止される場合がある。発注前に動物検疫所の輸出入停止措置情報で当該国の状況を確認したい。
ハイフォンの2.5万羽は地鶏で年2.5回転、ドンタップはCoop 500で回す
当サイトでは2026年7月に、ハイフォン市ニンザン地区の退役軍人が湿地に建てたセンサー鶏舎を取り上げた。ドー・ヴァン・ダン氏の鶏舎はセンサーで温度・湿度を測り、換気ファンが自動で回り、スマートフォンから遠隔で操作する。育てるのは羽色のついた地鶏で、飼育は1回約4か月・年約2.5回転、規模は2.5万羽。提携企業がトラックで現地まで来て全量を引き取る。
ルー氏の鶏舎は、エアコンで室温そのものを作る。換気で環境を均す構成と、冷房で気温を作り替える構成では、鶏舎に入る設備が違う。飼育日数が45日と約4か月で3倍近く開くのは鶏舎方式ではなく品種の差で、速く育つCoop 500と、飼育期間の長い地鶏との違いだ。ただし発注のリードタイムには直接響く。
産地の素性という点では、同じドンタップ省の果物側が先を行っている。省内のマンゴーでは1万30.17haに353件の産地コードが登録され、コード番号と認証区分がそのまま買い手のトレーサビリティ書類になる。畜産側でその役割を握るのは契約企業で、農場を単体で見るより種鶏と技術と買取を抱える企業ごと評価する順序になる。産地としての厚みを測るなら、次に確認するのは1軒の羽数ではなく、同じ契約網に何軒が入っているかだ。
参照元
- VOV「Một nông dân tỉnh Đồng Tháp làm giàu từ nuôi gà trong “phòng lạnh”」(2026年9月24日)
- Kinh tế nông thôn(同記事のVOV転載・2026年9月24日)
- 農林水産省動物検疫所「家きん肉等の家畜衛生条件」(2018年5月16日設定)
- 農林水産省動物検疫所「ベトナム(家きんの加熱処理肉等)」指定施設一覧(2025年7月7日更新)
- Japfa「Regional Network」(操業5カ国)
- Japfa「Our History」
- Wikipedia「Đạo Thạnh」(2025年の省・坊再編)
- ExchangeRate-API(2026年9月24日の円・ドン相場)